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第十四話 言えない気持ち
「気づいてしまった気持ちは、もうなかったことにはできない。」
十月。
秋が深まり、
学校には少しずつ文化祭の空気が広がっていた。
廊下には装飾の準備。
教室には段ボールや絵の具。
普段とは違う学校の雰囲気に、
生徒たちの声もいつもより明るい。
「うちのクラス、カフェやるんだって。」
美桜が黒板の予定表を見ながら言う。
「大変そう。」
湊が言う。
「神崎くん、そう言いながら絶対手伝うタイプだよね。」
紬が笑う。
「……そうかな。」
「そうだよ。」
即答されて、湊は少し困った。
最近。
紬には自分のことを見透かされている気がする。
*
文化祭準備。
四人は毎日放課後に残って作業をしていた。
蓮は力仕事。
美桜は飾り付け。
紬は店内のデザイン。
そして湊は写真担当になった。
「宣伝用の写真撮ってくれない?」
クラスメイトに頼まれた。
「いいよ。」
自然に答えていた。
以前の自分なら、
知らない人から頼まれることなんて避けていた。
でも今は違う。
誰かと関わることが少し楽しい。
その変化に、一番驚いているのは自分だった。
*
夕方。
教室に残っているのは湊と紬だけになった。
窓の外はオレンジ色。
机の上には文化祭の準備道具。
「疲れたね。」
紬が椅子に座る。
「うん。」
「でも楽しい。」
湊は少し笑う。
「朝比奈が?」
「え?」
「楽しそうだから。」
紬は少し驚いた顔をした。
「私?」
「うん。」
「前より笑ってる。」
その言葉に、紬は黙った。
「……神崎くん。」
「ん?」
「よく見てるね。」
「写真撮ってるから。」
「関係ある?」
「あると思う。」
湊は窓の外を見る。
「写真って、その人が気づいてない瞬間を見るものだから。」
紬は少し笑った。
「やっぱり、神崎くんらしい。」
*
その日の帰り。
美桜は一人で歩いていた。
ふと後ろを見る。
少し離れた場所に湊と紬。
二人は何か話している。
笑っている。
美桜は小さく笑った。
「……そっか。」
隣にいた蓮が聞く。
「何が?」
「いや。」
美桜は首を振る。
「二人、似てるなって。」
「似てる?」
「うん。」
「大事なものを大事にするところ。」
蓮は少し黙った。
そして笑う。
「まあ、分かる。」
*
文化祭前日。
準備が終わった教室。
湊はカメラを持っていた。
誰もいない教室。
夕日。
机の上に置かれた準備道具。
そして。
隣で笑う紬。
「撮るの?」
紬が聞く。
「うん。」
「いいよ。」
湊はカメラを構える。
ファインダーの中。
紬の笑顔。
でも。
シャッターを切る直前。
一瞬だけ思った。
この時間が終わらなければいいのに。
カシャッ。
音が響く。
*
帰り道。
紬が言った。
「文化祭、楽しみだね。」
「うん。」
「でも。」
少し間を置いて。
「終わるの、寂しいね。」
その言葉に、湊は足を止めた。
楽しい時間ほど。
終わりを考えてしまう。
それは、夏の終わりに感じたものと似ていた。
「また作ればいい。」
湊が言う。
「え?」
「楽しい時間。」
「また。」
紬は少し笑った。
「……うん。」
秋の夜風が吹く。
二人の距離は近づいていた。
でも。
まだ誰も、その気持ちの名前を口にしなかった。
📷 Photo.014『夕暮れの教室』
撮影日:10月18日
終わってほしくないと思った瞬間ほど、
時間は早く過ぎていく。
コメント
4件
ですよね、、あのシーンはほんとにすごく切ないですもんね、、 はい!距離感にも注目して見てもらえたら嬉しいです!
夕方の教室の写真シーン、すごく好きです。ファインダー越しに「終わらないで」って思う湊くんの気持ち、切なくて胸がぎゅっとなりました。美桜が「二人、似てる」って言うところも、じんわり来る。楽しい時間ほど終わりが怖いって、すごくわかります。この距離感、続きが気になります🌙