テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
フォロバちゃん♡文スト
928
#文スト
パピコォォォ
34,315
はんばぁぐ
29
なぽりんたん☯️
166
やけに静かな朝だった。目を瞑れば街のどこにいても耳に入ってくる喧騒やパトカーのサイレンが、今日は聞こえない。日の出前の冷えた空気が肺を蝕んでいく。本部に帰ったら報告書を書いて、首領に提出する前に仮眠室で一眠りでもしようと足を速めた。最近は徹夜続きで体力が落ちている。昨夜の任務はマフィアに侵入しようとした莫迦共の処理で、ゴミ捨て場のネズミのように案外すばしっこく逃げ回る連中だったから、捕まえるのに手こずって日付を越えてしまった。普段なら重力で押さえつけて一発なのだが、任務に出る前太宰に「異能がないと何もできない脳筋」と散々莫迦にされたため意地でも使わなかった。夜の深い藍色が朝の眩い光にだんだんと染まっていく空を見上げ、溜息を吐く。本当に、今日は異常なほどに静かだ。
海の見える公園の階段を登り、後一段という所でポケットの端末が震えた。もう仕事が新しく入る時間帯でもないため聞こえない事にしてそのまま進む。嫌な予感がした
振動が伝わる。
振動が伝わる。
振動が伝わる。
振動が
「だー!!うるっせェな!!誰だよ!!」
何コールしても鳴り止む気配のない端末を乱雑に取り出し、安らかな朝を遮断した相手を憎みながら通話ボタンを押した。
「誰だか知らねぇが
ンだよこんな時間に!!!」
「うっわもう!やっと出た!!!このチ」
電話の相手は今一番喋りたくない相手であった。ツー…ツー…と通話の終了を知らせる機械音が響く。何も聞かなかった。それで良い。
イラつきを晴らすようにさらに早足で先を急げば、またも鬱陶しいほどの着信が鳴り、仕方なく応答する。
「何の用かを2文字以内で言え」
「チビ」
「切るぞ」
「あっ、ちょっと待てってば!マフィアの情報が垂れ流しになってもいいの?」
「は?」
「本っ当短気だよねぇ。待ても出来ないのかい?もう1回躾直した方が良いかなぁ…」
「おい待て聞いてやるから説明しろ!!!」
クソ太宰の余計な罵倒を挟んだ説明によれば、前の任務で取り逃した残党達が復讐などと下らない事のために太宰を拉致、監禁。お得意の会話術で奴らから情報を抜き出しているらしいが、どうやらマフィアの一部記録が漏れ出しているようだ。
「嗚呼、ちなみに時間制限付きみたいだよ。」
「時間制限?」
「うん、僕の隣に爆弾がね」
「はぁ?そんぐらい手前なら自力で解除できんだろ。無駄に回る頭使えよ」
「簡単だよ。でも今はちょっとねぇ…」
いつにも増して歯切れの悪い太宰の返事を疑問に思った。更に眉間にしわを寄せながら舌打ちを一つ挟んだ。
「ンだよ、ハッキリ言いやがれ」
「…全身縛られてて身動きが取れない。流石の僕もこれにはお手上げかなぁ」
「それを早く言え!!!!で、残り何分だ」
「1分」
メキィ。掌の端末が悲鳴を上げた。俺は激怒した。必ずかの邪知暴虐の太宰を除かねばならぬと決意した。ここから太宰が送ってきた住所までは2km以上、しかも坂道と階段が多い。クッッッソ図ったなあの野郎!!!!
