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事実とは無関係で全て妄想で幻覚です。
少し緊張しながら憤った若井を宥めてくれていたメンバーたちに若井の居場所を聞き出し部屋に向かう。静かにドアを開けると室内には若井しかいなくて、他のメンバーは? と訊く前に若井がソファから立ち上がった。殴ったりはしないだろうと信じていたけどびくと震えた俺を護るように涼ちゃんが前に立った。ちょっと、と涼ちゃんの肩に手をかける。だいじょうぶ、とまたいつものように言った涼ちゃんを見て、唐突に気づく。小さくその肩は震えていた。
ねぇ、その、だいじょうぶ、って、自分に言い聞かせてるんじゃないの。
気づくのが遅すぎたけれど、気づいた以上、若井がこれ以上涼ちゃんを傷つけたらどうしよう、と、とにかく涼ちゃんを護らないと、と俺が行動に移す前に若井が深く頭を下げた。
びっくりして目がまんまるになる俺と涼ちゃん。
「――ごめん」
短い謝罪だったけれど心から詫びているのがわかる姿に、おや、と思った。
数秒後頭を上げて気まずそうな表情を作った若井は、それでも涼ちゃんから目を逸らさなかった。
「……解ってるから頑張ってること。知ってるから、ちゃんと。……ここに、必要だから」
「ぇあ? あ、あり、がと?」
あまりな急展開に戸惑いながらもお礼を述べる涼ちゃんに若井は小さく笑い、俺に少しだけ視線を送ったあと、おどおどする涼ちゃんをもう一度見た。
「で、提案なんだけど」
「へっ? あ、はい」
「一緒に住もう」
「は? なんそれ」
思わずこぼれ落ちた俺の声に若井は声を立てて笑い、妬くなってぇ、と言った。うるせぇ妬くだろそんなん。
涼ちゃんの後ろから睨み付けると、真剣な表情に戻って真面目な話さ、と続けた。
「休止期間中、何ができるかを考えてみたんだよね。コロナっていう制限もある、し、俺……、ッ、涼ちゃん、のこと、よく知ろうとしてなかったなって」
公の場では姓で呼ぶようにしていたが、仲間内でも頑なに若井は藤澤、と呼んでいた。それが二人の間の壁のようになっていたけれど、それを敢えて愛称で呼んだ。
そこに若井の変わろうとしている努力が見えて、じわりと心があたたまる。
「だから俺と一緒に住もう。涼ちゃんのこと、もっとちゃんと教えて」
告白かよ、と頭の片隅でツッコミを入れつつ、涼ちゃんの背中から抜け出して若井との間に入る。真正面から向き合った俺に、元貴もごめんなー、とだいぶ雑に謝った若井の肩を、テキトーか、と軽く小突く。大して痛くもないくせに、いってぇ! と大袈裟な反応をする若井と、視線を合わせて笑い合う。
穏やかな空間、これが、俺たちのはじまりになるだろうな、と感じる。
何も言わない涼ちゃんの顔を見ると、放心したような表情をしていた。頭が追いついていないのかもしれない。
「涼ちゃーん? 息してる?」
「……っは、あ、うん、生きてる、え、生きてるよね? 夢、だったりする?」
「どういうことなのそれ」
「や、だって、若井が、涼ちゃんって……解ってる、って、ひ、ひつ、よ……って……」
じわじわと涼ちゃんの目が潤み、容量を超えて静かに頬に涙が伝った。
慌てた若井が結構な力で俺を押し退けて涼ちゃんに近づき、少しだけ躊躇ったあと涼ちゃんを思いっきり抱き締めた。勢いの割には丁寧に、まるで宝物にでも触れるように。
おまえね、もう少し俺も気遣え。
「ごめん、冷たく、して。酷いこと言って、ごめんなさい」
「……っ、ぅ、ん」
ポロポロと静かに泣く涼ちゃん。ごめ、止まんなくて、と涙をごしごしと拭う涼ちゃんの掌を、身体を離した若井が慎重にやめさせ、涼ちゃんの指に自分の指を絡める。至近距離で見つめ合う二人は、もう少しでキスでもしそうだ。……背中どついてやろうか。いや、それは俺がいやだな、俺もまだしてないのに。
「一緒に、住んでくれる?」
「……ん、僕も、若井のこと、もっと知りたい」
ふにゃ、と笑った涼ちゃんに、若井はありがと、と言って、涼ちゃんの頭を抱え込むように抱き締め直す。おーい、俺の存在見えてる? もしかして小さくて見えない? キレるぞ。
そろそろ寂しいんですけど。
モヤっとした感情をそのままぶつけるために、抱き合う二人に飛びつくようにまとめて抱き締める。
「いってぇ元貴!」
「うるさい」
「ふふ、あははッ」
涙でぐしゃぐしゃなのにやわらかく笑う涼ちゃんと、泣くのを堪えているのが丸わかりな若井。
……ああ、二人に会えてよかった。信じてくれてよかった。だいじょうぶ、だいじょうぶだ、俺たちは。
俺もなんだか泣きたくなって、深呼吸をひとつする。俺の顔を見た二人に、不敵に微笑んで見せる。
「ここが終わりじゃないから」
ここからまた、始まるから。
つづく。