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何故、俺はここにいるのだろうか。
「ちょちょちょ!速いって!」
「おにぃが鈍りすぎなの!おりゃあ!!」
「ぎゃー!」
目の前で繰り広げられる鍛錬という名の一方的なリンチ、横には絵を描き続ける青年。
一体なぜ俺、無陀野無人がここにいるのかと言われると遡ること数時間前…
「兄弟が羅刹に来る?」
「そ!って言っても来るのはおにぃだけなんだけどね。」
よく晴れた日の朝食時にそう告げられた。
家族の事を話したがらない鳴海の口から “兄弟” というワードが出たことに驚いた。
「今度こっちに上京してくるからさ。桃があんまりいない地域に住まわせてあげたくて。」
「それと羅刹となんの関係が?」
「そんな都合良い賃貸なんて一朝一夕で見つかるわけないからそれまで俺が昔使ってたひとり部屋が空いてるから貸してあげようかと」
なんでそんなこと俺に言うのかと聞いた結果、俺が嫉妬しないようにとの事。
確かに俺は昔に比べて嫉妬しやすくなった気がする。
鳴海が知らない奴と話していたら割り込みに行くし、常に居場所は把握していたいという思いからGPS付きのものをプレゼントしたりしている。
「校長には話したのか?」
「うん。許可も貰ってるしなんなら講師として働いて欲しいって。おにぃ教員免許持ってて現場経験あるし」
「戦闘部隊なのか?」
「所属はしてないんだけど能力使っての諜報活動で鬼機関に貢献してもらってる感じかな」
「そうなのか…」
やはり家庭の事情が事情なので鳴海のような特殊体質な持ち主なのだろうと勝手に考えた。
「じゃあ今日は1日休み貰ったのか」
「うん。校長せんせーからはもっと休んで欲しいって言われちゃった」
「当たり前だろう。お前それでこの前倒れたんだから」
「う…꒰ ᷄⌤ ᷅ ꒱」
鳴海は基本休みたがらない。何をすればいいのか分からず、この倒れた件は書類処理に追われた結果の出来事である。
「休んでくれ。お前の為にも俺の為にも」
「無人の…為?」
「お前が寝不足だったらお前を愛でることが出来ないだろ。」
「っ!?」
「週1の楽しみをこんな事で使われたくないしお前の心音を聴きながら眠れないのもストレスだ。」
「一緒に寝る度に俺の胸に顔埋めて寝てた理由ってそれ…?」
「?そうだが」
「ア、ハイソウデスカ…」
一緒に行きたかったがこの日は週初めの月曜日。俺は授業があるため断念した。
「おにぃ遅いねぇ」
「ん…」
無人くんを見送った後、昔使っていた部屋を掃除して兄を迎えに船着き場へ足を運んだ。
5分程待っていると船が着き兄がヨロヨロと降りてきた。
「おにぃ大丈夫?」
「つ、疲れた…!」
「お外出ないから」
戦線離脱してから3年経っているので体力筋力共に衰えており今では立派なインドアになっている。
「そんなんでやってけるの?」
「筋トレ…し、し直すわ‥」
「…」
兄の荷物を弟に渡し、ヘロヘロの兄は米俵担ぎで部屋まで連れて行った。
「他の荷物は朝の便で来てたから運んどいたよ」
「お、やるやん」
「てか、荷物少なすぎ。」
「こっちで今後生活すんだし最低限しか持ってきてねぇよ」
「だからってダンボール3つは少ないと思うよ」
「にぃも少なかったよ?」
「う…」
末っ子の言葉に渋い顔をする鳴海。
今の一戸建てに引っ越す際、荷物は全て持ってきたのだがダンボール2箱にキャリーケースという少なさだった。
「俺、服とかよく分かんないし…あのダンボールの中身だって半分は本だし…」
「お前も人の事言えねぇな」
「あ、えっちなやつ入ってる」
「止めろ!!!!」
