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(30分後、チーフディレクターがニュースルームに戻って来る。チーフディレクターはノートパソコンの画面を開いて得意げに皆に映像を見せる。60過ぎのしわだらけの顔の女性教授が話す画像が流れる)
女性教授「高石首相の軍国主義路線が招いた自業自得の事態としか言いようがありません。そもそもオソロシア連邦がウルサイナ国に特別軍事作戦を発動した際に、日本がウルサイナに人道援助などしたからこうなったのですよ。日本は今からでもアメコミ合衆国との安保条約を破棄して非武装中立路線に転換すべきなのです。ましてや憲法改正などもっての他です。憲法9条さえあれば、我が国に侵略や軍事攻撃をする国家などありません」
チーフディレクター「どうですか、プロデューサー。これは視聴者に受ける事間違いないですよ」
音声担当「いや日本はイラナイ共和国への軍事攻撃とは無関係のはずじゃ……」
(映像担当が音声担当の服の袖を引っ張る)
映像担当「やめときなさいよ。聞く耳なんか持っちゃいないって」
(アナウンサーが自分のパソコンの画面を見て大声を上げる)
アナウンサー「大変です。ヤムチャ人民共和国の空母艦隊が、沖縄のアメコミ軍の基地を爆撃しましたよ。アメコミ軍がイラナイ共和国内のヤムチャ人民共和国の大使館を爆撃した事に対する報復だと言ってます。あれは誤爆だったはずなのに」
(一同、各自のパソコンの画面を見る)
アシスタントディレクター「本当だ。あ、高石首相の緊急記者会見をMHKがやるみたいですよ」
プロデューサー「テレビをつけてくれ」
部屋の壁に架かっている大画面テレビが映る。高石首相が画面の中でマイクに向かう)
高石首相「かねて危惧していました通り、軍隊と言いますか、戦艦が使われる軍事行動が発生してしまいました。現在、緊急閣議を招集し、我が国の存立危機事態の認定を検討しているところでございます」
チーフディレクター「映像担当の君、これを素材に加えておいてくれ」
(映像担当が座っている映像機器のパネルを見ると、戦艦大和の白黒写真が映っている)
映像担当「ちょっと、何ですかこれは?」
チーフディレクター「資料映像に決まってるだろう。俺たちの番組の時間までに、現地の映像は届きそうにない」
映像担当「いや、だから、どうしてこの写真なんです?」
チーフディレクター「まったく頭が悪いな。さっきの高石首相の言葉を聞いただろう。戦艦が出て来たと」
音声担当「あ、あのう……あれは『軍艦』の言い間違いだと思うんですが。そもそも今は世界中どこの国も戦艦は保有していませんし」
チーフディレクター「首相が戦艦と言ったんだから仕方ないだろう。それに軍艦と戦艦ってどう違うんだ?」
アナウンサー「そんな事より、緊急報道番組に切り替えなくていいんですか? あたしは今すぐでも大丈夫ですよ。のんきに『昭和歌謡100選』なんて番組流してる場合じゃないですよ」
プロデューサー「そんな事出来るわけないだろう。番組のスポンサーの了承を今から取れるわけがない。CMの広告料を返還するとなったら、億単位の金が吹っ飛ぶんだぞ」
音声担当「でもMHKは予定全部キャンセルして緊急特番やるみたいですよ」
プロデューサー「MHKはCMが無いからそんな事出来るんだ。うちは民法なんだから」
アナウンサー「せめて編成局長に頼んで、番組構成変えてもらえないんですか?」
プロデューサー「編成局長は今接待ゴルフの真っ最中だ。第7か、第8ホールあたりかな。そんな時にそんな事で連絡取ったら、後で私がどんだけどやされるか」
アシスタントディレクター「わあ、またまた通信社の速報だ。アメコミ合衆国のトンプラ大統領が、ICBMの発射を宣言しました。オソロシア連邦とヤムチャ人民共和国に向けて既に発射したって」
音声担当「それって……第三次世界大戦じゃん。あっちもすぐに核ミサイルぶっ放すぞ」
アナウンサー「もう私たちの独断で番組切り替えましょうよ。日本に向けてだってミサイル飛んでるかもしれないじゃない!」
プロデューサー「馬鹿な事を言うな。昭和歌謡は最近の唯一の高視聴率番組なんだぞ。どうして途中で中止したんだ? って視聴者から抗議が来たら、君は責任を取れるのか?」
映像担当「ああもう、いい加減にしろや。いくらこのスタジオが地下にあって安全そうだからって、そんな事気にしてる場合かよ。東京が焼け野原になるかどうかの瀬戸際だろうが! 日本国民全員に危険を知らせるのが、テレビ報道の使命ってもんじゃないのか?」
チーフディレクター「そうだな。いや君の言う通りだ。俺はテレビ報道マンとしての誇りみたいな物を、いつの間にか忘れてしまっていたようだ」
プロデューサー「私も自分が恥ずかしい。よし、私が全ての責任を取る。ただちに緊急速報を流す。みんな用意はいいか?」
(全員が大きな声で『はい!』と答える)
(アナウンサーがスタジオの席に座り、ニュースを読み上げる)
アナウンサー「視聴者のみなさん。東京に核ミサイルが接近しているとの情報があります。ただちに命を守る行動を取ってください。地下施設、地下鉄の駅など、少しでも身を守れる場所へ移動してください。繰り返します……」
(場面が変わり、一面焦土と化した東京都心。かろうじて無事だった1台のスマホが地面に転がっていて、その画面からアナウンサーの声が響く)
アナウンサーの声「ただちに命を守る行動を取ってください。東京に向かって核ミサイルが接近している可能性があります」