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「亮太さん、三禄さん倒れたって。今、病院に向かってるんだけど亮太さんも来れない?」
紗希ちゃんが泣きそうな声でそう電話してきたのは2週間後のことだった。
今日はバイトもないし、なんもすることないからパチンコ屋にでも行くか、なんて考えていた時だった。
「え。まじか。すぐ行くわ。病院教えて。」
俺は教えられた病院にすぐに向かった。病院に着くと紗希ちゃんが涙目で待合室で待っていた。
「 大丈夫?」
俺は紗希ちゃんの隣に座って声を掛けた。
「亮太さん。私なんだか三禄さんが辛そうなの1人で見てられなくて、三禄さんも亮太さんに会いたがってたから、来てくれて良かった。
三禄さん近しい親戚とかいないから私が代わりに話を聞いたんだけど、三禄さんもう前からずっと余命宣告はされてたんだって、膵臓癌で、でも治療は断ってたって。お酒飲めなくなるから嫌だって、馬鹿だよね。お医者さんが言うには相当辛かったはずなのに、良くここまでもってたほうだって言われちゃったよ。今は鎮痛薬が少し効いたのか病室で寝てる。 」
俺は三禄さんがそんなに身体が悪いなんて全然知らなかった。
3日前のバイト中も頭痛てぇ、具合悪りぃって、酒を飲みすぎた次の日みたいにいつもどおりだったから何の気にもしてなかった。俺は紗希ちゃんと一緒に病室に向かった。
病室についた三禄さんは色んな管と機械に繋がれていて、なんだか弱々しいく息をしてるだけで、 俺が知ってる偏屈な頑固な人とは別の人なんじゃないかと思うくらいに、違って見えた。
しばらく病室の機械音が流れるなか、何も話せないで2人で三禄さんを眺めていると、三禄さんがうっすらと目を開けた。
「… おぉ。来たか。すまねぇな。」
三禄さんは、俺を見るなり、叱られた後の子どもみたいに罰が悪そうに右の眉をあげた。
「来たよ。来るに決まってんだろ。」
俺はなんでか怒ってるみたいな言い方をしてしまった。
三禄さんはそれで少し笑って、
「亮太よぉ。お前が俺にそっくりで、なんかほっとけねぇんだわ。俺は女は好きだが、子どもを作ろうなんて思ったこともなかったが、これが親心ってもんなんかなぁ。
わがままだからおめえには生きててほしいんだわ。」
酒焼けでガラガラな声が、更に出づらくなっているのか、ヒューという吐息まじりに三禄さんは弱々しく話始めた。
「 自分なんて大嫌いだって顔して、バイトに来たおめぇがよぉ。店がたまに忙しい時には活き活きしててな、なんとか回そうって頑張ってくれてんの見て、 俺ぁなんかお前のそのたまに楽しそうにしてる顔見るの悪くねぇなって思って店開けてたんだ。
働くのなんて俺はでぇきれぇだし、ただ、好きだから蕎麦作ってんだけど、おめぇは働くのは好きみてぇだったから不思議な奴だなぁって思ってたけど、なんだかおめぇ見てたら安心したんだわ。」
三禄さんは辛そうに顔をしかめた。一言一言が命を削ってるみたいに話すから、もう話さなくていいよって気持ちと話を聞いてやらなきゃって気持ちが入り混じって俺は拳に力を入れて黙っていた。
「俺ぁもうじき死ぬらしい。別に尊厳死なんてもんに興味はねぇし。これまで生きたいも死にたいも考えたぁことはそんなにねぇが、 酒が飲めねぇくらいなら俺ぁ好きに死ぬね。って医者に止められてた酒も好きなだけ飲んでたから仕方ねぇわさな。
ただ、今はおめぇのために店開けてやれねぇのだけが気がかりよ。
おめぇは俺と同じで不器用だからよ。もともとあるもんにハマれねぇんだと思うわ。人から何言われても、自分の好きなようにしか生きれねぇ不器用な奴なんだよ。
だがなぁ、気づいてないかもしんねぇがな、おめぇはちゃんと積み上げてんのよ。 不器用な俺があの店開けて30年やってこれたぁ秘訣はよ。好きなことしかやらねぇからだ。
おめぇは自分には何もねぇ続かねぇってウダウダ悩んでるけどよ。何もねぇんじゃなくておめぇってもんが凝り固まっちまってんのよ。頑固っていうか、自分が大好きで仕方ねぇんだ。だからやりたいようにやってみりゃいいんだよ。