「こらこら。縫依にはまだ早いよ」
「むぅ…」
兄1人で住むには少し広い部屋を3人で手分けして片付けていく。
雑談をしながら話をしていると、片付け終了次第手合わせをしようという話になった。
そして冒頭に戻る。
「(昼休みだから顔出しに来たら居座る羽目になるとは…)実兄に対して容赦ないな」
「家に引き篭ってばっかりだからこうなるの!縫依見習いなよ」
「?」
鳴海の兄はボコボコのボロボロにやられて恨み言をブツブツ言っていたがすぐに起き上がりシャワー室へと足を運んで行った。
「無人くんもやる?あ、授業あるよね?大丈夫?」
「今日は午後休だ。少し顔を出しに来ただけだし、この後予定がある」
「そっかー。縫依は?」
「やる」
「お、やる気だ。」
そう言い向かい合う2人。構えが同じなのは鳴海を師事しているからだろう。
そうボンヤリと考えながら組み手をする2人を眺めていると2人の兄である穹が戻ってきた。
「いやぁ、酷い目にあった…」
「お疲れ様です」
「あ、おつかれ〜。君、無人くんでしょ?鳴海から話は聞いてるよ。自慢の人って」
「先輩にそう言ってもらえて恐縮です」
「俺は先輩って柄じゃないよ。それに羅刹卒業してないし、生きる伝説の君に敬語使われるとこっちが気遅れするっつーか?」
穹は元・一般人。後天的に鬼に変わり鬼になる前は普通の生活を送っていた。
鬼の歴史や現在の事情については鳴海から聞いてある程度把握しているので無陀野の伝説の事ももちろん知っている。
「だからさ気軽に話してくれてどーぞ。弟の旦那さんだから俺からしたらもう1人弟が出来たようなもんだからさ」
「じゃあそうする」
「切り替え早っ!www」
同期の花魁坂と似た匂いのする穹を横目に2人だけの雑談を始めた。
「結婚してどれぐらい?いつプロポーズした?」
「今年に入ってからだな。鳴海の目が覚めた時にプロポーズした」
「じゃあ新婚さんだ。いつから好きだったの?」
「学生の時から」
「ってことは…3年ぐらい片想いだった?」
「あぁ」
「一途だぁ〜!愛されてんねぇアイツ!ね、どこが好き?やっぱり胸?アイツ胸デケェもんなぁ!」
「胸もそうだが、強いて言うなら内面に惚れた」
「ほうほう」
「ヘラヘラしてるようでしてないけど物事をしっかり見据えていて、芯のある性格で、人の痛みに人一倍敏感で、俺のことをずっと好きでいてくれた姿勢に惚れた。」
「惚気んねぇ。愛されてんだね君も」
「まだまだだ。俺は鳴海から貰ってばっかりだったから」
「無人はさ、知ってる?俺らの昔の事」
少し声のトーンを落とした穹は鳴海を含めた自分達の過去を話し始めた。
「一族で鬼になったやつは俺を入れて数名。俺は19の時に鬼になったけど鳴海から下の弟妹は生まれながらの鬼だったんだよね。まぁ、親父はそれ嫌いだから売り飛ばしたんだけどさ。鬼ってさ回復能力高いじゃん?でも鳴海は違うんだよね」
通常の鬼に比べるとやや回復するのが遅い鳴海。それでも条件さえ揃えれば怪我が塞がるまでの時間はかなり早くなるらしいが、回復能力だけは桃太郎の血を引いたらしい。
「そのせいか鳴海は人体実験に回されることが多くてさ。顔の傷もそれが原因。」
「そんなの一言も…」
「言ったらさ君が怒ると思ったんだね」
「…」
「で、縫依は今年卒業したけどどこの部隊にも入れて貰えなかったらしいんだよね」
「は?」
「縫依はさ〜人を噛んじゃう癖があるんだ。甘噛みじゃなくてガチ噛みね?実習の時に桃太郎と戦闘になったらしいけど血を使って戦ったんじゃなくて静脈噛んで相手を失血死させたのが原因らしい。」
