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3 - 無知で無個性で無機質な

♥

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2022年10月23日

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…人懐こい仮面を外し、無個性で無機質な私になる。



こんな私をspade様が見たら、驚き、そして案ずるだろう。




…しかし、これが本来在るべき私の姿なのだ。


writer様の求める、「0」を象徴した、

完全無欠な…私。








───コン、コン、コン




「おー」


短くて軽い返事。



静かにため息を零し、そっと木製の扉を開ける。


「…失礼します」






黒髪ボブで白衣姿の彼女は、

回転椅子に腰掛けたままゆっくりと振り返る。



「よく来たね」



その、慣れ親しんだ知人のような口ぶりに、内心で失笑しながら口を開く。



「いえ、writer様の為ですので」


「そうか、でも無理しないでね」



余計な気休めの優しさが、私からしたら滑稽だ。

彼女もそれは分かっているのだろう、口調に全く抑揚が見られない。



「いつでも、如何なる御用事でも、

お気軽にお呼びください」




再度、慇懃無礼に笑いかける。

私の無意識な笑顔は、彼女にどう受け取られただろうか。

この際、そんなこともどうでもよい。



大切なのは、





「本日は外界の異質な三名の存在について、writer様の御命令の通り報告しに参りました」


「仕事が早いじゃないか」


「こう見えて、神なので」



おどけたような会話だが、

私も彼女も気持ちがこもっていない。

嘘だらけの言葉だった。



早速ですが、と前置きして手元に目を落とす。

そこには一冊の本があった。



「まずは、様の物語世界で発見した人物。

名前は星宮愛華…齢十四の少女です」



「…ほう」



先程までの無理やり口角を持ち上げたような薄暗い微笑みとは一転して、

彼女は興味深そうに身を乗り出した。



「その愛華ってのは…人間?」


「はい。

…しかし、尤も異質であることに変わりはございません。」



私は真っ直ぐに彼女を見つめながら言葉を紡ぐ。



「何故なら彼女は、█████」






思わず目を瞑った彼女に構わないふりで、言葉を重ねる。



「そして」



私は右手を掲げる。

そのまま手のひらを大きく広げると、

そこには濃紺色に沈む薔薇が一輪咲いていた。



spade様。

口調がとても特徴的で、無限に万物を司り、又、理解し得る。性質上、私と排反の関係にある、最強クラスの能力を誇る神様です」


「…へえ、神様………神様かぁ」


「甘党とのことだったので接近の為、私の仮面も甘味好きにしました」


「だからそんなふわふわ着てんのか」


「…えへへっ、そうなんですよ〜!」




一瞥して彼女はにこやかに言い放つ。




「君ってほんと、頭いいよね」





「こう見えて、神なので」



そう、私は元々、

「無から全を創造する」為の神であり、

それは即ち、

私の中の「無」が薄れていけば、「限界」ができてしまう。

すると創造できる範囲が狭まり、



私は…ただの神様と成る。



つまり無知で無個性で無機質な私でいられれば、

ただwriter様の御心の儘に在れば、

私は……




「…どうしたの、チャペル様」




不思議そうに、こちらを見ないでくれ。


その純粋さも自然な人間らしさも、


私には、ゆるされないのだから。







「一応最後、なのですが…」



私はページをぱらぱらと捲りながら言葉を止める。



「この者…。果たして、本当に外界の者なのか…」


「どれ、見せてみ」


「はい」



私は素直に本を差し出す。






そこには【観測者】と記されていた。




















というのも、3ヶ月ほど前の話。


天界においての3ヶ月など、

瞬きよりも短い時間だ。



「どうして…」






どうしていなくなってしまったんだよ、

創造神、チャペル様。




こんなの違う、台本にない、脚本にも!

私の物語世界にこんな…っ








…………………!?





見たんだよ、私は。


歪に口の両端を吊り上げてこちらを覗く存在を。















「…君だったのか」












【観測者】…。






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