ギデオン達が出発した日の夜、リオはあまり眠れなかった。 絶対大丈夫だと信じているけど、ケリーから聞いた話を思い出して、不安を感じたからだ。
ごくたまに現れるという、とんでもなく強い魔獣。ケリーは危険な所を、不思議な力を使う男に助けられたと話した。その人は、リオと同じ金髪赤目だったという話から、数年前に急にどこかへ消えた一族の仲間、デッドに違いないと思っている。
デッドはいなくなってからどこで何をしていたのか、どうしてケリーの前に現れ、すぐに消えたのか、謎だらけだ。
今回も、危険な場面に現れてくれるとは限らない。それならば俺が同行して、離れた場所からこっそりと魔法で魔獣を退治したかったのだけど。魔法のことがバレる恐れもある。
「いっそギデオンには話して、ギデオンに俺を使ってもらいたいなぁ。ギデオンなら、ひどい扱いはしないとわかってるし」
「なにが?」
「うわあっ!」
リオは背後から声をかけられて、心臓が止まるかと思うほどに驚いた。
弾かれるように振り返ると、リオの声に驚いたらアトラスが、両手を上げて目を見開いている。
「びっくりしたぁ。そんなに驚く?」
「驚くよ!誰も来ないと思ってたのに!アトラス!今日は朝から領内の巡回に行くんじゃなかったの?昨日そう言ってたよなっ」
「その予定だったんだけどさ、ゲイルさんにリオの所に行けって言われてさ」
アトラスがリオの隣に座る。
ここは庭の花壇に囲まれたベンチだ。
リオは落ち着かない心を鎮めるために、朝早くから落ち葉を集めに来ていたのだ。
先ほどの独り言を聞かれてないよな…と、リオはゆっくりとアトラスに顔を向ける。
アトラスは欠伸を噛み殺しながら、「ん?」と首を傾けた。
聞こえてないみたい…だな。
リオは小さく息を吐くと、「ゲイルさんが?」
聞き返す。
「そう。リオは今では城内の誰とでも仲良いけど、表面だけ仲良さげにして裏がある人もいるかもしれない。ケリーみたいに。ギデオン様がいない今、そういう人がリオに何かをしたら大変だから、俺が護衛するの」
「ええ、そんな人いるかなぁ。皆、いい人ばかりだよ?」
「リオは優しいからそう思うんだね。でもケリーにされたこと思い出しなよ。人を信じるなとは言わないけど、油断はするなよ」
「…わかったよ」
一族のこともあり、リオは元々疑り深い。心の中を見せない。だけどここは居心地がよくて、ここに来てからずっと皆によくしてもらって、心を許してしまっている。ケリーは例外だけど、皆、いい人だと信じてしまっている。
でも、そうだよな。ここでは大きな魔法は使ったことはないけど、ほんの小さな魔法は時々使っている。十分に周りに注意をしていたから、誰にも見られてはいない。だけど絶対はない。それにケリーみたいに、金髪赤目は特別だと知っている者がいるかもしれない。
冷たさを含む風が吹き、縛っていない肩までの金色の髪が、リオの頬にかかる。
それを手で避けながら、「頼んだよアトラス」とリオが言うと、アトラスが真剣な顔で頷いた。
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