だから—————。
「おにーさんにここに連れてこられた時、てっきりそーゆう目的なのかと思ったよ。」
「でもなんもされないから、拍子抜けしちゃった。」
「……なんで………、」
「…なんで笑ってられるの……。」
いつのまにか、体が動いていた。
俺は力一杯、彼を抱きしめる。
こちらを振り向いた湊くんは、きっと驚いた顔をしていたんだろうな。
昨日の、少し怯えた表情も。
傷も、痩せた身体も。
全てが鮮明に思い出される。
あれは、この子が背負うべき豪じゃない。
自分の頰を、ポロポロと涙が伝うのがわかった。
「ちょ、なんでおにーさんが泣いてるの。」
少し戸惑いながら、笑いながら。そう言った。
「ごめん、ごめんね……、こんなこと話させて……。」
「……んは、おにーさんのせいじゃないでしょ?」
それでも、ただ抱きしめることしかできない、自分の不甲斐なさを感じずにはいられなかった。
湊くんはしばらくなにも話さなかった。抱き返しもしてこなかった。
突然、ふと
「……それに、」
「同情欲しさで話したわけじゃないから。」
「おにーさんだって結局俺のこと捨てちゃうなら、軽々しくこんなことしないで。」
冷たい言葉だった。
何もかも、全部諦めてしまったかのような。
ぐ、と力なく手で押し返される。
その手は、少し震えていた。
それがどうしようもなく、寂しく思えて。
「捨てない。」
「俺は捨てないよ。」
「君の17年間分、全部愛すから。」
「いっしょにいよう。」
嘘偽りのない、本心。
哀れだとか、可哀想だとかいう感情ではなく、ただ、俺の中の、まっすぐな言葉だった。
「……っ、下手なプロポーズだね…。」
「い、いや、そんなつもりじゃないんだけどっ……!!!」
言われた途端に、少し恥ずかしくなってきた。
たしかにちょっと臭かったかな……。
「……ほんとに、」
「こんな俺でも、ほんとに愛してくれるの……?」
不安そうに震えた声で、恐る恐る聞かれる。
軽々しく言えた言葉ではないと思うが……、
「俺で良ければ、いくらでも。」
その瞬間、俺の肩に、湊くんの涙がはたはたと落ちたのがわかった。
声も出さずに、ただ静かに。
3月の始め、うっすらと春の匂いを感じる、朝のことだった。
to be continue…
コメント
14件
もう最高です👍
この話めっちゃ好き!
ほんとに好き