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「……一之瀬?」
一之瀬の漆黒の瞳に見つめられた私はその視線に囚われ、逸らせなくなる。
こんなにも真剣な表情で見つめられたのは初めてで恥ずかしいのに、どうすればいいのか分からない。
「あの、一之瀬――」
名前を呼んでも答えない彼に再度声を掛けた、次の瞬間、
「お礼、何でもいいんだよな? それなら……いい加減、他の男なんかじゃなくて俺を見ろよ――俺はお前を、ただの仲の良い同期、だなんて見てねぇよ?」
そんな台詞を口にしながら、私の上に跨って来る一之瀬。
「え、……ちょ、待っ……」
突然の事に迫って来る一之瀬の身体を咄嗟に両手で押し退けようとしたのだけど、
「やっ……」
両手首を掴まれた私の腕はいとも簡単に押さえ付けられ、まるでシーツに身体を貼り付けられてしまったかのように身動きが取れなくなった。
「お前、俺の事異性として意識し無さ過ぎ。俺も一応男だからさ、いい加減理性保つの辛いんだわ。こんな無防備な格好でいつまでも居るしよ……」
「……ッ」
そう言いながら一之瀬はどんどん顔を近づけて来る。
(え? 何これ? 一之瀬って、私の事、好きだったの? 全然、そんな素振りなかったよね?)
私は訳が分からなくて、ただただパニック状態。
でも、このままでは危険だと判断し、
「ま、待って! あの、ごめんっ、私……」と、とにかく今は一旦離れて貰おうと思って口を開いたものの、
「何だよ? 言いたい事があるなら言ってみ?」
「……ッ」
鼻先が触れそうな程に近付けられた顔に戸惑い、私はそれ以上言葉を紡げなくなってしまう。
(嘘でしょ? このまま、一之瀬に、キス、されちゃう?)
だけど不思議と、不快感とか嫌悪感は無い。
普通こんな風に乱暴に押し倒されて迫られたら、いくら知っている人だったとしても好きな相手で無ければ嫌な気持ちにくらいなる筈なのに。
(……何で? もしかして私、一之瀬になら、こうされても良いって、思ってるって事?)
酔いは冷めた筈なのに、頭の中はぐるぐる回っているし、身体はどんどん熱を帯び始めている。
私の中で何も答えが出ず、言葉を発する事が出来ないでいると、
「悪いけど俺、もう『ただの同期』辞めるわ。俺の事何とも思ってないなら、何か言って? 言わないなら俺の都合の良いように解釈する」
そんな宣言をすると共に、私に答えを迫ってきた。
「そんな事……急に言われても……」
「難しい事は聞いてないつもりだけど? 本條にとって俺は、ただの同期のまま? それとも、可能性ある? 期待して良い?」
戸惑う私に尚も答えを迫る一之瀬。
ただの同期かと聞かれると、それとは違うような気がするけど、恋愛対象かと聞かれても素直に頷ける気もしない。
だけど、もしここで「ただの同期」と答えた場合、一之瀬とはもう言い合いをしたり、ご飯を食べたり、飲みに行ったりする事は出来ないと直感する。
(……それは、嫌だ……)
何だかんだでいつも側に居て、当たり前のように言い合いをする時間は心地が良い。
それが無くなってしまうのは絶対嫌だったから、
「……私だって、一之瀬の事……ただの同期だなんて……思ってない……」
気付けば、そう口にしていた。
「この状況で拒みもしないどころか、そんな答えを出したお前が悪いんだからな?」
「……ッ」
言いながら右手を離した一之瀬は、その手で私の頬に触れた後で顎を軽くち持ち上げると彼の顔が再び迫り、
「――ッん、」
そのまま唇を塞がれた。
手を掴まれていたとは言え、答えを迫られた段階で力は緩んでいたから抵抗しようと思えば出来たし、もっと別の答え方があったと思う。
拒まなかったのも、期待させるような答え方をしたのも、キスを受け入れたのも、全ては私の意思。
もしかしたら私は、心のどこかで一之瀬のこうなる事を……期待していたのかもしれない。
「……っんん、……はぁっ、んッ」
初めは啄むような軽い口付けだったのに、私が拒まず受け入れていると分かったからか、それは徐々に激しさを増していく。
お酒なんて残っていない筈なのに頭はフワフワするし、頭のてっぺんから足の爪先まで、全てが熱を帯びているように熱い。
「……その表情、エロ過ぎ……普段からキスだけでそんな風になるんだ?」
「……ッそんな、こと……っ」
「これまでの男相手にもそんな顔してきたのかと思うと、スゲェ嫉妬する」
ようやく唇を離されるも、一之瀬の言葉と獲物を捉えるような鋭い視線に見つめられると鼓動は更に速まっていき、この先に何が起こるのかを密かに期待している自分がいた。