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前回の続きです。烨霖の過去がずっと小出しにされてますがそろそろ全部出したいな、と思っています、、、。
ではどうぞ。今回は阿和いつもよりも沢山喋ります。
第14話【酒に焦がれて】
「何鋒煜殿、戻りました」
部屋を開けるとそこには既に眠った龍洋しか居らず、机には1つの置き手紙が置いてあり、店から湯や他の布団を持ってくると書いてあった。
烨霖はふいに寝込んでいる龍洋の眉間に皺が溜まっていることに気が付き、傍によって頭を軽く撫でる。
前世、まだ連れてきたばかりの頃はよく、家族のような場所を失った時の悪夢に魘されていた。その時も今のように頭を軽く撫でればその悪夢は和らぐ事が多かった。こうしているとまるで前世のあの時に戻ったかのような錯覚を覚えさせ、烨霖の目が優しく和らぐ。
するとふと、龍洋の口から弱々しい声が吐き出される。
「、、、し、けい、、、師兄、、、どうして、、、」
龍洋の夢の中では、失った家族の夢ではなくあの日、今まで尊敬していた。親のように思っていた人が変わった時の情景が蘇っていた。
龍洋達は遠征から帰っていた道中、血相を変えて走ってきた門弟から門派で陳烨霖が殺戮を行っている。という知らせを受け、そんな訳がない、と信じながら冷や汗を流し、急いで走って門派へと戻ってきた。
だが既に門派は血の海と化していて、何もかもが遅く、烨霖は血の海の中で他の門弟達と剣を交えていた。だが剣仙と言われた烨霖に他のしがない門弟が敵うはずもなく、それはもはや虐殺に等しかった。
そんな状況も構わず龍洋は顔を悲痛に歪ませ、大声を上げてすぐさま烨霖の方へと飛び出す。
「師兄!!!何故こんな事をして!?ご自分が何をしているか分かっているのですか!?」
龍洋の声に反応し、烨霖の手が止まる。
「、、、龍洋、、、」
自分の名を呼ぶその声はいつもの師兄で、泣きそうな程に優しかった。だが、そんな師兄の雰囲気はまるで別人になったかのように次の瞬間には消え失せ、師兄の口からは憎悪の込められた言葉が吐き出される。
「何をしているか?何故そんな愚問なことを聞く?」
「この醜い人の皮を被った者達を、清めているだけだ、それに理由なんて必要か?」
「普段、他の門派の門弟共や魔族を殺しているのと何が違う?」
その言葉は今までの師兄からは絶対口にされないようなものばかりだった。自分達が今まで尊敬してきた師兄が居なくなるのを恐れた龍洋は諦めずに掠れた声で叫び続ける。
「違いますよ!!それに、あなたは、、貴方はそんな事を言う方ではなかったじゃありませんか!!誰にでも寛大で、どれだけ妬まれようとも噂を立てられようとも門派を愛していると、、、」
「貴方は今、その門弟達を、、っ!!」
その後に続く言葉は烨霖がふと振り向いた事で、詰まって出てこなくなる。
なんだ?これは、本当にあの師兄なのか?いや、違う。そんな訳がない本当に師兄なのならなぜ、、、何故笑っているんだ?こんなものが、こんな奴を僕は今まで、、、慕ってきたのか?
