テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
全てのものはやがて散る。そう僕に教えてくれたのは練音だった。彼はいつも花の香りを連れてやって来た。遠くの街から来る彼に、僕はいつも土産話をせがんでいた。彼の街から僕の街へ来るには大変な手間がかかる。バスも少なければ歩ける距離でもない。当時、高価だった僕の街への切符で彼は自ら会いに来ていた。
「切符、高いんじゃない。無理して来なくても。」
そう僕が言うと、彼は胸が苦しくなるほど寂しそうな笑顔を浮かべた。その時の彼の瞳は怖いくらいに透き通った黒で、真っ直ぐに見つめたら飲み込まれてしまいそうだった。光の宿らなかった黒いガラス、という表現が一番しっくり来た。
彼を迎えに一度だけ駅へ行ったことがある。彼が乗って来た列車がまぶしいほどに光っていたのを覚えている。その反射光の中を歩いて来た彼は何の表情も浮かべていなかった。さわやかな青空と身体を焼く日光、絶えることのない蝉時雨。駅の花壇には僕よりも背の高いひまわりが巨大な花を豪快に広げていた。彼は僕が来ていることに気がつかないままフラフラとした足取りで去っていく。見てはいけないものを見た気がして、人の波の中を一歩も動かずにぼんやり立ちすくむ。しばらくして、次の列車のアナウンスが流れ、その機械的な声に頭をたたかれたような感覚になった僕は全速力で駅を出て家へ駆けもどった。
彼は時々とても怖く、時々とても温かい。でも、僕は本当の彼を知ることはできなかった。最期まで。
いつものように列車に乗った彼は、その列車が事故をおこし、僕に会わないまま花のように散った。
……ねぇ。僕は、いつでも正面から君を見ていたよ。何で君は心を開いてくれなかったの、練音。
コメント
2件
今回内容が重めです。すいません。
読み終えました。タイトルの「散」が、最後の「花のように散った」という一節で一気に腑に落ちましたね。練音の「寂しそうな笑顔」や「怖いくらいに透き通った黒い瞳」がとても印象的で、彼が何を抱えていたのか、読んでいるこちらも胸が締め付けられるようでした。駅のひまわりと、彼の無表情な姿の対比が切ないです。
31
275
#ご本人様には関係ありません
なな💚🍅💜🐰
7,771
#ハート&フォロー&コメントお願いします
ズネキ(ルル)
221