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第四章 鏡花水月
「元貴、お前……何者だ?」
若井は恐怖をそのまま言葉にする。
大森は静かに微笑み手を差し伸べた。
「やっと、真実を話す時が来た。ついてきて」
その手は冷たく、しかし力強く若井を引いた。藤澤が追いかけようとしたが、大森の鋭い視線に凍りつき立ち止まった。
大森は若井を昨日発見した隠し部屋へ導いた。埃っぽい部屋の奥、割れた鏡の裏に隠された扉が現れる。
こんな部屋、知らない。
大森が扉を開けると、薄暗い空間に綾華と高野が倒れていた。綾香は青白い顔で、高野の派手なシャツは血で汚れていた。部屋には薄ら薬品の匂いが漂う。
「綾華!高野!……良かった、生きてる。薬で眠らされてる」
若井は綾華と高野の脈を確認し、ほっと息をついた。
綾華の部屋から見つかった血痕、「鏡の裏を調べろ」、「10年前の真実を知る者は、鏡に映らない」という内容のメモ。
大森の顔は鏡に映ると歪んでいた。そしてついに、映らなくなってしまった。
彼女が知っていた「真実」とは何か?
大森は静かに言った。
「このゲームは、10年前の事件を再現する罠だった。藤澤が仕組んだ。君をここに誘い込み過去を繰り返そうとしたんだ。」
若井は大森を睨んだ。
「藤澤?どういうことだ?じゃあ元貴は? なんで日記を隠そうとした?鏡に映らないのは?」
どういうことだ??頭が混乱して情報が整理できない。繰り返したところで、何になるんだよ。
1日目の隠蔽、2日目の「別人の姿」、藤澤からの指摘が頭をよぎる。
大森は深く息を吐き、初めて明確に語った。
「若井、俺はこの世に存在しない。10年前、この館で魂を閉じ込められた者の一人。若井と一緒に閉じ込められたんだ。俺はもういないから、少しでも可能性がある 君を救うためにここにいる。幽霊みたいなもんだよ。」
その言葉は、若井の心を突き刺した。
俺も大森と一緒に閉じ込められた?嘘だ、嘘に決まってる。
しかし、鏡は嘘をつく、鏡の歪み、映らない姿。そんなこれまでの謎の全てが、大森、そして自分の正体を指していた。
「いないって…?霊、?は….?」
若井は後ずさったが、大森の瞳に捕らわれた。そこには、深い愛と哀しみが宿っていた。
「俺は若井を愛してる。だから、若井の魂を解放するために存在する。藤澤は君を本当に取り戻そうとした。その為にこの罠を仕込んだんだ。だが、君は….」
大森は言葉を切り、若井の手を強く握った。
その時、隠し部屋の鏡が突然光を放った。
若井は目を奪われ、鏡に映る自分の姿を見た。
それは昨日見た 「知らない顔」であり、
地下室の写真にいた10年前の若者だった。
「……..俺?」
若井の声が震える。
大森は続けた。
「若井、君は紛れもない10年前の失踪者の一人だ。この館で魂を閉じ込められ、記憶を操作されて『現実』に生きていると信じていた。君の人生、フリーライターの3年間、藤澤との恋愛………全て、鏡の呪いが作り上げた幻だ」
若井の頭がぐらついた。そして脳は今起こっていることを全力で拒否しようとする。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……!!!!!
藤澤の執着、綾華のメモ、「知らない顔」。
「そんな…俺は生きてる!これは 現実だ!」
「現実じゃない」
大森の声は優しく、しかし冷たかった。
「鏡館は魂を閉じ込める呪われた場所。俺も君も、ここに縛られた魂だ。だが、綾華は違う。
彼女は現実の人間だ。」
「どういうことだよ、なぁ……?」
その瞬間、綾華が目を覚まし、弱々しく呟いた。
「……滉斗、、真実を、知らされた……?」
「だから真実って、なんだよ、綾華も狂いだしたのかよ!!!!」
「今、狂っているのは若井だよ。」
「あなたは、私の兄だった…」
消えそうな声で、綾華は呟く。
「……は、?」
若井の心が止まった。
「鏡の裏を調べて」、「10年前の真実を知る者は、鏡に映らない」。
それらのメモを残した綾華は失踪した実の兄である若井の居場所が鏡館だと知り、若井を救うためにゲームに参加していた。