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Ⅳ.言えない約束
侑の病気は、少しずつ進んでいった。
最初は、練習に出られなくなった。
次に、外を歩くのが辛くなった。
そのうち、病院で過ごす時間が増えた。
それでも侑は、治に病気のことを話さなかった。
治が会いに来ると、いつも笑った。
「おー、サム。遅いやん」
「うるさい。来たっただけ感謝せえ」
「はいはい、ありがとーございます」
「……何食いたい?」
「おにぎり」
「またかいな」
「サムの作ったやつがええねん」
そう言うと、治は少しだけ黙った。
それから、ぶっきらぼうに答えた。
「……明日、持ってきたるわ」
「ほんま?」
「嘘ついてどないすんねん」
「やった」
侑は笑った。
治の作るおにぎりが好きだった。
塩加減も、握り方も、少し不格好な形も。
治が作ってくれたという、それだけで特別だった。
本当は、おにぎりなんかどうでもよかった。
明日も会いに来てほしかった。
明後日も。
その次の日も。
ずっと、ずっと。
けれど、そんな願いは口にできなかった。
「なあ、サム」
「ん?」
「俺のこと、忘れんといてな」
治は怪訝そうに眉をひそめた。
「何やねん、急に」
「ええやん。約束して」
「……忘れるわけないやろ」
即答だった。
侑は目を見開いた。
治は、少し気まずそうに続けた。
「双子やぞ。お前みたいなアホ、一生忘れられるかいな」
「……そっか」
侑は俯いた。
泣きそうになったから。
嬉しかった。
本当に、嬉しかった。
でも同時に、残酷だった。
治は一生忘れないと言ってくれた。
けれど、侑は治の一生の隣にいられない。
「……なあ、サム」
「今度は何や」
「もし俺が、めっちゃ遠いとこ行ったらさ」
「またそれかいな」
「そのときも、忘れんといてな」
治は、しばらく侑を見つめた。
それから、そっと侑の頭に手を置いた。
子供の頃みたいに。
「……何回言わせんねん」
治の手は温かかった。
「忘れへんよ」
侑は、笑いながら泣いた。
コメント
1件
「忘れんといてな」って言う侑と、「忘れへんよ」って即答する治……ここめっちゃ泣けるやつやん😢 双子ならではの距離感と、それでも言えない約束が切なくて。おにぎり作りに「明日も会いたい」って気持ちを乗せてるのも侑らしいし、治のぶっきらぼうな優しさに毎回グッとくるわ。まだ続くんやろ? どうなるか気になる……!
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yuom ./ 引退
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