続ける必要なんてねぇんだよ。おめぇが好きだと思うもん、何も考えないでやっちまうこと、それさえ毎日出来てりゃ上出来なんだ。」
俺は三禄さんのその言葉に目頭が熱くなって、拳にさらに力を込めた。
「なんだよ。今までそんなこと言ったことないくせに。らしくねぇな。」
妙に強がってしまうのは泣きそうなのがカッコ悪いし、三禄さんにそれを見せたくなかった。
三禄さんはそんな俺を見てうなづいて、視線を後ろにずらした。
「あと、紗希。おめぇは悪くねぇ。亮太と同じくらい生きてて欲しい。
だが、ずっと辛ぇおめぇがこのままも辛ぇのも偲びねぇ。
おめぇがどうしてもっていうならあの世で待っててやるから。いつでも気楽に来い。おりゃあ女が好きだからよ。きっと寂しかぁさせねぇわ。もう俺にしてやれるのはそれくらいだわ。」
三禄さんの足元に静かに立っていた紗希ちゃんに三禄さんは声をかけた。
「…三禄さん。うん、ありがとう。」
紗希ちゃんは静かにうなづいた。
「亮太、紗希。ありがとなぁ。俺ぁお前らに出会えて良かったわ。好き勝手なことして好きなように勝手に野たれ死ぬと思ってた俺が、最期に生きて見届けてやりてぇと思えたんだ。生きたいと思って死ねるなんて、こんな幸せなこたぁねぇな。生きてたいと思わせてくれてありがとなぁ。」
三禄さんはそう言ってギュッっと目に力を入れると涙が流れた。垂れた水が皺をつたって三禄さんの口元に流れていった。
紗希ちゃんはそっとティッシュで涙を拭いてあげていた。
「寝るわ。」と言って三禄さんは再び目を閉じて、また弱々しい息を繰り返し始めた。
俺は何にもできない不甲斐なさと、三禄さんにもらった言葉に胸が苦しくなって、一旦病室を出て、廊下の窓の外を見ていた。
「三禄さん、お医者さんにね、尊厳死法の話もされてたの。もうできることはなくて痛み止めも気休め程度にしかできないから、自分で決められますって。
でもね三禄さんはいいって。言わないって。
痛いはずだし、辛いはずなんだけど、生きてるうちに感じれるものだからって。やっぱり頑固だよねぇ。でも三禄さんらしいよね。」
紗希ちゃんがそう言いながら後ろからペットボトルの水を差し出してくれた。
「ありがとう」と受け取り、 俺は水を飲むと、冷たさがやけに喉を通過していくのがわかって、自分がものすごく渇ききっていたということに気づく。
痛みや辛さは生きてる実感、俺のこの胸の痛みも息がしづらいほど三禄さんを見てるのが悲しく辛いのも、生きてる実感なのかもしれない。
確かに1人じゃ味わえないものだ。俺は深い人付き合いが苦手だったけど、なぜかこの痛みは悪い気分ではなかった。
それから三禄さんは辛そうに起きたり寝たりを繰り返して、俺もその度に病室を出たり入ったりしながら三禄さんとの時間を過ごした。
紗希ちゃんは病室の隅の椅子に座って、三禄さんをぼんやり眺めていた。
「酒が飲めねぇのはやっぱり辛ぇな。」
それが三禄さんの最期の言葉だった。
最期まで三禄さんらしいなって思って、俺は泣きながら笑った。
コメント
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もう、三禄さん……最後まで三禄さんらしかったな。「酒が飲めねぇのはやっぱり辛ぇな」って最期の言葉、泣きながら笑っちゃう亮太くんの気持ち、めっちゃわかるわ。 「好きなことしかやらねぇから続けられた」「お前はちゃんと積み上げてる」って言葉、亮太くんだけじゃなくて、自分にも言われてるみたいでグッときた。不器用なりに生きてる人たちの温かさがこの話には詰まってるな。
mogyumogyuGemi
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mogyumogyuGemi
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古流斬
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