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夕方、若井は大森と再び隠し部屋に戻った。そこらじゅうに散らばるファイルのひとつに10年前の生存者が「鏡の呪い」を語った記録があった。
「鏡は魂を閉じ込める。生き残った者は鏡に縛られる」
若井は大森を見る。
「これ、藤澤のことだろ?でも元貴も何か知ってる」
大森は静かに若井の手を取った。
「若井、俺を信じてくれ。俺は若井を傷つけたくない。俺も若井を……信じたいんだ」
若井を傷つけたくない。そう言う大森の声は切実で、若さが滲むその言葉に若井の心は揺れる。隠し部屋の薄暗い光の中大森は若井を引き寄せ、深いキスを交わした。
唇が重なり、若井は大森の温もりに溺れそうになる。だがキスの途中で、部屋の鏡に映る自分の姿が一瞬「知らない顔」に変わるのが見えた。
若井は息を呑み、身を引く。
「何だ…これ?」
若井は鏡を指さし、震えた。
「俺の顔が…」
大森は静かに話す。
「鏡は嘘をつく、若井。信じるな」
その言葉は、1日目に初めて聞いた警告と同じだった。 たった今、若井には大森の声が遠く感じられた。
夜、若井はやっぱり少しの申し訳なさがありつつも大森とともに綾華の荷物を再調査し、別のメモを見つけた。
「10年前の真実を知る者は、鏡に映らない」
綾華の筆跡だった。彼女は一体、なぜこんなメモを?若井は綾華の鋭い視線を思い出す。
「鏡に映る大森さん、時々おかしくない?」
彼女は大森の秘密を知っていたのか?それとも、藤澤の過去を?
若井は大森にメモを見せた。
「綾華は何か知ってた。 彼女はどこだ?」
大森はメモを手に取り、目を細めながら言う。
「彼女は…危険な真実に近づきすぎたのかもしれない」
その言葉に、若井の疑念はさらに膨らんだ。大森の優しさは本物なのか、それとも鏡のように嘘をつくのか。
4日目の深夜、若井は一人でホールの闇に立った。鏡に映る自分の姿が再び「知らない顔」に変わる。藤澤の「大森は鏡そのもの」という言葉が頭をよぎり、若井は恐怖と愛の間で揺れた。
大森が現れ、そっと肩に触れた。
「若井、俺を信じてくれ。 どんな真実でも、君を守る」
そのとき、藤澤がホールの闇から現れこう囁いた。
「若井、鏡を見て。大森の姿はそこに映らない」
若井は振り返り、鏡を見た。
大森の姿が、確かに一瞬消えた。
心臓が止まりそうな恐怖の中、若井は叫んだ。
「元貴、お前……何者だ?」