龍洋の瞳に涙が溜まり、頭を抱える。
烨霖は憎悪に焼かれた声を出す。
「ははっ!!そうか、そうか、愛す、、、か、こんな門派、愛す価値などなかったというのに、、、」
そう言われ、未だに現実の受け止めきれない龍洋は既に息も荒くなっていて、視界も揺らぐ中で叫び続ける。
「師兄!!もしや、誰かに操られているのですか!?じゃなければこんな、、、」
これはもはや龍洋自身の願いのようなものだった。
だがその願いを烨霖は容赦なく踏み潰す。
「黙れ!!!龍洋、悪い事は言わない、今すぐここを離れろ!!死にたいのか!?」
「嫌です!!師兄!!僕は!! 」
「駄目だっ!!阿洋っ!!!」
龍洋が一歩踏み出した時だった。いきなり何鋒煜が前に現れ、その背中からは鮮血が吹き出す。
元々龍洋よりも体力が低く、遅れてこちらまで来ていた何鋒煜は烨霖と話し、精神が消耗していた龍洋よりも素早く烨霖の斬撃に反応することが出来たのだ。
自分を庇った何鋒煜を慌てて抱き留め、その背中から流れるおぞましい量の血を眺めて龍洋は確信した。元から優しい師兄なんて居なかったのだと。全部嘘っぱちだったのだと。じゃなければ、何故自分の師弟にこんな真似ができるというのか。絶望、憎悪、悔しさ、様々な悪い感情が湧き上がっていく。
「あ、阿洋、、、師兄は”、、」
口から血を流しながら何鋒煜は未だに師兄を求める。龍洋はそんな残された唯一の家族の痛々しい傷を必死に塞ぎながらこう告げる。
「駄目だ、喋るな、師兄は、、、僕達の師兄はもう居ないんだ」
その声も、身体も、全てが震えていた。何鋒煜の顔に龍洋の涙が滴り落ちる。
次の瞬間、2人の少年の泣き声が響く。まだせいぜい15歳の少年達には我慢出来ないほどの苦痛。いくら情けなくとも泣くのを我慢するなんてできるわけがなかった。
烨霖はその様子に目を見開き、手を伸ばそうとする。だが自分の手は意思に背き、愛しい師弟を切りつけた剣を握り続ける。そんな自分の身体に深い憎しみを抱きながら結局は何も出来ずに血が出るほどに唇を噛み締め、烨霖はゆっくりとその場から離れて行き、その後、相見える事はなかった。
「師兄、、、しけい、、、」
烨霖はいつの間にか龍洋の手を強く握りしめ、顔を寄せていた。
嗚呼、嗚呼、何故こうも苦しませなければならない?守りたいと思っていた。幸せになって欲しいと願っていた。なのに、そう思い、助けた人々は誰一人として、幸せになんかなってないというのに。最初から何もしなければ、このような苦しみを与えることなどなかったのではないのだろうか。
烨霖は掠れた声を出す。
「すまない、、、すまない、、、」
だがその声が龍洋に届く事はなかった。
そして、いつの間にか居なくなっていた阿和は部屋の外から扉を開け、酒瓶と杯を持って戻ってくる。
「私はまだ酒を飲んでおらぬ。付き合ってはくれぬか?」
烨霖はその誘いに迷うことなく乗り、龍洋に1夜だけだが悪夢を閉ざす術をかけると阿和と共に屋根の上へと移動した。
外は既に夜の帳が下ろされ、闇夜には月がその存在を誇張するかのように強く輝いていた。見たものが足を止めるほどにその月は美しくて見飽きることはなく、肌を撫でる涼しい風が熱の篭った身体を冷まし、鼻を刺激する草木の瑞々しい香りが心地いい。まさに酒を飲むのにピッタリな夜だ。
阿和に酒の入った杯を渡され、烨霖はそれを快く受け取り、乾杯する。
喉を通る酒は軽く焼くような刺激を催す、だがその刺激が癖になるのが酒だ。あっという間に空になった杯に残ったまばらな水滴が月の光を反射し、星のように煌めく。
「久しぶりだな、こうして誰かと酒を飲むのは 」
「私は今日が初めてだ」
「そうなのか?ははっ、それはいい!人と酒を飲むのはいい気分じゃないか?」
阿和は烨霖を見つめながらゆっくりと酒を喉に通す。
そしてまるで周りに花が舞いそうなほどに柔らかく、優しい笑みを浮かべる。
「、、、嗚呼、良いものだ、、、」
「それは良かった、」
「ところで君は酒は強いほうか?」
「、、、残念だが私は酒で酔わないようだ。」
その瞳はどこか寂しげに揺らめく。だが、それに烨霖が気付くことはない。
「え、そうなのか?ただ強いだけじゃなくてか?」
「とうに昔の事だが、私が随分と荒れた時、ありったけの酒を飲んだが酔うことは決してなかった。」
「荒れた、、、そういえば、洞窟で走化入魔に陥っていたが、どうしてあんなに、、、」
「あの時は敵から襲われ負傷していた。それに伴って走化入魔に陥ったのだ。」
「そうか、へぇ、、、魔族も大変だな、魔族というだけで忌み嫌われ剣を向けられる。」
「私は気にしたことはない」
阿和がキッパリとそう告げる。普通、生きていく中で誰からも剣を向けられるのは堪えるものだ。
「それはどうしてだ?私なら耐えきれないのに!」
阿和の表情が和らぎ、微かな笑みを浮かべる。
「例え、この世の全てに忌み嫌われようと、たった一人が私を受け入れてくれるのならば大したことでは無い。」
そう言われ、烨霖の頭の中では恐らく阿和の想い人である”あの人”が思い起こされ、言い表せぬ複雑な感情が湧き上がる。
「、、なぁ、あの人っていうのは、、君の想い人なのか?」
恐る恐る阿和の方を見れば、予想外にもその顔は無表情でぽかんとしており、言葉の意味が分かっていないようだった。
阿和が口を開く。
「想い人、、、私は、彼が好きなのか? 」
まさかの回答に烨霖は目を見開く。前から少し何処かの感情が欠落しているとは思っていたが、、、まさか好きという感情も知らないのか、、!?
戸惑いながら烨霖は答える。
「いや、わ、分からないが、、、その、、、好き、なんじゃないか?だってそこまで想っているのに、、、」
「だが、彼は誰にでも優しく、想っていた、それとはまた違うのか?」
「それは愛には様々ある、親愛、友愛、愛情」
「そして誰にも渡したくない、自分だけを1番想っていて欲しいと想うのが、、、恋だ。」
「例えどんなにその人が醜くても、支えてあげ、傍に居るのが愛だと私は思う。」
だが烨霖は知っていた。これは夢物語に過ぎず、本当にこの言葉のように己の愛を貫ける者は数少ない事に。
本当に相手の恋路を応援したいならば最後の言葉は言うべきではなかった。これは、相手の意志を揺るがせるものだからだ。何故自分がそう口走ってしまったかは分からない。ただ、いつの間にか口をついて出てしまっていた。
あまりにも自分のした事が恥ずかしく卑劣な行為だと気付き、慌てて訂正する。
「す、すまない、今のはその、、」
「好きだ」
烨霖は己の耳を疑い、阿和の顔を凝視する。
「なん、、、て、、、」
「それが本当に恋だと言うのなら、私は間違いなく彼が好きなのだろう。」
「、、、、そ、そうか!!それは良かった!!あはは!」
自分は、、、今何を考えたんだ!?自分が好きだと言われたと思ったのか!?なんて言う自惚れだ、、!!恥知らずめ!!
烨霖は心の中で自分を勢いよく罵り、その顔は恥ずかしさのあまり赤く染まっていた。
今すぐにでもここから消えてしまいたい、そう思っていると天の助けかのように下から何鋒煜の声が聞こえてくる。
「お2人共!!そこに居たんですね。今宵は冷えますのでもう中に入ってはどうでしょうか?」
ほんの一時でもここに居たくなかった烨霖はすぐさま呼び掛けに応じる。
「そ、そうだな!!ありがとう!!」
「阿和、先に戻っているよ!酒を勧めてくれて感謝する!」
「、、、嗚呼、私も、感謝する。」
颯爽と部屋に戻って行く烨霖の背中を見据えた後、阿和は衣服の中に隠していた銀の仮面を取り出す。
仮面の目の部分に嵌め込まれた珊瑚珠が月光に反射し、美しく煌めく。この幸福が、この先ずっと続く事を胸の内で願い、阿和は酒瓶を残りをゆっくりと飲み干した。
第14話【完】
ここまで見て下さりありがとうございました。
何か不手際があったら申し訳ありません。これからもどうぞよろしくお願い致します。
ではまた次回。
コメント
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うわ、この第14話、胸がぎゅっとなったよ……。龍洋の悪夢で蘇るあの日の光景、特に何鋒煜が庇って刺される場面は読んでて息が止まった。あの時の烨霖は操られてたのか、それとも本当にあの言葉の通りだったのか——でも頭を撫でる手は昔と変わらず優しくて、そのギャップが切ない。 屋根の上で阿和と酒を酌み交わすシーンは、静かで美しいのに烨霖の内心が大忙しで可愛くて笑った。「想い人」「好き」の話でまさかの頓珍漢な反応、そして自分が言われたと錯覚して赤面するところ、めちゃくちゃ人間臭くて好きだよ。阿和の「私は彼が好きなのか?」も、無自覚なのがまた……今後の展開が気になる。