テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#溺愛
高瀬船
934
#女性向け
常陸之介寛浩
840
黒猫ている
2,077
#ハッピーエンド
黒猫ている
502
「リ、リスティアナ……リスティアナは、もう私の事など、何とも思っていないのか……?」
「──? 勿論でございます」
ヴィルジールの愕然としたような表情と、言葉にリスティアナは「何を今更」と眉を寄せ、あっさりと返す。
「確かに、殿下と婚約を結ばせて頂いていた頃は恐れ多くも殿下をお慕い申しておりましたが……殿下がナタリア嬢とお気持ちを通じ合わせたと分かり、殿下へのお気持ちを綺麗に捨てましたわ。……今後は、アロースタリーズ国の貴族として、尊い王家の臣下としてしっかりとお仕え致しますわ」
にっこりと、心の底からそう思っていると言うように真っ直ぐヴィルジールを見返してリスティアナがそう告げると、ヴィルジールはショックを受けたように表情を歪ませた。
まだ、いつまでもヴィルジールに想いを寄せているとでも考えていたのだろうか。
今のリスティアナにとって、ヴィルジールは自分の国の王族で、貴族として支え、仕えるべき方々である、と言う感情しか持ち合わせていない。
異性としてなどもう考える事など出来ないし、こうして王太子であるヴィルジールと個人的に話をする事すら恐れ多い、とリスティアナは考えている。
「殿下。……私、我が父の無事を確認したく、タナトス領へと向かわせて頂きますので……、ここで失礼致しますわ」
「──っ」
リスティアナはカーテシーでもって深々とヴィルジールに頭を下げるとヴィルジールが何かを口にする前に、すっ、と体を下げる。
リオルドは未だに先程リスティアナが口にした言葉に若干頬を赤らめたままだが、リスティアナが下がるのに合わせて自身も胸元に手を当てて頭を下げ、リスティアナと共にヴィルジールへ背を向けて歩き始めた。
「リスティアナ……、私が本当に愛していたのはリスティアナだけだったのに……っ、何故私はあのような愚かな事を……っ。どうすれば、リスティアナを再び私の婚約者として戻して貰える……っ」
「──殿下」
ヴィルジールが去って行くリスティアナとリオルドの背中に未練がましく視線を向けてぶつぶつと呟いていると、二人と共に去って行く事の無かったリスティアナの兄、オルファがヴィルジールへと声を掛ける。
ヴィルジールはオルファがまだ居た事にびくり、と体を震わせてオルファの方へ顔を向けると「な、何だ?」と声を掛けた。
オルファは、自分の懐に手を入れごそごそと何かを取り出すと「陛下からです」と前置きをしてヴィルジールに向かって言葉を紡ぐ。
「──此度の一件で、殿下の御学友は元より、ナタリア・マローの刑の執行を殿下に一任すると陛下は仰せです。……リスティアナが居る手前、ご説明は出来ませんでしたが……。陛下は”マロー子爵家は元より一人息子しか子供はいなかったのではないか?”と私に”ご確認”をされました」
「……っ」
「……ナタリア・マローが犯した罪は多すぎて、見逃せば再び王家に牙を剥く可能性がある、と陛下は憂慮されておりましたので……。ナタリア・マローと積もる話もあるだろうから、と陛下はこちらを殿下に……」
オルファから渡された小さな小さな小瓶には、何か液体が入っているようで。
ヴィルジールは顔を真っ青にさせて、その小瓶を震える自分の両手でしっかりと受け取った。
「せめてもの救いに、苦しまずに、と仰っていました……。ナタリア・マローは王城の貴族牢へと入っております。……それでは、私は陛下の元へと戻らせて頂きますので」
ぺこり、と頭を下げるオルファにヴィルジールは何も言葉を返す事は出来ず、去って行くオルファに顔を向ける事も出来ず、ただただ自分の手の中にあるその小さな小瓶を呆然として見つめ続けた──。
◇◆◇
「──リ、リスティアナ嬢……っ、先程のお言葉は殿下へ意見を述べるにしては些か……っ」
「あら、そうでしょうか……?」
リスティアナとリオルドはカツカツとパーティー会場の廊下を、正門へと向かって歩きながら言葉を交わしていた。
「あ、あのような言い方をしてしまっては、変な勘違いをしてしまう男が出てきてしまうかもしれません……!」
「ですが、スノーケア卿はその変な勘違いをしてしまう男性ではございませんでしょう?」
リスティアナは、隣を歩くリオルドにちらりと顔を向けるとふふ、と笑い笑顔を見せる。
リスティアナの裏の無い笑顔に、リオルドはぐっと言葉に詰まり再び頬を赤く染めると、照れ隠しだろうか、小さく唸りながらリスティアナに向かって言葉を続ける。
