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第二部 秋
第十三話 秋の入口
「季節が変わるように、人の気持ちも少しずつ形を変えていく。」
九月。
長い夏休みが終わった。
久しぶりの学校。
廊下には、夏休みの思い出を話す声が響いている。
「宿題終わった?」
「終わるわけない。」
「威張ることじゃないでしょ。」
いつもの笑い声。
でも、湊には少しだけ違って見えた。
夏休み前と同じ教室。
同じ席。
同じ友達。
なのに。
何かが変わった気がした。
*
「神崎くん。」
昼休み。
紬が声をかける。
「今日、写真部行くの?」
「たぶん。」
「そっか。」
少しだけ間が空く。
「……私も行っていい?」
湊は驚いた。
「写真部?」
「うん。」
紬は笑う。
「久しぶりに、カメラ触りたくなったから。」
その言葉が嬉しかった。
写真を避けていた紬が。
またカメラに触れようとしている。
それは、小さな一歩に思えた。
*
放課後。
二人は写真部の部室にいた。
窓から差し込む夕日。
机の上に並ぶカメラ。
紬は一台のカメラを手に取った。
「懐かしい。」
「使える?」
「たぶん。」
少しぎこちなく構える。
ファインダーを覗く。
「……。」
「どう?」
湊が聞く。
紬は小さく笑った。
「まだ怖い。」
正直な言葉だった。
湊は頷く。
「そっか。」
「でも。」
紬は続ける。
「前よりは大丈夫。」
その言葉を聞いて、湊は嬉しくなった。
*
「ねえ。」
紬がカメラを置く。
「神崎くんは、なんで写真撮ってるの?」
突然の質問。
湊は少し考える。
昔なら。
「綺麗だから。」
そう答えていたと思う。
でも今は違った。
「忘れたくないから。」
紬が見る。
「何を?」
湊は窓の外を見る。
「その時の気持ち。」
「景色だけじゃなくて。」
「その場所にいた自分とか、一緒にいた人とか。」
紬は静かに聞いていた。
「だから。」
湊は少し笑う。
「写真を撮るようになったのは、たぶん……。」
「大切なものが増えたから。」
その言葉に、紬は何も言わなかった。
ただ、優しく笑った。
*
帰り道。
秋の風が吹いていた。
夏とは違う少し冷たい風。
「神崎くん。」
「ん?」
「もし。」
紬が空を見る。
「大切な人が遠くに行ったら。」
「どうする?」
湊は少し考える。
「……分からない。」
「でも。」
「その人が選んだ道なら、応援したい。」
紬は足を止めた。
「そっか。」
小さな声。
「優しいね。」
「普通だよ。」
「普通じゃないよ。」
紬は笑った。
でも、その笑顔には
少しだけ寂しさが混ざっていた。
*
その夜。
湊はカメラの写真を整理していた。
春。
桜。
夏。
海。
祭り。
そして、紬の笑顔。
写真を見返して気づく。
いつの間にか。
自分のアルバムには、
景色より人の写真が増えていた。
そして、その中心にはいつも――
朝比奈紬がいた。
📷 Photo.013『秋の始まり』
撮影日:9月12日
季節が変わっても、
残したいものは変わらなかった。
ruruha
821
あおい
27
雛
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コメント
2件
読んでいただきありがとうございます! 距離感もどんどん変わって行くし、 湊もだいぶ成長してて、湊が撮る写真には絶対に紬がいて、、 写真に残すぐらい紬をほんとに大切に思ってるんですよねきっと! 絶妙な距離感を書くために色々工夫していたので、 気づいてくださって嬉しいです! ありがとうございます!
第13話「秋の入口」、読ませていただきました。 季節が変わるように、二人の距離感も少しずつ変わっていくのが伝わってくる回でしたね。紬が自ら「写真部行っていい?」と口にした一歩が、湊にとってどれほど嬉しかったか——その小さな勇気がじんわり沁みました。そして「忘れたくないから」という湊の写真論に、彼の内面の成長を感じます。アルバムの中心にいつも紬がいるという気づきも、台詞にしないからこそ胸に残ります。 M.Sさんの、会話の合間にある「間」や「沈黙」の描写が、この作品の空気感をとても大切にしているなと改めて思いました。次回も楽しみにしています。