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見る場所すべてに、汚れたお皿が積んであるようだった
・・・まずはあちこちで、食べ歩く癖を直させないと・・・
行儀作法でアリスが一番得意なのものは、背筋を伸ばして頭に本を何冊も積んだまま優雅に振舞えることだが、そんなものここでは何の役にも立たない
マナー講師のアリスの魂が燃え始めた
この家には生活を正す人間が必要だ、そしてアキ君に獣じゃなく人間らしい生活をさせてあげられる人間が・・・
あの二人に任せていたら、アキ君の将来が心配だわ
「ありす?」
不思議そうにアリスを覗き込む明をじっと見る、こんなに可愛いのだもの、アリスは可哀想なこの子に肉親のような感情を抱いていた、たった数日一緒にすごしただけなのに
北斗さんはずっとここを私に隠しておくつもりだったの?
結婚を取り消す?
まさか!ありえない
北斗さんは最近はとびきりの笑顔を見せてくれるけど、私とアキ君を同じような目つきで見ている
考えてみれば牧場主の妻が、子供と一緒に自分も子供のように一日中遊び惚けているなんて、北斗さんにおんぶに抱っこの生活は楽しいけれど、どこか引け目を感じていた
可愛いだけで何も期待されていないのが時々辛い
自分はお嬢様だけど、立派にITOMOTOジュエリーのアンバサダーとして、伊藤家のために働いていた
牧場主の妻はやはり、雇われの働き手さん達を労わって、夫とうまく牧場を回していくに欠かせない一員だ
町一番の料理上手ではないけど、カツオ節をキッチンの床にぶちまけてしまうけど、かまうものか
結婚で結ばれた女性が一家の主として、主人と対等に家を守るのは当然のことだ。母もそうしていた、まずは自分の得意な事から始めようと、ふと天井を見てアリスは驚いた
「どうして天井に穴が開いているの?」
よく見ると天井に人一人が通れるほどの、穴の真ん中にポールが刺さっている
「ナオが開けたんだ、僕たちの部屋から階段を回ってきたら遠回りだから 」
そう言うと明がポールにクロスして足を、巻き付けてひょいひょい登って行った
「降りるときはぁ~・・・ 」
まるで緊急出動時の消防隊員のように、くるくるポールを回って降りて来た。なるほどこれはかなりの時短だ、でもアリスはこれが気に入らなかった
「あのね・・・アキ君階段があるなら階段を使わなきゃいけないのよ 」
「どうしてぇ~??」
「どうしてもよ!それがお行儀というものなの、とにかく今日一日を使って、この家を住みやすいように綺麗にお掃除しましょう!」
アリスは辺りをキョロキョロ見渡した
「箒にモップ・・・・それから綺麗な雑巾もいるわ・・・・まずは・・・・シャベルね!」
「何するのぉ~アリス?」
「ここを綺麗に過ごしやすくするのよ?それから美味しいクッキーを焼いて、お兄さん達を待っていましょうね 」
「わぁ~~~い!!!クッキー! 」
明がぴょんぴょん跳ねて嬉しそうにする。アリスはぐっと腕まくりをした
「整理収納アドバイザーの腕が鳴るわ!! 」
アリスは北斗の家からピンクのエプロンと、同じくピンクの三角巾を頭につけて、三つ編みとゴム手袋という戦闘服に着替えた、そして明にもゴム手袋を渡す
「それでは!我々は第一危険区域に突入します!」
「ラジャーッ! 」
仰々しく二人で敬礼をする
スマートフォンで今日から数日のお天気を調べる、すると向こう一週間は晴れ模様が続いていた、アリスはまずは家全部の窓という窓を開け、喚起を良くした、そして庭にブルーシートを引き、明に指示した
整理収納の心得その①※家の中を一旦空っぽにするべし
「まずは家中の物と言う物をここにすべて置きましょう!家の中を一旦空にするのよ!それからいるモノいらないモノを選別するの!」
そう言うとアリスはポイポイ、キッチンの物を庭に置き出した
明も楽しそうにポイポイ物を、アリスを真似て庭に放り投げる
二人はゴミ袋片手にせっせと掃除を始めた、明は意外にも熱心にアリスを手伝った、明にとっては大好きなアリスとすることは掃除でも楽しい遊びなのだ
ゴミはゴミ袋にそうでないものは明に渡した。明はアリスの手伝いが出来るのが、嬉しくてたまらないといった感じで、渡されたものをせっせと庭に運んだ
「あとで北斗さんとナオ君に選別してもらうわね」
「うん!どんどん行こう! 」
キッチンは富士の樹海の様だった。ゴミが何層にもなってまるで発掘作業だ、物の多さだけではなく、雑多な混沌とした感覚にも圧倒された
いろんなものがあるべきところに収まっていない、例えば醤油のペットボトルが、トイレに置かれていたり
キッチンには、インドの神様を象った木彫りの怖い顔のお面が転がっていた
アリスはうんうんゴミの層を登った、マスクをしているので息が苦しいが、マスクを外す勇気もなかった
一番上から順番に見つけたシャベルで、すくってゴミを片付けだした
30分ほどでシンクが見えた、やっぱりここはお台所なんだ
そして焦げた鍋数個の下に、ガス調理台のようなものも発見した
雑巾で木のテーブルをゴシゴシ擦るけど、コールタールのような粘着質な液体は頑固で取れない
「お湯が必要だわ!アキくぅ~ん!お湯沸かしポットどこにあるかわかる?」
明が庭から飛んで来た
「ナオがあそこでやかんで毎朝沸かしているよ」
「どこ? 」
「こっちだよ」
連れてこられたのはキッチンのシンクの横だった、ところがアリスになじみのあるIHコンロは無く、たしかにここで煮炊きは出来そうなのだが、使い方がわからなかった
窓の外には、アリスの背丈よりも大きな灰色のプロパンガスボンベが、二台設置されていのを確認したが、アリスの実家とあまりにも違い過ぎて、勝手がわからない
「ねぇ・・・アキ君?これ・・・どうやって使うの?うちの家ではIHだからボタンを押したら、火が点くけどぉ~?? 」
アリスはそう言い、わずかに細めた目で鋭くガスコンロを観察したが、どこにもボタンが無かった
「ん~~~・・・僕にも・・・わかんない・・・で・・でもナオがやってたんだけど、これ捻ったら火が点かない?」
明が鋳物コンロのつまみを捻った
シューーーーーーーー・・・・
「・・・点かないわよ? 」
「あっ!そ・・そうだ!あとチャッカマンがいるんだ!」
「チャッカマンで火を点けるの?」
「うん!チャッカマン持ってくる!」
「はやくねぇ~~~ 」
アリスはどこかへ消える明を見守った。水道を捻りやかんに水を汲む、そして鋳物コンロの上にドンッと置いた。コンロのつまみは(開き)に捻られたままだ
「アキ君まだかなぁ〜」
シューーーーーーーー・・・・
シューーーーーーーー・・・・