「何言ってんだお前」
ありえない
そんな目で彼は俺を見つめる
「だって」
「俺はお前をこのまま見捨てられない!」
こんなのは偽善だってわかってる
馬鹿なことだってわかってる
意味が無いことだってわかってる
けどそれでも
お前の気持ちを軽くできるなら俺は、
「やめてくれ。これは俺の責任なんだ…」
「犯罪者に居場所なんてない。俺と一緒にいたらお前まで、」
「お前まで居場所を失ってしまう…」
それだけは嫌なんだ
彼はそう言った
知っていた
彼は自分より他の人を優先する優しいやつだって
だから
そんなお前にこんな事させたこの世界が嫌いだ
「俺はそれでもいいよ」
「こんなに優しいお前がこんな事を起こしてしまう世界に俺がいたらもっと凶悪犯になるよ」
思わず笑ってしまう
うん、きっとそうだ
お前より優しくない俺はきっと凶悪犯になってしまう
結構この世界から逃げる選択肢を選ぶだろう
なら
お前と
きんときと一緒に逃げたいと思ってしまった
「nakamu…」
「悪いけど、止められても行くから」
もしお前が俺の立場なら同じ行動するだろ?
彼は納得してないようだった
だけど俺を止めるのを諦めたかのようだった
俺たちはその日のうちに家を出る準備を整えた
「必要なものって何があるかな」
きんときがそう呟いた
「必要なもの、かぁ…」
よく分からなかった
この世界から逃げるのに必要なもの…
逃げるんだから何を持っても無駄だろう
何を持っていってもそれは価値をなさない
俺たちがやろうとしていることはそう言うことだ
「とりあえず財布は持っていこう」
彼はどこまで行っても律儀だなぁと思った
どうせ何を犯しても俺たちに帰れる場所なんてない
なら犯罪を犯すことに抵抗なんてない
お金なんて必要ない
盗めばいい
どうやらそんなこと考えていたのは俺だけだったらしい
ほんと俺は…
性根が腐ってるなぁ…
どうせならきんときじゃなくて俺がいじめられたら良かったのに
どうせなら俺が嫌われればよかったのに
どうせなら俺が、人を殺せばよかったのに
そう思ってしまうほど彼はいい人だった
「じゃあ俺は、」
何を持っていこうか
彼をこの世界から守れるもの
「ナイフでも持っていこうかな」
ボソッと呟いた言葉に彼は何も言わなかった
必要なものを探していたらとある日記を見つけた
それは6人でやっていた交換日記だと言うことに気がついた
「ねぇきんとき懐かしいもの見つけた」
そう言うと彼は不思議そうな顔をしてこっちに近づいた
「これ、交換日記か?」
日記を見て確信したかのように呟いた
「そうそう」
「ここなんか見てみろよ」
そう言って彼は笑う
心底楽しそうに
きっとここから出ていったらこの笑顔もそう見れなくなるだろう
俺もきっと上手く笑えない
彼らがいないから
どうせなら、みんなと…
逃げたかったなぁ…
後悔はあった
ずっとみんなと一緒に居たかった
懺悔があった
勝手にここを出ていったことに
だけど
もうここには居られないんだ
もう思い出したくない
そう思って勢いよく日記を閉じた
「どうした?nakamu」
彼が驚いた顔で俺を見つめる
「やめよう、」
「固まったはずの決意が揺らいじゃうから」
そう言って笑ったはずなんだけど
俺は上手く笑えていたかな
笑わなければならない
ここで暗い気持ちになってしまってはならないって分かっているはずだけど
どうしても、
上手く笑えない
「nakamu」
「もう思い出なんて燃やそう」
もう二度と思い出せないように
もう二度とここに戻りたいだなんて思わないように
彼はそう言った
俺はそれに同意した
梅雨時のある暑い日のこと
俺たちは何もかもを捨ててこの世界から逃げ出した
【続く】
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