#17 夜がすべての虚栄を測る
古びた宿屋の奥、ほの暗い明かりの中に、異形の寝台がひっそりと置かれていた。鉄と革で組まれたその寝台は、長さも幅も自在に変わるらしく、町の人々は恐れて近づこうとしなかった。誰も知らないが、そこに横たわる者は、自分の心の真実までも測られるという。
「この寝台には…約束が必要です」
宿屋の主人は、無表情ながらもどこか陰影の深い声で告げた。彼の目の奥には、長年その寝台を見守ってきた疲労と恐怖が混ざっている。
「約束…ですか?」旅人は声を震わせながら訊ねた。
「ええ。身の丈に正直であること。心に偽りを持たず、誇張も隠蔽もせずに横たわること。寝台は、それを許さない」
旅人は薄く笑い、思わず口にした。「身の丈に正直になる…なんて、面白いピーポー」
主人は軽く息を吐いた。言葉にした瞬間、空気が少し震えたように感じられた。
旅人は恐る恐る寝台に横たわった。最初は普通に感じられたが、次の瞬間、寝台は彼の体に合わせてゆっくりと伸び始めた。背中と足先を包み込む鉄と革の感触は冷たく、鋭く、まるで彼の体を無理やり「正しい形」に押し込むかのようだった。
体が伸ばされる感覚は、ただ物理的なものだけではなかった。胸の奥、心の奥底に隠していた虚栄、過去の見栄や恐怖、言い訳のすべてが、ぎしぎしと締め付けられるように痛む。まるで寝台そのものが、彼の魂にまで手を伸ばし、無理やり形を整えようとしているかのようだった。
「…どうです?」
主人の声が耳元に響く。
「…痛みは、嘘をついた者のものですか?」旅人は震える声で訊ねた。
「いいえ、痛みは正直でない者の心に宿るだけ。正直であれば、体も心も、寝台にぴったり収まるだけです」
旅人は目を閉じ、自分の心の嘘と真正面から向き合った。弱さも誇張も、すべて認めて受け入れた瞬間、寝台は静かに縮み、彼の体を完璧に包み込んだ。冷たさは残るが、痛みは消え、まるで寝台が彼自身を「承認」したかのようだった。
翌朝、旅人は立ち上がると、宿屋の主人に深く礼を言った。「あの寝台…まるで自分の嘘と虚栄を削ぎ落とされた気分です」
主人は静かにうなずいた。「ここでは、誰も偽れない。約束を守る者だけが、痛みを越えて外へ出られるのです」
旅人は荷物を背負い、宿屋を出た。振り返ると、暗い窓の奥で主人が立っている。その背後には、まだ冷たく光る異形の寝台がひっそりと佇み、次に誰が横たわるのかを待っているかのようだった。






