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「しかしビクター殿も大変な話を持ってきたよなぁ。ま、あの人自身も討伐隊に入ってるみたいだけど」「そうなんだ」
リオは、この庭で出会ったビクターの姿を思い浮かべる。
絶対の自信を持っている強い表情に、ギデオンと変わらない大きな体躯。簡単に魔獣を倒してしまいそうだ。
「そうそう。前に言いかけてそのままだった話だけど」
「うん?」
「ビクター殿がギデオン様を嫌いな理由。二人は同じ歳なんだけど、ビクター殿は歳の近い騎士達の中でも頭一つ分飛び出て優秀で強くて、それを自分でも自覚して自信満々だったのに、ギデオン様に勉学でも剣でも負けたんだって。あ、本人ははっきりと負けたとは言わなかったよ。俺といい勝負だ!と話してたけど、あれは負けたんだよ。だから嫉妬して嫌いだと言ってるんだね」
「…子供かよ」
アトラスが苦笑しながら話した内容に、リオも呆れて苦笑する。
なんだよそれ。自分よりも優れた人がいれば、その人を目標にもっと頑張ればいいじゃん。その人に|適《かな》わないからといって、|妬《ねた》むなんて情けないと思うけど。
ビクターは、ギデオンに負けるまで、負けたことがなかったんだろう。だから心底悔しかったんだろうな。でもギデオンのことが嫌いだからといって、嫌がらせは止めてくれよな。ギデオンが落ち込んだり傷つく姿は見たくない。
ふいに視界に何かが入り、リオは目の焦点を合わせる。
アトラスが気持ち悪い笑顔でリオを覗き込んでいる。
「なに?」
「ギデオン様のことが心配だよね?だよね?でもさ、ビクター殿は性格が悪い…悪そうだけど、嫌がらせとかはしないから大丈夫だよ?」
「なんだよ急に」
「ええ?リオがすごく不安そうな顔してたからぁ、安心させてあげようと思って」
「はあ?そんな顔してねぇし!てか、俺、そろそろ仕事始めるから、アトラスも仕事か鍛錬に行けよっ」
「俺の今の仕事はリオの護衛だからここにいるよ」
「ずっと見張ってるのかよ」
「うんそう」
「…じゃあ手伝え。|箒《ほうき》持って来るから、落ち葉を|掃《は》いて集めてくれ」
「……」
「ここが終わったら、アンと遊んでいいから」
「わかった!」
アトラスは、リオよりも早く立ち上がり、リオよりも先に箒を取りに行く。
アトラスは本当にアンが好きだよなと笑って、リオも後を追いかけた。
アトラスに手伝ってもらい、仕事が早く終わった。庭仕事の次に馬の世話も手伝ってもらったために、昼過ぎには終えてしまった。
リオはアトラスに礼を言い、昼餉の後にアンを連れて二人で出かけた。もちろん、アトラスがゲイルに許可をもらってから出かけた。
歩いて街を抜け小さな森に向かう。ここは魔獣が出なく安全なため、よくアンを連れてきている森だ。
二人と一匹は存分に走り回って遊び、休憩を挟んでまた遊ぶ。そして二人が疲れてきたら城へと戻る。
ギデオンが出発してから五日間は、そうやって毎日を過ごした。