“らしい” と言いきれないのは証拠不十分だから。あの時、あの場所には首の1部が不自然な形で無くなっている桃太郎の隊員3名に右の口端が引き裂かれた縫依、そして刃の折れたナイフだけが転がっていたらしい。
「が、ナイフは桃太郎ので事がうまく進まなくてイライラした縫依がナイフで口端を切り裂き、3人共噛み殺した…が事件の詳細。だから、鳴海の部隊で預かることになったみたい。」
「よく知ってるな。」
「人脈は広く、が俺のモットーだからね」
悪い笑顔を見せる穹を見て無陀野は改めて鳴海の兄なのだと実感した。
「なんか聞きたいことある?言える範囲なら言えるよ」
「……鳴海が密かに行っている仕事について」
「いきなりだね」
「俺にも言えないことだと言われたからな。」
「ん〜どこまで話せばいいのやら…」
少し考えた穹は3つの言葉を口にした。
「”桃原家” “星の子供たち” “家の抹消”」
「?なんだそれ」
「桃原家は俺らの生家。星の子供たちは桃太郎の能力を純粋に引き継いだ家系直列の子を指す。ま、俺達以外の兄弟って覚えてくれればいいかな。抹消…というか乗っ取りって言った方がいいかな。」
「…何人いるんだ」
「具体的な数は知らないけど始末してきた子供たちは全部で4。取り逃がしたのは3。」
「多いな」
「これでも名家ですから。親父とお袋の愛人の子供とか入れたらその倍はある。」
桃原家では両親の不倫は黙認されている。ただでさえ元・鬼の血筋の家系なのだ。斑鳩兄弟のように隔世遺伝的に産まれてくる子もいる訳であって、純血な “桃太郎” が産まれてくる確率はそこまで高くは無い。
そこで行われているのが黙認されている不倫。外部に桃太郎の血を引く不倫相手を作りその子を宿す。それを繰り返してきて桃原家は今の地位に就いた。
「人権侵害もいいとこのお家に生まれた俺らはこの家の連中を消すことを決意。万が一、上にバレた際は俺が責任を負う形になってる。なんで俺かって話なのは俺が立案者だから。」
「…」
「…俺って言うか俺らとしては何も手出ししないでほしい。これは俺達 “桃原家” の問題だからな。鳴海もそう思ってるはずだ」
鳴海が密かに行っていた仕事の話を聞いた無陀野は何も出来ない自分を憎んだ。
二度と失う訳にはいかない最愛の人が危険を前にして動いているのに自分ときたら今の今まで何も知らずに生きていたことを恥ずかしく思った。
「何話してんの?」
「!」
いつの間にか鳴海が目の前に立っておりかなりの時間が経っていたことが伺える。
「あれ?陸玖は?」
「あ…」
「ぼくはここだよ」
「なんでお前外にいんだよ」
「力加減間違えたにぃにぶっ飛ばされた」
「何やってんだよ…」
「あはは…あ、無人くんもう行くの?」
「ああ。行ってくるよ」
行ってらっしゃいと笑顔を見せる鳴海を見た無陀野は人前なのに鳴海にキスをかました。
「!?」
「わぉ♡」
「鳴海…俺は世界中がお前の敵になっても俺だけはお前の味方だからな。」
「?う、うん…ありがとう…?」
そう言うと無陀野は訓練場を後にした。
「で?どこまで話したの」
「家の事と星の子供たちと家の乗っ取り」
「それだけならまぁいいか」
「及第点だろ?」
「ギリね…無人くんには首突っ込んで欲しくないんだけどなぁ〜。死んで欲しくないし」
「姉ちゃはお話した?」
「ぜ〜んぜん!全くこれっぽっちも話してくんなぁい。」
「これじゃ家が何処にあるか分かんねぇなぁ…菊華も知らねぇって言うしよぉ」
「捕虜痛めつければ話は早いよ。あと4人いるからね」
「お前ンとこの部下の拷問エグいよなぁ」
「アレは本人の癖だからねやらせてあげられるならやらせてあげないと」
※この後無陀野は穹と連絡先を交換し鳴海の写真を送り合う仲になる。