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放課後の図書室。窓から差し込む夕日が机の上に伸びて、赤い光がノートの罫線を染めていた。 三年生の先輩 佐伯先輩は、いつも通り笑っていた。
赤ペンを片手に模試の問題を解きながら、私に気さくに声をかけてくれる。
「この公式ね、覚え方のコツがあるんだよ。ほら、こうすると簡単でしょ?」
彼女の笑顔はまるで太陽みたいで、隣に座っていると、不思議と不安が薄れていく。
……でも。
その笑顔の裏側が、私は気になって仕方なかった。
だって、受験まであと数か月。
周りの三年生たちはみんなピリピリしていて、たまに口げんかになったり、休み時間も黙々と単語帳をめくっている。
そんな中で、佐伯先輩だけは、ずっと変わらない。
にこにこして、後輩の私に勉強を教えてくれて。
まるで「受験なんて楽勝だよ」って顔をしている。
─本当に、大丈夫なんだろうか。
「……先輩、疲れてないですか?」
思わず問いかけると、先輩はきょとんとした顔をしてから、またふわっと笑った。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。二年生なのに優しいな、君は」
そう言って、私の頭を軽くなでる。
その仕草に胸がぎゅっとなるけれど……やっぱり、納得できなかった。
先輩はきっと、誰にも弱音を吐けないんだ。
無理をして、抱え込んで、それでも笑っているんだ。
私は先輩の笑顔が好きだ。だけど、本当の気持ちを隠した笑顔なら、嫌だ。
だから決めた。
たとえ後輩でも、先輩の支えになれるように。
いつか、あの笑顔の奥にある本音を、聞き出してみせる。