テラーノベル
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真剣に腕を縫う鳥飼の邪魔をしないよう顔を逸らす鳴海。
鎮痛剤も効いてきたのか痛みはそれほど無い。
骨折はしてないが何ヶ所かヒビが入っているのでそれを治すのに目を閉じて意識を集中させる。
粗方縫い終わった鳥飼が顔を上げると目を瞑る鳴海の姿があった。
「(横顔きれーだな…胸デケェ…これヤベェかも。つーか、この距離はダメだろ…)」
少し手を動かせば、簡単に抱き寄せられてしまう距離。
意識しないようにと頑張っても、目の前の胸にどうしても目がいってしまう。
気づけば、豊満な胸に手が伸びていた。
「ひゃっ!う、羽李ちゃん!?」
「あ…悪い…」
「助平だ!!!むっつりスケベ!!」
「誰がむっつりスケベだ!それにそんなエロい胸してるのが悪いだろ!」
「え?」
「襲われたりしたら「襲われるって?」
「!」
押し倒してきた鳴海の瞳に吸い込まれそうになる鳥飼。
胸に触れた手とは反対の手は頭上に縫いとめられた。
「羽李ちゃんは…胸が大きい人は嫌い?」
「そ、れは…」
「触りたいんでしょ?いいよちょっとなら」
ふわふわの胸に手を持っていき揉むように促してみる。
鳥飼の顔を見ると有り得ないぐらいに顔が赤くなっており鼻血が出そうだった。
「あれ?男にこんなのされるの初めてだった?」
「当たり前だろ…っ!」
「はは、ウブだね。可愛い」
「可愛くねぇ!!」
「ダメだよ?油断したら」
そう言いながら鳥飼の耳に顔を寄せる。
ゼロ距離で感じる吐息にゾワゾワする感触を覚える鳥飼。
「そんな反応されちゃったら…イジワルしたくなっちゃうな」
「っ…」
「なんてね!でもダメだよ気を付けないと。ソウイウ人もいるからね」
鳥飼がキャパオーバーを迎える前にパッと離れた鳴海。
この事を鳥飼は後に “アレはヤバかった” と語る。
時は少し遡り、鳥飼が桃太郎と戦っている時のこと…
研究所から立ち昇る爆発の煙を見つめる集団がいた。
「煙出てんぞ?」
「鬼國隊が動いたか。」
「鳴海さんと矢颪君、大丈夫かな?」
崖の上から研究所を見下ろすのは、無陀野率いる羅刹学園のメンバーだった。
途中の村で娘を助け出したい男と鳴海の部下と出会い、総勢9人の大所帯だ。
突入するにしても、しっかり作戦を立てないと芋づる式にやられてしまう。
まずは遊摺部が自身の能力で研究所内の様子を探った。
「あの研究所、凄い桃の数です。鬼の反応もあるので、鬼國隊と牙隊かと思います。」
「娘は!?捕まった奴らは!?」
「……あ!鬼の反応が集まってる所があった!」
「マジ!?」
「…けど重なってて階数とかがわからない…!でも鬼の反応に重なる生物反応がないから、捕まった鬼はたぶん最上階付近にいると思います!」
「じゃあとにかく上目指せばいいのか。」
「先生、少し離れた位置に2人鬼の反応があるんですが何でしょうか…?」
「(2人なら片方は鳴海だと思ったが…中にいると聞いたから恐らく鳴海の部下…)1人は鬼國隊の一員だろうな。援護要員の可能性が高い。遊摺部はそっちの鬼に接触しろ。もし遊摺部の能力に役立つ奴なら応援を頼んでみろ。敵意を見せた場合は逃げて、安全な場所で待機だ。あと1人は逃げ足が異常に速い奴と聞いているから無理に接触する必要は無い」
「わかりました!」
そうして指示を出しながら、無陀野は木の皮を削り取って丸めると、上空に向けて投げつける。
他の誰一人として見えていなかったが、彼が投げた木屑は敵が飛ばすドローンに見事直撃した。
「それと1つお前らに言っておく。…敵はすでにこちらの存在に気づいている。気を引き締めろ。」
無陀野の一言に、生徒たちは今一度気合いを入れ直すのだった。
そして別行動をする遊摺部を送り出し、いよいよ本拠地へと乗り込む時が来た。
「作戦としては正面突破。この人数で隠密は不向きだからね。1階の煙は鳴海隊長が戦った後だと報告が上がってるから無視してもいいよ。闇雲に捜すより、気になる所から捜す方が早い。敵は大人数。みんなの事を守るよう言われてるけど自分の身は自分で守る事。」
「なぁ晶ちゃん。」
「なぁに?」
「…鳴海、大丈夫だよな?ケガしたり、戦いに巻き込まれたり…そういうの、ないよな?」
