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第5章『コードと鼓動と、近すぎる距離』(たっつん視点)
「うりりん、これ、今日の弾き語りのコード進行、確認した?」
午前のリハーサル前、たっつんはリビングの隅でうりりんに声をかけた。
うりりんは、ギターを抱えたまま小さく頷く。
「うん。でも…ちょっと、入りが不安かも」
「ほな、今やってみよか。オレ、横でタイミング合図するし」
「ありがとう、たっつん」
呼ばれた名前に、たっつんは一瞬でテンションが跳ね上がった。
(やば…“たっつんさん”ちゃう、“たっつん”や…!)
うりりんの声は、いつだって静かで優しくて、
でも心の奥に、ちゃんと火がある。
「最初、Aメロやろ?……せーのっ」
ギターの音と、たっつんの手拍子が重なる。
何度も合わせてきたのに、今日はなぜか鼓動の方が速かった。
(うりりんの声、こんなに…近かったっけ)
コードの切り替えの時、指先がふと触れた。
一瞬の沈黙。
「……ご、ごめん…!」
「いや、オレが……ごめんな」
視線がぶつかって、どちらも目を逸らす。
そのあとに続く音は、どこか震えていた。