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離婚します  第一部

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離婚します  第一部

6 - 第6話 健二の言い訳

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2024年10月24日

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「あ、ら…来てたの」

怒ればいいのか問い詰めればいいのかわからなくて、間の抜けた返事をしてしまった。


「すいませんでしたぁーーっ!!」


いきなりソファの前に土下座をする健二。


「え?ちょっと、待って、ね。綾菜は?」


キッチンを振り返ると、ダイニングの椅子に座って腕組みをしているのが見えた。

こちらは見ていない。


「ほんの出来心で、一度だけの遊びなんです!酔った勢いでつい…」

「酔った勢いでやっちゃったの?寝言で名前言うくらいなんだから、一度だけって嘘じゃないの?」

「いいえ、誓ってそんなことはありません!僕は綾菜と翔太を愛しています、だから!」


土下座したまま、話し続ける健二を観察する。

嘘をついてるか本心か見極めるために。


「もう絶対しません、だから許してください!」


まだ頭を上げない。


「謝る相手が違うでしょ?綾菜が許すかどうか?なんだから」

「とうちゃん、ごめんしたの?」


翔太が私の腕をつかんで聞いてきた。

翔太には、私がお父さんを怒ってるように見えるんだろうな。


「ちょっといい加減に頭を上げて。翔太も見てるんだから、もうそんなことやめて」

「えっ、じゃあ…許してくれるんですか?」


顔を上げてうれしそうに言う。


「あのね、さっきから言ってるでしょ?私じゃないでしょ!夫婦の問題なんだから夫婦で解決しなさい。綾菜はどうなの?これからどうするの?」


健二も綾菜を見る。


「まだ許せない、だからしばらくここにいさせて」


あっちを向いたまま、低い声で綾菜が言う。


「おかぁちゃん、おこってるの?」


翔太が、泣きそうな声を出した。


「大丈夫だよ、翔太、おかぁちゃんは怒ってないよ、少し元気がないだけだからね。今日はばぁばのおうちでねんねしようね」


翔太を抱っこした。


「そういうことだから、健二君、今日は帰ってくれる?綾菜と翔太はうちに泊めるから」

「は…はい、わかりました。じゃあ今夜は帰ります。また明日、迎えに来ますから」


すくっと立ち上がると、そそくさと帰って行った。


玄関のドアがバタンと閉まる音がして、健二が帰って行ったことを確認した綾菜。


「どうだった?お母さん、健二の言ったこと、信じられる?嘘じゃないかな?」

「えーっ、お母さんにそれ聞くの?夫婦なんだから、綾菜のほうがわかるでしょ?」


よっこらしょと翔太をおろす。


「わからないんだよね…、こんなこと初めてだし。で、あんなふうにマジで謝られたのも初めてだし。だから、あれがアイツの本心かなんてわからなくて。だから、お母さんにも

アイツと話して欲しくて待ってたの」



正直言って、わからなかった。

でも…、とさっきの洋子の話を思い出す。


『浮気ならまだ許せる、仕返しだってできる』


そうかもしれない。

それにまだ小さい翔太を抱えて離婚したら、綾菜が苦労するのは目に見えてる。

私がした思いを綾菜にはさせたくない。


「お母さんにもわからなかった。でも、初めてなんでしょ?こんなこと」

「浮気?」

「そう。相手の女にお金を貢いでる様子はないの?」

「家計は私が全部預かってて、アイツの小遣いは昼ごはん込みで月3万しか渡してないから、それはないと思うよ」


お茶でも淹れるね、と綾菜が立ち上がった。


「おかぁちゃん、おなかすいた」


翔太が綾菜の足にしがみついていた。

やっぱり、母親は大事なんだよね。

こんな小さい子を預けて働きに出るとか、そんなことをしたら可哀想だと思った。


「はいはい、ごはんにしようね、翔太の好きなカレーだよ」

「わぁー、ばぁば、たべようよ」

「うん、食べようね。綾菜、この話はこの子が寝てからにしよう」

「ん、そうだね」


翔太も食べられる辛さのカレーは、優しい味で心にも染み込んだ。

私は綾菜に、こんなふうに優しい料理を作ってあげたことあったかな?

我が娘ながら、きちんと母親してるなぁと感心する。


私は母親としては失格だと思う。

きちんと育てたという記憶がない。

愛情を注いだという記憶もない。

どちらかというと綾菜のことを、疎ましく思っていた。


望んでできた子どもじゃなかったからか、それとも私が自分の親に愛された記憶がなかったからか。


それでも、この子は特に悪い道にそれることもなく、普通に結婚して立派に妻と母親をこなしていると思う。

だからこそ、幸せになって欲しいと願っている。


「やっぱりさ、家に帰りなさい。健二君を信じてみたら?離婚なんて簡単にするもんじゃないよ、翔太のためにもさ」


スヤスヤと寝息を立てている翔太の頭を撫でながら話す。


「離婚経験者に言われたか…。でも、もしもね、もしもまたこんなことがあったら?」

「その時はね、あんたも浮気して仕返しすればいいわ、もっといい男見つけてね」

「はぁ?そんなこと言うの?信じらんないんだけど」


「冗談だよ、でもさ、それくらいの気持ちでいれば気が楽になると思うよ。今回は初犯だから執行猶予付きってことだね」

「あはは、執行猶予ね、わかった。そう言っとくわ。そっか、いざとなったら仕返しか。悪くないかもね」


じゃ、寝るねおやすみと、さっさと寝てしまった。


これはこれでいいとして。

私は?

私はこれからどうするべき?


考えていたら寝れなくなる……

と思っていたのによく寝れた。









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