テラーノベル
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無事に家に戻ってからは、父親に大層心配された。
ディルクが荒らした部屋はすぐ発見され、王室にまで即座に連絡されたそうだ。
かねてよりリリーとレイヴン商団の繋がりを疑っていたルシアンが、すぐに居場所を暴いてくれた。
リリーは何事もなかったように学園に復帰している。以前よりもルシアンと一緒にいる時間が増えた。
イソトマはというと。父親の言付けで、授業以外の時間のほとんどをディルクに護衛してもらうことになった。
その結果、何が起きたかというと。
恋人のように寄り添うルシアンとリリー。
夫婦のようにべったりなイソトマとディルク。
二組のなんちゃってカップルが誕生した。
「これって何か、意味があるの?」
アフタヌーンティの時間。今日はイソトマとディルクが揃ってお呼ばれしている。ルシアンの隣にはリリーが座っている。
四人でお茶会という名目の作戦会議だ。
「大いにあるよ。私とイソトマが疎遠になれば、リリーの入り込む余地が生まれる。レイヴン商団はリリーを王族に潜り込ませたい。現状は彼らの思惑通りだ」
ルシアンがニコリと笑んだ。
リリーは仲間に失敗を悟られることなく、レイヴン商団に戻れたらしい。すっかりルシアンのスパイになっている。
それにしても、とイソトマは思う。
(ルシアンは、こんなに逞しい人だったっけ?)
公の場では何とか堂々と振舞っているけど、その実、気が弱い。穏やかで優しすぎる性格だから、弟のノアルのほうが王様に向いているかも、なんてゲームユーザーの間では噂されていた。
(この世界のルシアンは、穏やかだけど、堂々として迫力がある。無理してる感じもないし……むしろ、静かな圧が怖い)
優雅にカップを傾けるルシアンを凝視する。
「熱い視線を送ってくれるのは、嬉しいね。イソトマ」
全然こっちを見ていないのに、気付かれた。
ドキッとして、イソトマは目を逸らした。
「今は捜査のために疎遠な振りをしているけど、イソトマは僕の婚約者だ。忘れないようにね、ディルク」
イソトマの隣で、ディルクが紅茶をむせ込んだ。
「わかっています」
「本当かな」
ディルクの返答に、間髪入れずに返すルシアンが、怖い。
「許してやれるのは、一度きりだ。次はないよ。お前の犯した罪は既に重いのだから」
ルシアンの目が鋭くディルクを射抜く。
「……肝に銘じます」
ディルクが気まずそうに返事した。
イソトマは首を傾げた。
「ディルクは何もしていないと思うけど。何かあったの?」
三人が、一斉に目を見開いた。
リリーまで驚いた顔をしている。よくわからない。
「いいかい、イソトマ。ファースト、というのは、何事においても大事なんだよ」
ルシアンが口元に人差し指をあてる。笑っているようで目が本気だ。
イソトマは頷いた。
「それは、そうだよね。わかる」
初めての何か、カップルにとっては全部大事だ。
ルシリリにも本来なら、そういうのを期待したい。
(けど、無理だろうなぁ。なんたって偽装カプだもん)
いずれ嘘が真実になればいいと期待しているが、今すぐには期待薄だ。
(大丈夫、僕は待てるオタクだから。信頼と絆をじっくり育ててもらおう)
いずれ、ルシリリのファーストがいっぱい拝めるといい。
そのためには目下の問題の解決が重要だ。
「この偽装は、レイヴン商団を釣り上げるため、なんだよね」
大型キャラバンを装いながら、その裏で人身売買をしていると噂の商団を、ルシアン自ら捕縛するための罠だ。
今の状況は、リリーにスパイをさせるための環境作りだ。
「そうだよ。レイヴン商団だけは、私が捕まえないといけないんだ。なんたって、約束したからね」
ルシアンが隣に座るリリーの鼻を、ちょんと突いた。
「なっ、何だよ。俺のためとか言うんじゃねぇだろうな」
突然、イチャイチャが始まった。
慌てたリリーは思いっきり素だ。
「こら、学園では可愛いリリーでいなさい。最初に君が作ったキャラでいないとね。小さな綻びが、大きな破綻に繋がるものだよ」
鼻の頭をちょんちょんされて、リリーが不貞腐れた顔をした。
「僕のためなんていうのは、やめてくださいね」
ちゃんと言い直しているリリーは、可愛いと思う。
「その通り。君のためだよ、リリー。僕は君に、口先だけの王族だと思われたくないんだ。だから、一緒に頑張ってもらうんだよ。約束だろ」
リリーの目が潤んで、感動の面持ちになった。
それはそうだ。今のルシアンはイソトマだって格好良いと思う。
(孤児の少年と王子様の出会い、交わした約束。十年越しの再会。許されないはずの関係)
イソトマの感情は暴走していた。
(尊いよぉ……ゲームとは違うけど、今のルシリリには、今の良さがある)
ルシリリの新たな可能性に、身悶えしていた。
「そのためにも、イソトマとディルクの協力は不可欠だ。とはいえ、二人が今以上に接近する必要は、ないからね」
「うん、わかったよ」
ルシアンの注意っぽい言葉に、イソトマは普通に返事した。
平たく言うと、よくわからないから流した。
「それはそうと、協力者がもっといたほうが、いい気がするよね」
レイヴン商団は大きなキャラバンだ。
王族が動き出したとはいえ、簡単にどうにかできる集団ではない。
少数精鋭にしても、シンプルにこの人数では心許ない。
「その点は問題ない。ノアルとセインは事情を把握している。何かあれば相談するといい」
「んー、そっかぁ」
正直、イソトマ的にはあまり頼りたくない二人だ。
婚約の話とか、色々面倒すぎる。
「あのさ、作戦参謀みたいな子、欲しくない?」
(アルエがいてくれたら、安心して色々相談できる)
小説が書けるから、作戦を考えられそうだ。何よりアルエは口が堅い。ルシアンの御眼鏡に敵いそうだ。
イソトマの提案に、ルシアンが食い付いた。
「そういう子がいるなら、是非ご協力願いたいね。今後の作戦で、段取りを組める人間が欲しかったところだ」
「僕の一つ下の、アルエ=トーナンって子なんだけど」
ルシアンが納得したように頷いた。
「トーナン辺境伯の御子息か。最強カードを持ってきてくれたね、イソトマ。是非、彼を巻き込んでおくれ」
ルシアンがノリノリだ。
それ以上に、アルエが貴族だった事実に驚いた。
(庶民の子だと思ってた。本人に言わなくて良かった。ごめん、アルエ)
心の中で謝罪した。
アルエの良さに身分は関係ない。
「じゃ、話しておくね」
「アフタヌーンティに招待するよ。招待状を持っていって」
サラサラとカードを認めると、ルシアンがイソトマに手渡した。
「渡しておくね」
「よろしく頼むよ」
ルシアンの笑顔から、絶対に離さないという圧を感じた。
(もしかしたらアルエに悪いことしたのかも)
一抹の後悔を抱えながらも、あまり深く考えないことにした。
かんな
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寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
8,872
コメント
1件
第25話、読み終わりました! ルシアン、めちゃくちゃ格好良くなってないですか?「熱い視線を送ってくれるのは嬉しいね」って言いながら全然こっち見てないシーン、静かな圧が凄くて痺れました。リリーとのイチャイチャも尊い…「君のためだよ」の約束の重みに感動しました。アルエも参謀として加わりそうで、今後の展開が楽しみです!