王都の観光に夢中になり、気がついた頃にはすっかり日が落ちかけていた。
今日一日でかなりの場所を回ったが、流石に王都の名所全てを回れたわけではない。
「もうそろそろ夕食でも食べに行こうか?」
「あっ、確かに暗くなってきましたね。どこに行きましょうか」
「一応、あの宿でビュッフェ形式の夕食が食べれるみたいだがどうだ?」
「ビュッフェ…?って何ですか?」
そういえば元貴族だった俺には馴染み深い形式だったがルナは知らなくても当然か。
俺はルナに簡単にビュッフェ形式とは何か?について説明する。
「いろんな種類の料理から食べたいものを好きなだけ取って好きなだけ食べる…何だか夢のような食べ方ですね!!」
「どうする、一度経験してみるか?」
「はい!ぜひ!!」
そういう訳で夕食は宿に戻って食べることとなった。
そして宿に戻ってきて早速食事会場に案内してもらった。
夕食ビュッフェ提供開始の時間から時間が経っていたため他のお客さんはあまりいなかったが、ルナにとっては逆に良いだろう。
そうしてルナは初めて体験するスタイルの食事に少し戸惑い緊張しながらも終始笑顔で幸せそうに料理を食べていた。
デザートまであることに感動しながらもうこれ以上食べれないと大満足の様子に俺も十分満足できた。
そうして少し部屋で休憩した後、俺たちは少し夜の王都を食後の運動がてら散歩してみることになった。
流石に建国祭期間中だからとはいえ、この時間帯は人通りも少なくなって僅かに建物の中から人の声が聞こえる程度で静かなものだった。
「オルタナさん、ありがとうございます」
「ん…?急にどうした?」
横で一緒に並んで歩いていたルナから突然感謝を告げられる。俺は感謝されるようなことをしたかと記憶を辿る。
高級ビュッフェを食べることが出来たこと…?
高級宿に泊まれたこと…?
それとも他に何か…
「オルタナさんが私を建国祭に誘ってくれなければこんな素晴らしい経験はできませんでした。高級な宿に泊まれたこと、すごい料理を食べれたこと、そして何よりこんな楽しい時間を過ごせたこと、私にとって宝物のような思い出になりました!」
「そうか、そう言ってもらえて俺もよかったよ」
俺はルナの方へと視線を向けると彼女はとても幸せそうに笑っていた。その表情を見た途端、俺は王都に来てよかったと心の底から思えた。
「オルタナさん、もしよかったら…また建国祭行きませんか?」
「ああ、また来年な。だがまだ今年の建国祭もまだ終わってないぞ」
「ふふっ、そうですね!あと2日間も楽しみましょうか!」
俺たちはお互いに顔を見合わせて頷く。まだまだこの観光旅行は楽しい思い出が出来ていきそうだ。
そう思っていたその時…
「「!?」」
俺たちはほぼ同時に同じ方向へとすぐに顔を向けた。突然の出来事にルナは困惑している様子であった。
「お、オルタナさん…これってまさか…?!」
「…ああ、間違いない。気配は以前より弱いが同じ系統の魔力だ」
「な、なんで王都の中で禁魔獣の魔力が…」
「とりあえず向かうぞ!」
「は、はい!!」
そうして俺たちは急いでその魔力の方へと走り出した。建国祭で盛り上がっていた王都も遠くから悲鳴が上がり始め、周囲はパニック寸前となっている。
「な、なんだあれは?!」
「きゃーーーーー!!!!」
俺たちが感じた魔力のもとへと向かっているとすぐ近くで悲鳴と困惑の声が聞こえてきた。すぐに止まってそちらを確認すると、そこには大きな魔方陣が現れているのがちらっと見えた。
「あ、あれは召喚魔方陣…?!」
「ルナ、少し止まってくれ」
俺はルナを引き留めて曲がり角の手前にある建物の陰に身を潜めた。そして俺たちはバレないよう少しだけ角から顔を出して召喚魔方陣がある方を観察する。
「なんで隠れたんですか?早くいかないと街の人たちが…」
「あれを見てみるんだ」
「……っ!あ、あれって…」
召喚魔方陣が現れた場所をよく見てみるとそこには魔法を発動させている魔法士団の制服を着ている人物が確認できた。
「まさかあの人がこの騒ぎの元凶…ですか?」
「いや、あれは王国魔法士団の制服を着ているからおそらくこの騒ぎを起こしているのは魔法士団そのものと考えていいだろう。王都内各地で魔法士団員が禁魔獣を召喚しているのだろうな」