「──ええ、そうですね……っ、普段の私でしたらそんな勘違いなどするような事は致しませんが、──っ、気になる女性からそのようなお言葉を掛けられてしまっては、自惚れてしまいますっ」
リオルドの言葉に、リスティアナは瞳を見開くと、破顔した。
「あら、奇遇ですわね。私も最近気になる男性がいるのですけど……その方から嬉しい言葉を告げられて、私も自惚れてしまいそうですわ」
貴族令嬢としていつも凛とし、貴族として恥ずかしくない振る舞いを、と心掛けているリスティアナが、まるでただの少女のように満面の笑みを浮かべ、頬を染めている可憐さを直視してしまったリオルドは自分の顔を真っ赤に染め上げた。
リスティアナとリオルドはお互い顔を見合わせて笑い合うと卒業パーティー会場から退出した。
◇◆◇
数時間後。
リスティアナとリオルドはタナトス領に向かう為、お互い一度邸に戻った。
動きやすい服装に着替えてから改めて王城に向かう。
王城の正門前でリスティアナとリオルドは顔を合わせると、先程ウルム国のティシアが話してくれた追軍の件を聞きに行く。
ティシアの指示で、追軍は既に王城を発っているらしく、二人は慌てて馬に跨るとお互い少数の護衛を連れて馬を駆ける。
「──リスティアナ嬢……! 兄君のオルファ卿に何も告げずに立って良かったのですか……!?」
「ええ。お兄様から特に何も連絡が無いので、私がタナトス領へ向かう事は既に了承済なのだと思います」
リオルドは成程、と言葉を返しリスティアナと並び馬を走らせていたが、少しだけ前へと出る。護衛を含むタナトス領へと一行のペースを調整するためだ。
「タナトス領までは馬の脚で十日以上掛かります。馬替えの準備も整っていないので、潰してしまっては元も子もない。リスティアナ嬢が早くお父上の元まで行かれたいのは分かりますが、少しペースを緩めましょう」
リオルドの言葉にリスティアナははっと瞳を見開くと、反省したように「申し訳ございません」と言葉を返す。
「そう、ですわね……馬が潰れてしまっては身動きが取れなくなってしまいますわね……スノーケア卿、止めて頂きありがとうございます」
「──いえ。この先、王都とは違い人の往来の少ない道は盗賊なども出ますから、そう言った場所を短期間で抜けられるよう、調整致しましょう」
先程より幾分か緩やかなペースになった事で、リスティアナやリオルドの後ろを付いて来ていた護衛達も表情を緩める。
リオルドの言う通り、馬を疲弊させてしまった状態で盗賊と出くわしてしまったら事だ。
リスティアナのメイブルム侯爵家から、リオルドはスノーケア家から腕の立つ侍従を護衛代わりに数人連れて来ている。
リスティアナとリオルドを含めて十数人程度ではあるが、盗賊達が三倍以上の人数が居なければ何とかなるだろう。
街に辿り着けなければ野営を行う事にもなる。
その為には、人も馬も疲れさせてはいけない、と道中リスティアナはリオルドに為になる話を数多く聞き、ふんふんと真面目にその話に耳を傾けた。
王都を発って数日。
リオルドの絶妙な配分により、夜は街で宿に泊まり体を休める事が出来ており、順調にタナトス領へと進む事が出来ている。
そして。馬を走らせ続け、数日。
リスティアナとリオルド達はウルム国の追軍に追い付いてしまった。
人数が多ければ、無理な速度にならぬよう余裕を持った速度で進む。
それに比べ、少数で動いていたリスティアナ達の足は速い。
リスティアナとリオルドは自らの家名を追軍の責任者に告げ、責任者からは王女であるティシアから話を聞いている、と言われ追軍の前方へと加わった。
ウルム国の追軍に加わり、少し経った頃。
リオルドは前方に上空を旋回している鷹を視界に入れて小さく「あっ」と声を零した。
「スノーケア卿……? どうなさいました?」
リオルドの様子に直ぐに気がついたリスティアナが、隣を走るリオルドに向かって問い掛けると、リオルドは「辺境伯で飼っている鷹です」と声を上げる。
「ミーガン、と言うのですが……兄上の鷹なんです。何か、兄上からの報せを持っているかもしれません」
リオルドの言葉に、追軍の責任者も「鷹の旋回している場所に向かおう」と告げると、鷹──ミーガンの元へと馬を走らせた。
コメント
1件
高瀬船先生、第29話読了しました〜!🌸✨ もうね、ヴィルジールが後悔しまくってるシーン、ざまあ…じゃなくて、心情描写が丁寧で逆に切なかったです!「何を今更」ってバッサリ切るリスティアナがカッコよすぎる😭💕 そしてリオルドとの「気になる男性」の会話、あれもう完全に両思いじゃないですか!?照れてる二人にこっちまでニヤニヤが止まらなかったです…!鷹のミーガンも気になるし、次話も楽しみにしてますね⋆♡