「死ねクソ太宰ィィ!!!!!!!!!」
一秒も経たずに地面を右脚で蹴り上げる。過度にかけられた重力によってコンクリートが破壊された。残り49秒。高く並んだビルの上を跳び、塗装された壁を走り、空を泳ぎいだ。通った後の風圧でいくらか地面や壁や空気が削れ、ビルの窓が割れた。ただただ急いだ、残り36秒。太陽が頭を見せ始めた空が一層明るくなり、影を下に映し出す。頭の中はあの何か企んでいる嫌な笑顔の太宰がちらついていた、あと23秒。ビルの群れが姿を見せ始める。周りを取り囲む高層ビルの真ん中に足を下ろす。奴からの住所には幾つも建物があった。何か手掛かりを探して飛び回る。残り10秒を切ったところで見覚えのある黒い蓬髪が窓からちらっと覗くのを見つける。すかさずガラスを蹴り破り、ムカつくクソ野郎の笑顔を横目に爆弾を探す。あった。残り5、
自分の中でも出したことのないぐらいの速さで跳ぶ、4、爆弾がチカチカと光るのが目に焼き付いた。3、床がコンクリートなのが憎い。滑ってなかなか進まない、2、足を大きく振りかぶり、1、爆弾に向かって重力を加算し蹴り上げた。0。爆弾は窓の外の空で大きな花火を挙げた。物騒な花火だ。
「…なん、とか、間に合った…」
無我夢中で走り抜けてきたため、肩で息をする俺の後から能天気な声が降りかかった。
「やぁ、お疲れ様。遅かったね」
邪悪なお姫様の登場だ。尤も、王子様は白馬ではなく重力に乗って迎えに来たのだが。
「手前ェ、まじで、殺す。」
未だに酸素が足りていないため途切れ途切れで殺意を紡ぎながら、ドスドスと太宰に近づいて胸ぐらをつかむ。殴ってやる。絶対一発殴ってやる。
「おっと、殴るのは2人きりになってからにしてくれ給え」
「はァ?もう既に2人きりだろ。てか言い方がいちいち気色悪りぃんだよ」
スチャ。と背後から何か、”鉄製で大きくて重いもの”を構える音が響く。振り向くまもなく、徹夜明けには応える大きな声でわざわざ自分達の正体を明かしてくれた。
「動くな!我々はそこの少年を誘拐した者だ。動けばこの建物ごと爆破するぞ」
敵の敵はスイッチが握られていて、この部屋をよく見渡すと物陰に赤く点滅する物体があった。
「あぁ?」
鋭い視線で睨みつけても微動だにしない。
俺と太宰を取り囲むように、数人…いや、十数人が銃を構えていて、その内2人が俺等の後頭部に銃を突きつけている。こいつらか。探す手間もなく自分達からノコノコと姿を現してくれてありがたいものだ。
(…おい太宰、どうするんだよ。)
取り敢えず素直に指示に従い、動かずに目線だけで太宰と意思の疎通を図る。別に普段なら撃たれても重力で銃弾をとめられるのだが、太宰と触れていると無効化されて異能が使えない。俺が反撃しても動いた隙にこいつが撃たれる。
ふと、一瞬だけ太宰が目線を天井に向けた。
それにつられて上を見ると、火事場などで発動するスプリンクラーが天井のあちこちに仕掛けられていた。この辺は物騒な事件が多いため、対策として設置が義務づけられているのだ。
「ねぇ、おじさん達。ポートマフィアの仕組みは知っているよね?こんな少年2人殺したところで、意味ないと思うのだけれど」
男は鼻で笑った。
「強がりか?」
「まさか。」
太宰は肩をすくめた。包帯で隠されていない方の目を、見下すように細めて。
「ただ、随分な怖がりなんだなと思っただけさ。」
「…は?」
男の眉間がピクリと反応する。仲間たちが銃を握る力を一切強めた
「だって、銃で武装した上に爆弾まで用意したのだろう?そんなに準備しないと勝てないと思った。違うかい?」
「何を…!!お前自分の状況が分かっているのか!?もういい、撃て!」
「こっちのセリフさ」
敵の判断が揺らいだ隙を見て、俺は飛び退いた。太宰から離れ解放された異能で背後に突きつけられた銃を蹴り飛ばし、天井を殴る。異常を察知したスプリンクラーが誤作動して、どこかしこから細かい水が大量に流れ、敵も俺もびしょ濡れになった。
「これで爆弾は使えねぇな。」
どうする?と久々に異能で暴れられることに口角を上げながら、空中から敵の集団を見下す。
「構わん!!とにかく撃て!」
外套を脱ぎ異能で銃弾から太宰を守りながら、一人一人蹴り飛ばしていく。あっという間に残り二人、指揮を取っていたリーダーと、太宰の背後にいる奴だけになった。どうやら恐怖と呆気にとられて引き金が引けずにいるようだ
「ななな何をする!!!」
太宰に突きつけている拳銃の引き金を引こうと指に力を入れる。…が、引けるわけもなく。
「おっと、それは頂けないなぁ」
いつの間にか縄から抜け出していた太宰が敵の手首を叩き銃を落とす。自力で抜け出せたんじゃねぇか、クソが。こちらに向き直ったあと虫を払うようにしっしとジェスチャーされたのでさらに苛つきながらリーダーの顔面に拳をめり込ませる。勢いで倒れたコイツにはまだ詳しく情報を流した犯人も聞き出さなきゃなんねぇ。それは姐さんの部隊の専門だ。
「おい太宰。終わったぞ」
敵の腹に片足をかけながら振り返ると、先刻迄縛られていた椅子に腰掛けて目を瞑る太宰。
「手前!!!!!!寝てんじゃねぇ!!」
「いっっっっだぁ!!!?」
強烈な右ストレートをお見舞いしてやった。
コメント
1件
おお、めっちゃ熱いバディものって感じだね!「重力操作×無効化」の異能コンビがもう最高。太宰のクソすぎる煽りと、怒りながらも全力で駆けつける主人公の関係性が一話でバチバチに伝わってきたわ。スプリンクラーで爆弾無効化する頭の回転と、最後の右ストレートの流れが痛快で笑った。続きが気になる!🔥