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とうとう部屋に入ってきたディアは、目の前の光景に目を丸くする。
当然の反応よね。
私の部屋には衣服が散らかっていて、私はトランクに荷物をパンパンに詰めている。
「あなた、何をしているの?」
「そ、創造神に…会いに?」
恐る恐る言うと、ディアは心底呆れたように、大きくため息を吐いた。
「あなた一人でゲートが開くとでも?」
「当然。私は主人公だもの。第一作のね!
なんだってできるわ!」
手を大きく広げて、自信たっぷりの笑みを見せつけた。
するとディアは、小さく笑ってこういった。
「メシア、私が会議室で言いかけたこと、覚えているかしら?」
「説教なら散々聞いたわ。私が幼すぎるんでしょう? でもね、私は_」
私の口に手を当てて、言葉を遮る。
ディアの顔を見ると、彼女は笑っていた。
今まで見たこともないくらい、優しく微笑んでいた。
ぽかんとする私に、ディアはこう続ける。
「許可すると、言いたかったのよ。
こうして見ると、あなたは随分大人びたものね。」
「私に秘密で計画を実行するくらいには」と笑いながら言った。
「なんですって?」
頭の中が真っ白になる。
ディアは今、なんて?
許可します?許可?!
「ありがと、ありがと、ありがと!」
ディアの体に飛びつきながら、最大級の感謝を伝える。
これでもまだ足りないくらい、ディアには感謝しているし、ディアのこと、大好き。
「さぁ、ゲートを開く前に準備があるでしょう?」
「準備? 洋服ならここに沢山あるのよ?」
「こんな服装で、創造神の世界に行くことは許しませんよ。」
「えぇ?どうして?」
ディアが指をパチンと鳴らすと、見たこともない洋服があらわれる。
「何よこれ。」
紺と白で構成された洋服。
胸元には赤いリボンが付けられている。
「創造神の通う、学び舎の制服です
基本はこれを着て過ごしなさい。転校生として、創造神に近づいてもらいます。」
「そんなこと、できるの?」
「えぇ。手続きは済ましてあるわ。」
もう一度、ディアが指を鳴らす。
すると、不思議な洋服、“制服”は綺麗に畳まれて、トランクの鍵がガチャりと閉まる。
「それから、名前と、見た目も。どうにかしないとダメよ。」
「えぇ?」
ディアが言うには、「メシア」なんて名前、向こうの世界には居ないんですって。
海外から来たっていう体じゃダメなの?
それとも、海外にもそんな名前ない?
「元々は、海外から来た転校生、という体にしようとしたの。」
「でも」と付け足して、苦笑いをした。
「使いの者が、手続きを間違えてしまって。」
「使いの者?」
「荒くれ者よ。」
「あぁ…。」
私はガックリと肩を落とす。
何してるの、あの人たち。
「それで、新しい名前って?」
ディアがにっこりと笑って、教えてくれた名前。
それは、空螺(そら)という名前だった。
「そんな名前、どこから…。」
「これよ。」
そう言ってディアが差し出したのは、1冊の分厚い本だった。
そこに記されていたひとつの名前、それが空螺だったのだ。
「これは、創造神のアイデアノート。
あなたの名前を決める際に、記録していたものよ。」
「私の、名前。」
「そう、だから貴方は“空螺”と名乗りなさい。
創造神が、あなたに近づく手がかりになるかも。」
「そうするわ、ありがとう。」
***
その後、ディアからは諸々の諸注意を受けたあと、とうとう出発の時がやってきた。
「本当にあなた一人で大丈夫? 」
「何言ってるの、大丈夫に決まってるわ!」
少し寂しそうな顔をしたディアは、私を抱きしめた。
私もディアを抱きしめる。
「行ってくるわ。」
「えぇ、気をつけるのよ。何あったら、いつでも帰ってきてちょうだい。」
ディアがそっと手をかざすと、何も無かった空間に、ひとつの裂け目が現れた。
「さよなら!ディア!また会いましょ!」
潤んだ瞳で微笑んだディアが、何かを言っていたけど、裂け目に半分以上身を預けていた私は、ほとんど聞き取ることができなかった。
口の動きで聞き取れたのは、
「頑張ってね」という言葉だけ。
聞き返そうとしても、時すでに遅し。私の体は、ディアの開いた裂け目に飲み込まれていった。
ディア、任せて。私が、リーヴルを救ってみせるから。