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宇宙に出た私とアリアは、しばらくそのまま真っ直ぐに飛んだ。惑星アードの近くにあるワームホール転送機、通称“ゲート”を目指してるって言った方が早いかな。

『間も無く惑星アードの重力圏を離脱します』

アリアの言葉を聞いて私は一度だけ振り返って第二の故郷を見つめた。地球と同じ豊かな自然を持つ惑星アード。いわゆる海洋惑星で、陸地面積は地球の半分以下。大きな大陸は存在しなくて、小さな島が広い海にポツポツとあるだけの星。だから私達には翼があるんだと言われてる。猿じゃなくて鳥が進化したのが私達なのかもしれないね。

『ティナ、ホームシックですか?』

「あはは。だとしたら早すぎるよ、アリア」

『それもそうですね。それで、目的地はどちらですか?』

「あっ、ちょっと待ってね」

私は腕に着けてる腕時計みたいな形のデバイスを弄る。これ一つで何でも出来る高性能デバイスだよ!型落ちだけど。

私の目の前に仮想モニターが現れたから、私はそれに触れて操作してフライトプランをアリアに送信する。

「こんな感じで考えてるんだけど」

『拝見しましたが、寄り道が多いですね?』

「まあ、お仕事だからねぇ」

今回私は真っ直ぐ目的地を目指すのではなくて、進路上に存在する幾つかのゲートを経由することになってる。

宇宙開発最盛期、銀河中に数百のゲートが建造されて、そこには小規模な宇宙ステーションも建造されてるんだ。

今となっては全部無人なんだけど、それが今どうなってるか。惑星アードからの観測じゃ限界があるからついでに見てこいってこと。

寄り道にもほどがあるけど、あちこちの恒星系を直に見ることが出来るのは素直に嬉しいかな。

『了解しました、フライトプランに則って航路を策定します。ゲートへデータを送信』

私の視界に、真っ黒で大きな三角形の建造物が見えてきた。あれがゲート。ワームホール、まあハイパースペースの入り口。他に存在する出口との間を瞬時に移動できる、宇宙で活動するために必須のテクノロジー。ロマンがあるよねぇ。

私達が近付くとゆっくりとゲートが開いていく。そこに写し出されているのは無数の星。

『座標指定完了。突入します』

「うん、お願い」

私達はそのままゲートへ入る。途端に景色が変わり、極彩色の鮮やかな光が流れる不思議な空間に入った。これがゲートとゲートを結ぶ“ハイパーレーン”と呼ばれる空間。まあ、トンネルみたいなものかな。

残念ながらあっという間に到着するなんて事はないので、少し休むことにするよ。

「アリア、ちょっと休むよ。何かあったらすぐに知らせて」

『了解しました、ティナ。ゆっくり休んでくださいね』

シートについているボタンを押すと、シートが回転して後ろを向く。すると目の前には、明らかにX型スターファイターより広い空間が現れる。これが圧縮魔法を応用した居住空間、通称“トランク”だよ。見た目は小さなトランクケースなんだけど、中にはその数百倍の空間が用意されていて物なんかも自由に持ち込める。しかも物の重さもほとんど無くなるから大量に運ぶことが出来る。

これを応用すれば物流にも使える。と言うか基本的には物流会社が使う魔法具だね。

私はそれに自分の部屋をまるごと収納してある。ベッドに収納箱、ダイニングキッチン、バスルーム、トイレまで備えた完璧空間だよ。難点はトランクの中だから外を見ることが出来ないことかな。つまり、景色を楽しむことは出来ない。残念だけどね。

これが小型でも艦船なら宇宙を眺めながら眠れるんだけど……仕方ないか。

「あー……疲れたぁ……」

興奮しっぱなしで疲れた私は着替えるのも面倒になってそのままベッドにダイブ!あっさり意識を手放した。おやすみなさーい。

『ティナ、ティナ。起きてください』

「んぅ……おはよーアリア」

熟睡していた私はアリアに起こして貰った。アラートを鳴らした筈なんだけど……寝たら中々起きられないのが私の数多い欠点の一つなんだよねぇ。

「どのくらい寝てた?」

『5時間です。間も無く最初の目的地に到着しますので、準備をお願いします』

「はーい」

私は手早くシャワーを浴びることにした。と言っても宇宙空間でシャワーなんて危険だからね。湯船なんてまず無理だ。ではどうするか?

裸になって呼吸が出来るマスクで口と鼻を隠す。で、シャワー室の中心で浮いたまま四方八方から浴びせられる水で身体を洗う。まるで洗車だよ。いや楽だけどさ。

私は身体を清めて手早くいつもの天使みたいな格好を……ああ、違う違う。ノーマルスーツを着用してダイニングキッチンにあるシートに座る。で、ボタンを押すとシートが回転して空間から抜け出し、コクピットに戻る。

「準備できたよ」

『間も無く到着します。備えてください。ゲートアウト』

極彩色だった景色はまた星の海に変わったけど、違いがあるとするならそこは中心に赤い小さな恒星を持つ星の集合体、つまり星系に辿り着いたってこと。

「わぁ!|赤色矮星《せきしょくわいせい》だ!」

|赤色矮星《せきしょくわいせい》って言うのは、簡単に言えば凄く小さな赤い恒星のこと。質量は平均で太陽の七パーセント前後。大きなものでも観測された奴だと太陽の半分程度の大きさしかない小さな恒星なんだ。

その代わり燃費が滅茶苦茶良くて、軽く数兆年は輝き続けると言われてる。うん、スケール大きすぎて訳分からないよね。それがロマンなんだけど。

『80番ゲートに到着。これより観測を開始します。ティナ』

「分かってるよ、アリア。ちゃんとお仕事しないとね」

これが調査船とかなら観測ポットを使って簡単に終わるけど、スターファイターだしね。

一個一個の惑星をぐるりと一周する必要があるんだ。面倒だけど仕方ないよね。

『星系内に四つの惑星を確認。観測を開始します』

私はスターファイターを操作して四つの惑星全部の周りをゆっくりと一周して、観測を助ける。大きな星は無さそうだし……生き物も居ないかな。

『生命反応は検知されませんでした』

「だろうねぇ」

赤色矮星は表面温度が平均2000℃前後。太陽が確か平均6000℃前後あった筈だから、1/3しか熱を持っていない。

それは放出するエネルギーの少なさを意味するんだ。しかもこの星系にある星は4つ全部水が存在しなかった。生命が育まれるのは難しい。

ただ、そんな赤色矮星が銀河に存在する恒星の中で一番数が多かったりするんだよね。ある計算じゃ銀河に存在する恒星の6割から7割が赤色矮星だと言われてるし。

「宇宙は広いねぇ、アリア」

『まだ本星から100光年の位置ですよ、ティナ。これから嫌でも宇宙の広さを実感できますよ』

「だよねぇ。よし、調査は終わったし次へ行こっか」

長居してても仕方がないしね。

『では、次の星系へ向けて出発します』

「お願い」

私達は再びゲートに入り、次の目的地を目指す。次はどんな星が見れるのか、今から楽しみだね!

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