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放課後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気にゆるんだ。
椅子が鳴り、笑い声が広がり、誰かが走り出す音がする。
紗季は、カバンを持ったまま席を立つかどうか迷っていた。
(……気が向いたら、って言ったけど)
「ねえ紗季」
迷っている間に、隣から声が飛んできた。
「気、向いた?」
陽斗はすでに立ち上がっていて、やけに準備がいい。
まるで最初から一緒に行く前提だったみたいだ。
「……少しだけ」
「よっしゃ!」
ガッツポーズを決める陽斗に、紗季は軽く眉をひそめた。
「テンション高すぎ」
「放課後だからね」
「意味がわからない」
二人で廊下を歩く。
それだけのはずなのに、なぜか視線を感じた。
「え、なにあれ」
「隣の席コンビじゃん」
「やっぱ付き合ってるの?」
「違う」
紗季は即答した。
陽斗は、なぜか笑っている。
「否定はやっ」
「事実だから」
「はいはい」
購買前は、人でいっぱいだった。
パンの棚の前で、陽斗は腕を組んで悩み始める。
「焼きそばパンか、メロンパンか……」
「どっちでもいいでしょ」
「よくない。これは重要な選択」
「人生左右しない」
「今の俺にはする」
真剣な顔で言う陽斗を見て、紗季は思わず吹き出しそうになった。
それをごまかすように、棚を見つめる。
「……じゃあ、焼きそば」
「理由は?」
「重そうだから」
「雑!」
結局、陽斗は両方買っていた。
「迷ったら全部買う主義」
「それ、迷ってない」
外に出ると、夕方の風が少し冷たい。
校舎の影が長く伸びていた。
「紗季ってさ」
「なに」
「意外とちゃんと喋るよね」
「……それ、褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。最初、無視されるかと思ってた」
「そこまで冷たくない」
「でもさ」
陽斗はパンをかじりながら言った。
「俺、紗季のそういうとこ好きだよ」
紗季は、足を止めた。
「……今の、どういう意味」
「え?」
「どういう“好き”」
一瞬の沈黙。
陽斗はきょとんとしてから、あっさり言った。
「隣の席的な?」
「紛らわしい言い方しないで」
「え、そんな真剣に考えた?」
「考えるに決まってる」
陽斗は少しだけ驚いた顔をして、それから笑った。
「じゃあさ」
夕焼けの中で、彼は軽い調子で言う。
「そのうち、ちゃんとした“好き”も教えてあげる」
「……余計なこと言わなくていい」
そう言いながら、紗季の心臓は、さっきからうるさかった。
隣の席は、放課後になっても——
やっぱり、落ち着かない。