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第一章 決着
深夜──
薬も切れ、監視も一時的に無効化された一瞬の隙を、ないこは逃さなかった。
「……ごめんね、まろ」
静かに、でも確実に。
ナイフを深く、心臓めがけて突き立てた。
いふは抵抗しなかった。
ただ、静かに血を吐いて──それでも笑っていた。
「やっぱり……きみの手で……終われるんだね……」
その言葉と一緒に、
彼は崩れ落ちた。
第二章 自由
警察に保護されたないこは、精神的ショックの大きさからしばらく保護施設で過ごすことになった。
外の空気。太陽の光。
誰かと“ふつうに”会話する生活。
全てが夢のようだった。
でも──
夜になると、無意識に手首をさする。
誰も触れていないのに、優しい声が耳元で囁く。
「ないこ。おやすみ。また明日も、きみを愛するよ」
やめてくれ。
いふは、もういない。
自分で殺したんだ。自由になるために。
なのに──
どうして、泣いてるんだろう。
第三章 遺書
数週間後。
施設の職員がないこに、ある荷物を渡した。
「これ、事件後に警察が見つけたって。君宛らしいよ」
封筒の中に入っていたのは、手書きの手紙。
筆跡は間違いなく──いふのものだった。
> ないこへ
きみがこの手紙を読む時、たぶん俺はもういない。
それでも構わない。
きみが“自分の意志”で俺を殺したなら、それが一番、幸福な終わりだ。
でも、どうか知っていてほしい。
俺は一度だって、きみを「物」だと思ったことはない。
ただ、きみを“離したくなかった”だけだった。
それを愛と呼べるかどうかは、もうどうでもいい。
だって──
俺が愛したのは、どんなきみでも“きみ”だったから。
もし、
この手紙を読んだあとも、
「おれは、ほんとうにこれでよかったんだ」って言えるなら、
どうか、それが俺の罪に報いとなりますように。
愛してたよ。
いふより。
終章 答えのない愛
ないこは、何も言えなかった。
ただ──声も出せずに泣いた。
自由は、手に入れた。
でもその代償に、
愛を、永遠に自分の手で殺した。
それでもまだ、
夜になると夢を見る。
あの部屋、あの声、あの笑顔。
いふは、
ずっと、愛していた。
狂っていたけれど、
間違いだったけれど──それでも、たしかに“愛されていた”。
そしてないこも、
どこかでまだ、
“彼を想ってしまう”自分がいることに気づいていた。
THE END(遺書ルート)
裏タイトル:『きみを愛していた、それが罪だった』
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