「んー無理じゃないかな。あの人根っからの喧嘩好きだし。命がかかる戦闘ほど興奮するとタイプだから。」
「そっか…」
「隊長はそんな簡単にやられるような人じゃないから大丈夫だよ!!それに私たちがいるんだよ?こんなとこで負けたりなんかしたら牙隊の名に泥塗るようなもんだし!!」
「おう…!何にしても、俺らが1分でも早く合流すればいい話だよな!」
「分かってるじゃん!しっきー!」
仲間と鬼を助けるため、羅刹メンバーが研究所での戦いに参戦した。
時は戻り、視点は再び鳴海の元へ…
情報収集する為に3階へと向かっている鳴海。
だがあちこち走り回っているにも関わらず、一向に桃太郎に出くわす気配がないことに疑問を抱き始めていた。
「(いくらなんでも手薄すぎない…?)」
段々と不安になる鳴海だったが、不意に廊下の窓から外を見た時、その答えを知ることになる。
研究所前の広場のような場所に、信じられない数の桃太郎が顔を揃えていたのだ。
そして彼らの前には1人の鬼が、至極落ち着いた様子で立っていた。
「きゃーー!!!無人くんーーーー!!!」
一瞬敵地であることを忘れ、大きな声で名前を呼びながら窓へと駆け寄る。
窓は閉まっているし、距離も相当離れている。
鳴海の声が届くはずはないのだが、名前を呼ばれた瞬間、無陀野はパッとこちらへ顔を向けた。
限界オタクさながらバタバタする鳴海を他所に、彼は相変わらずクールな表情のまま少しだけ口角を上げる。
それから鳴海へ小さく手を振ると、無陀野は目の前の桃太郎を迎え撃つべく、前を見据えるのだった。
「はぁ…かっこいい…好き…♡♡…ん?無人くんがいるってことは、四季ちゃんたちもいるってことだよね…」
推しに元気をもらい、また走り出す鳴海。
それから10分も経たないうちに、鳴海は現在進行形で戦闘が繰り広げる部屋に到着した。
壁に耳をあてても中の音は一切聞こえないが、代わりにビリビリと壁が振動しているのを感じる。
恐る恐るドアを開けた鳴海だったが、僅かな隙間から漏れる騒音に慌ててドアを元に戻した。
「(今の何!?耳が壊れる!!紅ちゃんみたいな子がいた!!)」
ほんの数秒聞いた鳴海の耳ですら、一時的に聞こえにくい状態になってしまう程の音量。
迂闊に入れば、百目鬼の治療云々の前に自分がぶっ倒れてしまう。
どうしたらいいものかと頭を悩ませる鳴海の元に、1人の人物が姿を見せた。
「鳴海…!」
「! あ、迅!!」
無陀野から指示役を任された皇后崎は、2人1組で研究所の各階を捜索しようと考えていた。
しかし突入直後に同期が全員見事にバラけてしまい、作戦通りいかないことにイライラしながら彼らを捜しているところだった。
そこへ思いがけず想い人の姿を見つけたものだから、彼の感情は大忙しである。
一瞬にして負の感情が消えた皇后崎は、すぐに鳴海の元へ駆け寄った。
「ケガしてんじゃねぇか!大丈夫なのか!?」
「うん、大丈夫!かすり傷だから!」(※腕切断されてます)
「…良かった。」
穏やかにそう言って少し笑みを見せ、鳴海を優しく抱き寄せる皇后崎。
自分を見た時、安心したような笑顔を向けてきた彼が愛おしくて、自然と腕に力が入る。
それを心配から来るものだと思った鳴海は、申し訳なさそうに話しかけた。
「ごめんね。心配かけちゃった?」
「…かけたよ。だから会ったら一言言ってやろうって思ってたのに…」
「?」
「お前の顔見たら、全部忘れちまった。」
「迅…」
「本当に…無事で良かった。」
「うん…ありがとう。」
生徒からの真っ直ぐな想いを受け取り、鳴海の心は一気に温かくなる。
自分の嬉しさを伝えようと、皇后崎の背中に腕を回す鳴海。
想い人の突然の行動に、皇后崎は一瞬目を見開いた。
「(あーくそっ…このまんま離したくねぇ)」
「迅、本当にありがとね。」
「(ダメだ…これ以上鳴海の声聞いてたら、伝えちまう…)」
「迅?」
「(…お前のことが好きだ、って)」
今がその時でないことは、彼が一番分かっている。
だから気持ちを抑え込むように、今一度抱き締める腕に力を込めるのだった。
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