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第7話:「大事にしなよ」
翌日、学校での授業が終わり、私は小夏と一緒に帰ることになった。放課後の教室は、いつもと同じように賑やかだけど、私の胸の中にはモヤモヤとした気持ちが残っていた。涼の「好きな人」の話が、頭から離れなかったからだ。あの日、彼が口にした言葉をどうしても受け入れられなくて、心の中で何度も繰り返し考えていた。誰だろ。
咲坂さん?高嶺さん?それともららか?
放課後、小夏と一緒に歩いていると、小夏が突然話を切り出した。
「ねぇ、奈子。」
「うん?」
私は少し驚いて小夏を見ると、小夏は前を見つめながら静かに言った。
「涼のこと、大事にしなよ。」
その言葉に、私は一瞬言葉を失った。小夏がそう言った時の表情は、どこか寂しそうで、少し遠くを見つめるような目だった。心の中で何かがひっかかり、思わず言ってしまった。
「どうしてそんなこと言うの?」
小夏は私を見て、少し苦笑いを浮かべながら答えた。
「だって、奈子は涼とずっと一緒にいたんでしょ?ずっと幼馴染だし。だからさ、大事にしなよって。」
「でも…」
私が言いかけたその時、小夏が話を続けた。
「私、転校ばっかりしてたから、幼馴染とか、そんな人がいないんだよね。」
その言葉に私は驚いた。小夏はいつも明るくて、友達も多いけれど、そんな寂しい気持ちを抱えていたなんて思ってもいなかった。
「転校ばっかりだったから、ずっと友達と呼べる人も、どんどん離れていって…。」
小夏の声が少し震えた。彼女の目は遠くを見つめていて、なんだか今まで知らなかった一面を見てしまった気がした。
「幼馴染とかいいね。私も気さくに話せる幼馴染がほしいよ。」
なんて返すべき?
「だから、奈子が涼のことを大事にしてるの、すごく羨ましいなって思って。だって、ずっと一緒にいるって、ほんとに大切なことだと思うんだ。」
私はその言葉に胸が締め付けられるような気がした。小夏が転校ばっかりして、ずっと寂しい思いをしてきたことを、私は全然気づいていなかった。それでも、そんな彼女が涼と私の関係を見て、寂しそうに言ったことが、心に突き刺さった。
「小夏…ごめん、私、そんなこと全然気づいてなかった。」
私がそう言うと、小夏は少し照れくさそうに笑った。
「いいよ、奈子が悪いわけじゃないし。私が勝手に思ってたことだから。スッキリしたぁ。」
その後、私たちは無言で歩き続けた。空は少し曇り始めて、冷たい風が頬をかすめた。でも、私はその風を感じながら、小夏の言葉がずっと頭から離れなかった。
涼との距離は少しずつ遠くなっているような気がする。あの日、涼が言った「好きな人」のことを、どんなに頭で理解しようとしても、心がついていけない。私は、涼に何かを伝えることができるのだろうか?それとも、このまま何も言わずに距離を置いてしまうのだろうか?
小夏の言葉が心に響いて、私は自分の気持ちと向き合わせられている気がした。涼を大事にすることが、どれだけ大切なことなのかを。涼のことが、やっぱり大切だと気づいたから。でも、その大切な人が、私の手の届かないところにいるような気がして、胸が痛かった。