テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
♥️さんが少し弱ってます
深夜2時過ぎ、スマホの通知音で目が覚めた。
ぼんやりと画面を確認すると、そこには元貴からの短いメッセージ。
「来て」
たった二文字。
でも、それがどれほど重いものか、僕には痛いほどわかる。
普段の元貴は強がってばかりで、自分の弱さをほとんど見せない。
でも、たまにこうしてSOSのようなメッセージが届くことがある。
以前は若井と2人同時に呼ばれ、元貴の気が済むまでゲームをして、穏やかな顔になったのを見届けてから帰っていた。
僕が元貴に告白されて、3か月ほど前から付き合い始めたとき、若井はこう言った。
「これから元貴のことは、涼ちゃんに任せるから、頼むね」
それ以来、元貴のSOSに答えるのは僕だけの役目になった。
それでも大体は「今から来てもらえる?」というような、僕を気遣うメッセージが多い。
なのに、今日は「来て」のひとことだけ。
……こういう時の元貴は、限界なんだ。
誰にも言えない苦しみを一人で抱え込み、壊れる寸前なんだ。
僕の中の何かが警報を鳴らした。
早く元貴のそばに行かなきゃ……考えるより先に、身体が動いていた。
「わかった。すぐ行く」
そう返信してパーカーを羽織り、財布とスマホだけをポケットに突っ込んで家を飛び出す。
夜の空気は蒸し暑く、汗がじっとり滲んだ。けれど、それすらも気にならない。
元貴のマンションに着いてエントランスで部屋番号を押すと、返答はないままオートロックが解除された。
エレベーターに飛び乗り、元貴の部屋がある階で降りる。
ゆっくりとドアが開くまでの時間がもどかしい。
インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。
彼は、薄暗い玄関の中に立ち尽くしていた。
電気も点いていない部屋の中、その表情はひどく疲れ果てていて、まるで影のようだった。
「ごめん、こんな時間に……」
震える声でそう言って目を伏せる元貴を、僕は何も言わずに抱きしめた。
「大丈夫だよ。僕はここにいるから」
頭を撫でて、そっと胸に引き寄せると、彼の手が僕の背中にしがみついてきた。
この瞬間だけは、何も強がらなくていい。
そう伝えるように、ただ黙って抱きしめ続けた。
元貴に手を引かれてリビングのソファに座ると、彼は僕の膝に頭を乗せてきた。
ぎゅっと服の裾を掴む、僕より小さな手。
まるで迷子の子どものようだった。
普段の彼からは想像もできない甘え方だけど、こんなふうに無防備でいられるのは、きっと僕の前だけなんだろう。
「眠れないんだ……」
「うん、わかってる」
僕はただ、彼の言葉に相槌を打つ。
慰めも励ましもいらない。
ただ、彼のそばにいる……それだけでいい夜もある。
「俺さ、なんで生きてるんだろうって、たまにわからなくなるんだ。
仕事でどれだけ頑張っても、たくさんの人に評価されても、一人になると、どうしようもなく虚しくなる」
その声は、どこまでも静かで、切なかった。
胸の奥を掴まれるような痛みに襲われる。
元貴は、誰よりも頑張り屋で、優しくて、不器用なほど真面目な人だ。
でも、そういう人ほど、ふとした瞬間に崩れてしまう。
他人の期待に応え続けるあまり、自分を見失ってしまう。
「元貴が頑張ってること、僕も若井もちゃんと知ってるよ。元貴がどんなにすごい人か、僕たちは誰よりもわかってる。だから、一人で頑張ろうとしなくていいんだ。辛いときは、もっと頼って。どんなときでも、僕たちは元貴の味方だから」
髪を撫でる手に、優しさを込める。
僕の言葉が、少しでも彼の心に届けばいいと願いながら。
「りょうちゃんの身体、ポカポカしてる。なんか、すごく安心する……」
その呟きを最後に、元貴は静かに目を閉じた。
ようやく訪れた穏やかな呼吸。彼の肩の力が抜けていくのがわかる。
僕はそっと立ち上がり、眠る彼を抱きかかえて寝室へ運んだ。
ベッドに寝かせて、彼の額にキスを落とす。
「おやすみ、元貴。ゆっくり休んでね」
明日、彼が少しでも軽い心で目覚めてくれることを願って……。