コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
注意
ご本人様無関係です。
スクショ、共有など、マナーに反することはやめてください。
事実とは無関係で全て妄想で幻覚です。想いが抑え切れなくて書いてしまった。
時系列等も狂っています、あくまでもフィクションとしてとらえてください。
テレビでも公言している通り、初めて出会ったあの瞬間に、俺は”藤澤涼架”と言う人間に惚れていた。誰よりも推している自信があるし、この想いが他の人間に負けるつもりも予定もない。まぁ負けないけど闘うなら若井だけかな。他は負ける気はしないし、勝負にすらならないと断言できる。
ふわふわと揺れる髪も、白く滑らかな肌も、細く、それでも力強い指も、その指先が紡ぎ出すあたたかな音色も。女神のような神々しさも天使のような微笑みも、ちょっと、いやだいぶ天然でポンコツで、だけど決めるところは外さないところも、誰よりも天真爛漫で心が純真無垢でまっさらなところも大好きなんだよ。
涼ちゃんはよく俺に言う。
――元貴は、やさしいから。いいんだよ、自分に甘い日があったって――
涼ちゃんこそやさしい人だというのに。涼ちゃんこそ、自分に甘くしていいんだよ、って何度思ったことだろうか。それに俺をやさしいなんていう奴、涼ちゃんしかいないって。
やさしくて、誰よりも努力家で自己肯定感が控えめで、自分に甘いようで厳しくて、相手の悪意もそのまま受け止めて血だらけになって、それでも立ち上がる強い人でもある。
人気が出れば出るほどアンチも増えて、聞くに絶えない言葉が耳に届く。インターネットの普及によって世界中の人が近くなった代わりに悪意もダイレクトに届く。
こころがきれいでやさしさの塊みたいな涼ちゃんは、そのひとつひとつと向き合って、傷つきながら死に物狂いで努力をする。見返してやるっていう心意気ではなくて、俺の生み出した世界を形にするために尽力してくれる。
無理をしないで、って俺のことを気遣うくせに、自分のことは後回しにしがちだ。あの大きな手でそっと撫でられると、それだけで癒される。抱きついて、どうしたの、と訊いてくれる声がささくれだった心に沁み込んでいった。最年長だからね、ってお茶目に微笑んでくれれば、それだけで安心できた。俺も若井も、そんな涼ちゃんに甘えている。何もかもを包み込んでくれる、あの腕に縋っている。
自分の中にある感情を全部使って言葉を吐き出して、空っぽになって何もかも嫌になった俺に、りょうちゃんはいつだって身体全部を使って一途に愛を注いでくれる。自分自身を音楽という形で曝け出して無防備になった俺の盾になろうとしてくれる。孤独に震える若井にそっと寄り添ってくれる。その事実だけで俺たちはまた、立ち上がることができた。
途方もない夢を抱いた俺について行くって信じ続けてくれた二人。
今でこそほどけようのない鎖のような絆で結ばれているし若井も涼ちゃんが居なければ生きていけないけれど、ここに至るまでには本当にいろんなことがあった。
ある程度の成果を残していたフェーズ1からフェーズ2に移行するにあたって、様々なことを変えていかなければならなかった。メンバーの脱退という、否応なしに変化しなければならないこともあったけれど、それをなんとしてでも乗り越えなければならなかった。全ては俺の、俺たちがもっと成長するために。俺たちの世界を届けるために。
そこで問題になったのが若井と涼ちゃんの関係性だった。仲が悪いわけじゃない、ただ名状し難い距離感があった。
思えば、初めて会話をしたときから若井は涼ちゃんをある種敵視していたように思う。
幼馴染という関係性故に、俺と若井はある程度言葉がなくても分かり合えていたし、俺のことを信じていてくれたから俺の選択を尊重してくれる。そう楽観的に考えてナンパした涼ちゃんを紹介したときの若井は、予想に反して拒絶を見せた。
若井を咎めようとした俺を涼ちゃんがやさしく押し留めて、だいじょうぶ、と哀しく笑ったのを、ずっと忘れられない。
刺々しい態度をとることも、冷たくあしらうことも多く、見かねた俺が注意することもあった。その度涼ちゃんは俺にお礼を言って、さみしそうに若井を見つめた。
そんなある日、世間の評価を持ち出して涼ちゃんのことを貶した若井に耐えきれずに激昂し、俺と若井が知り合ってから初めて衝突した。どうにかしなければならないとチームのメンバーに若井を任せ、涼ちゃんと二人で話をする機会を設けた。感情的な状態で若井に会うのは逆効果だと言う判断からそうしたけれど、涼ちゃんが怒って抜けてしまうかもしれないと無意識に怯えていたんだろうな、と今では思う。
すると涼ちゃんはさみしそうに笑いながらも、だいじょうぶだよ、といつものように言葉を告げた。
「あのね、元貴。本当にいいんだ。んー……さみしいな、とは思うけど、若井の気持ちもわかるんだよねぇ。元貴を信じて今までついてきて、元貴とバンドがやりたい若井からしたらビジュアル先行で選ばれた僕をいやがるの、仕方ないじゃん? キーボードやったことなかったから、まだまだ下手だしね」
「それはっ」
「聞いて。……でもね、別にどうでもいいんだ」
「え?」
心がひやりとした。心臓が軋む音が聞こえた気がして、血の気が引く。それに気づいた涼ちゃんが慌てて両手と首を取れるんじゃないかっていうくらい激しく振りながら、ちがうちがう! と叫んだ。パタパタと肩にかかるサラサラの髪が音をたてた。
「若井がどうでもいいっていうわけじゃないよ! えっと、そうじゃなくて、僕は、元貴に選んでもらえるなら、それだけで頑張れるって話なの! 若井と仲良くなりたいのは嘘じゃないし、これからのことも考えたらもっと信頼してもらえないとなって思ってる。ただ、若井も言ってたけど、聴いてくれる人達に受け入れてもらえてない部分があるのは事実で、もしかしたら僕は居ない方がいいんじゃないかなって思ったこともあるんだよね」
「なに言ってんの!?」
不躾に悪口を言う奴らのことなんて気にしなくたっていいのに! クソみたいな放言に傷つく必要なんてないのに!
