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暑い夏の日
どうやら今日は猛暑日らしい
滴る汗を拭いながら山道を登る
目的地なんてない
何をしようかなんて考えてない
けれど歩かないといけないと思ったから
この世界の手が届かない場所に行かなければならないと思ったから
俺たちは必死に足を動かしている
「暑いな…」
きんときがぼそっと呟いた
「そうだな、熱中症になってもおかしくない」
今生きてること自体が奇跡みたいなものだ
逃げ出してから1週間
食品は最低限の物しか買ってなくて
水も少しずつ飲む程度だ
それでもお金は少しずつ減っていってこのままだとあと1週間続くかどうかも怪しい
お金が無くなったら次は盗みかな…
なんて考えていたら前を歩いていたきんときが急に足を止めた
「どうした?」
「ん〜ちょっと疲れたな〜!」
そう言って彼は背筋を伸ばす
けれど彼には疲労の色が見えなかった
嘘だ
それが嘘だということは一目瞭然だった
そもそも彼は体力だったら人並み以上にある
俺より先にバテることなんて無いだろう
それでもこんな嘘をついたわけは…
きっと俺を気遣ってくれたんだろうな
なら少し彼の好意に甘えることにした
「俺も疲れたぁ。あそこにベンチがあるから座ろうぜ」
俺はそう言って少し奥にあるベンチを指さした
老化が進んでいてきっと何年も誰も座っていなかったであろうそこは俺たちを待っていたかのようにぽつんと置かれていた
「そうだな」
彼も賛成してそのベンチに座る
そこから見えた世界は街の灯りなんてなくただ永遠と森が広がっているだけだった
その景色さえ
その風景さえ
俺達には綺麗に思えた
「本当に全部置いて言ってしまったんだな」
彼がぽつりと呟いた
体感がなかった、と言えば嘘になる
だけど心のどこかで確かにって思ってしまった自分もいる
1人だったら孤独を感じていただろう
だけど俺の隣には君がいて君の隣には俺がいた
だからかいつもと変わらない日常だと思い込んでしまっていた
俺たちは全部捨てたんだ
ぶるーくもシャークんもスマイルもきりやんも
お母さんもお父さんも
全部全部全部
俺達に関わるもの全て捨てて来たんだという事に今更ながら気づいてしまった
そこに襲ってきたのは酷い孤独感だった
「あぁ、もう二度と会ってはいけないんだ」
そう言葉にした時思わず涙が出そうになる
未熟さに打ちのめされる
覚悟が甘かったわけじゃない
こんなこと考えなかったわけじゃない
だけどいざ激突してみるとやっぱり俺は未熟で
やっぱり俺は意気地無しだった
きんときが犯罪を犯してなかったら今頃
みんなと笑えていたのかな
頭に浮かんだその考えに思わずゾッとしてしまう
自分でついてきた癖になんでそんなこと考えるんだよ
おかしいだろ
そんなこと考えるのはやめろよ
「きんときは何も悪くない」
「nakamu?」
自分に言い聞かせるようにそう言った
「人殺しなんて沢山いる」
「みんな、人の気持ちを殺して、殺されて、それでも、生きている」
息が続かない
ぽたぽたと落ちるこれが汗じゃないことも知っている
「きんときだけじゃない」
「きんときは、悪くない、!」
そうだよね
きんときが悪いんじゃない
きんときに人殺しなんてさせたこの世界が悪いんだ
沢山人殺しを産んでいるこの世界が悪いんだ
「だから、大丈夫だよ」
彼の澄んだ目を見つめる
手と手が一瞬だけ触れた
少し、ほんと少しだけどきんときの手が震えているような気がした
本当ならここでなにか言うべきだったかもしれない
だけど意気地無しの俺は何も言えなかった
なんの言葉も出なかった
あの時、俺は君の手を掴めば良かったんだ
そう今でも後悔している
【続く】