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#溺愛
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亡き母の領地であるアイリス領は、ウィステリア領からほど近い場所にあった。
店は閉まり、通りに人影は少ない。街全体が、活気を失っていた。
(……思った以上にひどいわね)
農地も多くはない。ところどころに果物農園や牧畜の姿が見える程度だ。
馬車が領主館の前で止まると、白髪まじりの初老の男が出迎えた。
「バイオレッタお嬢様。お久しぶりでございます。亡きアイリス様と、生き写しになられましたな」
深く頭を下げるのは、アイリス領で長年領主代行を務めている執事、フレッドだ。
***
応接室は古びてはいるものの、塵一つ落ちていない。
フレッドが淹れてくれた温かいお茶を一口飲み、私は切り出した。
「さっそくだけど、領地の状況を教えてくれる?」
フレッドは帳簿を開いた。
この領地は元々、農業には向かない。果物や乳製品、花などを他領に輸出し、その対価で麦を買う――そうやって成り立ってきた。
だが――
「ベラドンナ様が実権を握られて以降、他領との取引は妨害され……商人たちも離れていきました」
「……圧力、ね」
「現在は、ウィステリア領から小麦を購入しておりますが……」
帳簿に目を落とす。
(……相場の倍以上?)
本来なら利益が出ているはずの特産品の収益が、そのまま消えていた。
(なるほど……)
「……資金が足りていないのね」
フレッドが、言葉に詰まりながら頷いた。
私は、首元に手をかけた。
大粒のダイヤのネックレス。それを外し、机の上に――コトリ、と置く。
イヤリングも、髪飾りも外す。
「なら、作るしかないわよね」
「お、お嬢様……!」
「これ、全部売ってきて。家にある“お金になりそうなもの”も全部よ。私のドレスも、貴金属も」
フレッドが息を呑む。
「……本気でございますか」
「ええ」
私は顔を上げ、窓の外に広がる領地を見据えた。
「だって、ただ綺麗なだけのものなんて──1円の利益にもならないじゃない」
迷いはなかった。
「これを、領地を立て直すための“投資”に回すのよ」