家に帰っても1人きり。
おかえりと言ってくれる人も一緒に食べる温かい食事もない。それならいっそ外に1人でいる方がいい。
そして今日も夜の街を歩いていると酔ったサラリーマン風の奴が話しかけてくる。
「1人?良かったら飲みに行かない?奢るからさぁ、帰るところないなら家に来てもいいよ」
成人しているようには見え難い俺を誘って肩を組んですり寄ってくる奴がなんてロクな大人じゃないことくらいはわかる。
「離せよ、触るな」
睨んで離れようとするがその態度が気に食わなかったのか手を掴まれて引っ張られる、酔ってるくせに力は強い。
「離せっ、やめろよ!」
周りの大人はチラチラとこっちを見ているのに巻き込まれたくないと知らんふりで、それにも掴まれた腕の痛さにも逃げられない自分の弱さにもさらに苛立ちが募る。
「ちょっと!この子、高校生ですよ。うちの生徒です。警察呼んだから一緒に来てもらえますか?」
そのサラリーマンの腕を掴むと静かに、けどハッキリとそう告げて睨みつけている···知らない大人。一瞬長めの金髪が目に入り女の人かと思ったけど背の高さも声も男だ。
『高校生』 『警察』
そのワードにビビったのかサラリーマンはすみません、とさっきとは打って変わって驚くほどの速さで逃げていく。
「大丈夫?変なことされてない?」
その人は掴まれていた俺の腕や、怪我などしてないか確認している。
「···大丈夫」
「なら良かった。本当は警察は呼んでないけど相談とかしたいなら交番に付いていくけどどうする?」
俺は首を横に振る。
こんな時間に高校生が1人で出歩いてる方が咎められそうだったから。
「変な人もいるからね、気をつけないと···家の近くまで送ろうか?それとも親御さんに連絡する?」
優しく気遣うように話かけてくれるその顔をようやく見るとその人は中性的で笑顔が綺麗な人だった。
「1人で帰れます···どうせ家には誰も居ないし」
それにこの人だっていい人のフリをする悪い大人かもしれないし。
サヨナラ、と言って帰ろうとするとちょっと待って、と言いメモ用紙に何かを書いて渡してきた。
「僕こう見えて本当に先生なの。もし何か困ったことがあったら連絡して。気をつけて帰るんだよ」
そこには藤澤という文字と携帯番号が書かれていた。その場で断るのも面倒でメモをもらって頭を少し下げてお礼も言わずに帰る俺にその人はバイバイ、気をつけてねーって大っきな声を出す。いい大人が恥ずかしいな、と思い少し歩いて後ろを振り返るとまだその人は俺のことを見てくれていた。
あんな奴が教師のわけがない。
金髪みたいに明るい髪して、へらへらにこにこして怒ったりしない奴なんて。
なぜか俺は家でその人を思い出してメモを見返した。
フラフラ夜の街を歩いてて赤い髪で···そんな俺なんかを助けて気をつけてね、なんて言う変な奴。
「フジサワ···あんな教師いるわけないよな」
それでもなんだかあの笑顔には嘘がないような気がして俺はなんだか変な気持ちだった。
コメント
2件
めちゃくちゃ嬉しいです! シャーシャーしてる猫みたいな若井さんが好き☺️✨どんな関係性になっていくかお楽しみにです❤️
もう⋯めっちゃ好きです❤フラフラしてる割に警戒心MAXの若井さん、独特の癒しキャラでありながら主張はきっぱり言う藤澤さん、似てるような似てないような設定が特に面白い♪続きが気になりすぎて、いつも以上に♡押したかも? ((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラオラオラオラ