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次の日、綾菜と翔太を迎えに来た健二君の手には、小さな薔薇の花束があった。
「綾菜、ホントごめん、これ、せめてもの…」
せめてものお詫びの印とでも言いたいのだろうか?
…にしてもオレンジ色の薔薇なんて。
「普通は、赤い薔薇じゃないの?愛情の証とするのなら」
「あ、でも…」
何か言いたげな健二君が綾菜を見た。
「この薔薇はね、私が好きな薔薇なの。健二、よくおぼえててくれたね!」
「そうなの?」
「はい、プロポーズした時オレンジ色の薔薇をプレゼントしたので。思い出して探してきました」
「ふーん、そっか」
「そう、花言葉なんか関係ないの、私が好きな薔薇ってことが大事!」
ね!とか言いながら花束を受け取った。
「まぁね、花言葉なんて知らない人の方が多いし、実は本数にも意味があるとかややこしいこともあるみたいだし」
「本数?そんなもの、今買えるだけに決まってるじゃん?」
綾菜がそう言うから、数えてみた。
「8本?」
それとかすみ草が何本か。
「ごめん、少なくてこれしか買えなかった」
「知ってる、健二の小遣いが少ないことは。だから、これが精一杯だってこと」
「おかぁちゃん、おはな?きれい」
翔太もやってきた。
「いい匂いもするんだよ、翔太」
花束を翔太に持たせる綾菜。
その2人を見る健二の目は、ほっとしたように見えた。
仲直りできたことにほっとしたのか、浮気のことを許されたことをほっとしたのか。
「さてと、あんたたちの問題は解決したみたいだから、帰って。あとは家族で仲良くやってちょうだい!」
「はーい、じゃあ、お母さん、ありがとね」
「お世話になりました」
「ばぁば、またね、またいっしょにねんねしようね」
車で帰って行った3人を見送ったあと、スマホにLINEが届いていたことに気付いた。
『タロウはどうだ?』
旦那からだった。
いやいや、タロウの話?
私のことはどうでもいいのかよ!と言いたかったけど。
「めちゃくちゃ元気!美味しい餌あげてるし、自由になってのびのびしてるわよ」
ふんっ!というスタンプをつけて返した。
ぴこん🎶
『それならよかった』
「そっちはどう?仕事は順調?」
こっちから相手の状況を確認してみる。
ぴこん🎶
『心配ない』
ん?
んん??
んんんっ?!
そっちから、こっちのことは聞かないのかよ。
その4文字で、夫婦のLINEは終わった。
綾菜たちが帰って、静かになったリビングに1人。
にゃーんとタロウがやってきた。
「よしよし、これからしばらく2人きりだよ、仲良くしよ」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら甘えてくる。
こうやって甘えられると、とても愛しいと感じる、不思議だ。
私もこんなふうに甘えたらよかったのかな。
「気持ち悪っ!」
想像してしまった、無理だ、私にはできない。
「お風呂に入ってくるね、ご飯食べて待ってて」
餌皿にカリカリと、スープを用意した。
1人だけど、贅沢にお湯を張ろう、そして薔薇の入浴剤を入れた、花束を思い出しながら。
「はぁーーー、生き返る!お風呂は湯船に入らないと」
誰に言うともなく。
こうやって独り言が増えていくのかなあ?
ふと鏡に写った自分の姿を見た。
たぷっとした脇腹が目に入った。
中年太りってやつかなぁ?
まえの仕事が肉体労働だったから、こんなふうに贅肉がつくなんてなかったんだけど。
ある程度仕方ないとわかっていても、ショックだ。
ジムにでも行こうかな?
風呂上がり、髪をタオルで乾かそうと下を向いた。
「ん?タロウの毛かな?」
お腹の下、陰毛のあたりに白い毛が見えた。
「イタっ!えぇーーーっ!マジか…」
自分の毛だった、下の。
髪の毛はもともと若い時から少しの白髪があったけど、まさか、ここに?
一気に年齢がすすんだことを思い知らされた。
「こんなんだから、旦那にも相手にされなかったのか…」
女として終わってるってこと?
私は洋子さんを思い出した。
私とさして変わらない(というと失礼かもしれないけど)洋子さんはちゃんと旦那さんとできていた。
『外でやってこい』
そう言ってた旦那、そのセリフに傷ついたことも思い出した。
でも、こんなカラダじゃ、誰も相手にしてくれっこない。
ジムに行こう、カラダのメンテもしよう、そしていい男をつかまえてやる。
昔、流行った女磨きという言葉を思い出した。
女を磨くために必要なこと…
まずはお金だ。
今なら家事も最低限でいいから、パートの時間を増やそう。
見てろよ、旦那!
外でしてこいと言ったこと、後悔させてやるから。
変なやる気スイッチが入ってしまった。