思わず叫んだ俺を宥めるように涼ちゃんは、落ち着いて、と微笑んで握り締めた俺の手に自分の手を重ねた。怪我しちゃうよ、ってやさしく撫でた後、真っ直ぐに俺を見た。綺麗な目に、俺の泣きそうな表情が写り込む。
「……でもね、僕、ワガママだけどMrs.でいたいんだ。元貴の歌を彩る若井のギターの音に僕の音も重ねたいんだ。だから、その場所を守るためなら、他の奴の言うことなんてどうでもいいんだよ。まぁ……そのために若井には認めてもらわないとダメなんだけどね」
本当は傷付いているくせに、なんでそんな強がるの。泣きそうな顔をしてるくせに、なんで笑うの。どうでもいいなんて思っていないくせに、傷付いた心に、なんで寄り添わせてくれないの。
なんでワガママだなんて言うの。堂々としていいんだよ、涼ちゃんがいるのが当たり前なんだから。
不意に目頭が熱くなって、ぐっと唇を噛み締める。だぁめ、傷付いちゃうよ、なんて指先でちょんと俺の口に触れて、涼ちゃんは困ったように笑った。
「若井はさ、努力家だよねぇ」
「ん……?」
急に転回した話題に戸惑う。そんなことを気にしない涼ちゃんは、にこ、と笑った。
「元貴のえげつない要求に応えるために、いっつも死ぬ気で練習して、絶対形にしてくるでしょ? あれ、本当にすごいと思う。すごく尊敬する。僕もいっぱい練習しているつもりだけど、全然敵わないなって思うもん」
「そんなことない、涼ちゃんもそうじゃん……」
「そう? そうだとうれしい」
ふふ、と笑う涼ちゃんに、ゆっくりと抱きついた。おぶ、と変な声を上げながらも抱き止めた涼ちゃんが、俺の背中をやさしく撫でる。涼ちゃんの手は、初めて握ったあの日からずっとやさしいままだ。すり、と涼ちゃんの首筋に頬を擦り寄せると、くすぐったいよ、と笑いながらも抵抗されなかったから、しばらくそのままぐりぐりと堪能する。ケラケラと笑いながら俺のしたいようにさせてくれる。
「それにさ、ね、元貴」
「なに? 離れないよ」
「もー……。若井、しまった、って顔してたよね」
「え、そう?」
「若井もね、僕を傷つけるつもりはなかったんだと思う」
「……よく見てんね」
「ふふ……若井もこのチームが好きなだけ。あー……でも、どうしようなぁ」
「まさか抜けるとか言わないよね!?」
「ぅえ、あぶなッ、さっきの話聞いてたぁ!?」
勢いよく顔を上げた俺とぶつかりそうになるがギリギリで回避して叫んだ。
聞いてた、聞いてたけど。確信できる言葉と安心を涼ちゃんの言葉で聞きたかった。
顔を涼ちゃんの首筋から離してじっと見つめると、困ったように笑った涼ちゃんが泣きそうな俺の眦にそっと指を這わせた。
「元貴が要らないっていう日まで、傍にいるよ」
「そんな日、一生こない」
「んははッ、じゃぁずっと一緒だ」
輝くように破顔した涼ちゃんにもう一度抱きついて、思いっきり力を込める。
痛い痛いと叫ぶ涼ちゃんを仕方なしに解放し、若井と話そう、と意を決して告げる。涼ちゃんは綺麗に微笑んで、そうだね、ちゃんとごめんなさいするんだよ、と穏やかに言った。
つづく。