「ま、魔法士団が?!どうしてこんなことを…」
「まあおそらく魔法士団長と第一王子が何か企んでいるのだろう。可能性は少ないが魔法士団を騙った外部勢力の仕業という線もなくはないが、アイリスから聞いている情報を加味したらあれは本物の王国魔法士団と考えていいだろう」
まさかこんなに早く事を起こすとは正直思わなかった。しかもこんな国内外から多くの人が集まる建国祭の時期に実行するだなんて何を考えているのか。やつは戦争でも引き起こしたいのだろうか。
「それにしてもあの魔法士団員…禁魔獣を召喚したのにも関わらず何も行動を起こす気配がないのが気になるんだ。一体何を企んでいるのか…」
「確かに気になりますね」
「相手が何もする気がないのであれば逆に攻撃を仕掛けるのはかえって住民に被害を与えかねない。とりあえず今は状況の確認と情報収集が先決だろうな」
「わ、分かりました」
そうして俺は偵察用の超小型飛行型ゴーレムを数体街へと放つ。そしてそれと同時に魔道衛星を起動させて範囲を王都周辺に絞って稼働させておいた。
「そういえば王女様は無事なのでしょうか…」
ルナが少し心配そうに小声で呟いた。確かに魔法士団がこうも大胆に動き出したということは王城でも何か動きがあったに違いない。
「確かにそうだな…一応ゴーレムに状況を確認させに向かわせているからアイリスに何かあればすぐに助けに向かおうか」
「そうですね、無事だといいな…」
アイリスの状況を案じつつ、俺たちはゴーレムの情報収集を待ちながら身を潜めながら魔法士団員たちの様子を伺い続ける。
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しばらくして俺のゴーレムの一体が王城にいるアイリスの近くに潜伏することに成功した。ただアイリスの状況はあまり良くはなく、かなり危機的であると言えるものだった。
「これは…少し不味いかもな」
「どうしたんですか?」
俺の呟きに反応したルナがアイリスの様子を聞こうとしたその次の瞬間だった。
ドガンッ!!!!!!!!!!!!!!!!
「?!」
「あ、あいつ…」
王城に一番近い禁魔獣の反応のあった場所から大きな爆発が起こった。十中八九、そこにいる禁魔獣の仕業だろう。
「お、オルタナさん!どうしますか?」
「今のは第一王子が王城にいる貴族たちに見せしめで命令した攻撃のようだ」
「第一王子が?!どうしてそんなことを…」
「アイリスの近くに向かわせたゴーレムからの通信で王城での会話の一部を聞いたのだが、状況を一言で表すなら第一王子による反乱だな。現状、俺たちは王都にいる人たちと王城にいるアイリスたちを同時に人質に取られているようなものだ。先に街にいる禁魔獣を倒しまわれば王城にいるアイリスが危険に、先に王城に行って本丸を叩こうとすれば街の人たちに被害が生じるだろう」
「は、反乱って…それに人質も。一体どうすれば…」
第一王子と魔法士団が手を組んで組織立ってこの騒動を起こしている以上、彼らの性格上かなり綿密に計画を立てリアルタイムに連絡を取り合って行動しているのだろう。
その証拠に王城で第一王子が発言した直後に街にいる魔法士団員が行動を起こしていた。おそらく王都全域で使える通信用の魔道具を作戦の主要人物全員が持っているのだろう。
下手に刺激すれば即座に情報を共有され無駄に被害を生んでしまうだけだろう。その魔道具を無効化できればいいのだが、実際に実物を確認しないと無効化は出来そうにない。
ならば出来る方法を一つだけだろう。
「ルナ、俺たちは王城へ向かう。一緒についてきてくれるか?」
「えっ、あ、はい!でも街にいる禁魔獣たちはどうするんですか?もしかしたら街に被害が出ちゃうんじゃ…」
「そこは心配しなくていい、方法はちゃんと考えてある」
そうして俺は禁魔獣との戦いを経て新たに最近開発をしたばかりの魔道具を取り出し起動させた。その魔道具を魔道衛星とリンクさせて作戦を実行させる。
「これで準備は完了だ。では俺たちも行くぞ!」
「はいっ!!!」
そうして俺たちは急いでアイリスのいる王城へと向かって飛んで行った。
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