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プルルル…プルルル…
(勇ちゃん、出ない…)
LINEを送った後、何度か電話してみたが繋がらず、LINEも既読がつかないのに不安な気持ちのまま帰路につく柔太郎。
(…目、逸らされたよね)
何かしたかなと考えを巡らせながらとぼとぼと歩く。いつもと同じ収録風景。特に変わったことはなかった。それでも勇人の様子がおかしいのだけはすぐに分かった。ずっと見てきたから。
メンバー思いで熱い相手のことをM!LKに入ったときからずっと見てきた。尊敬しているし憧れもあるし、メンバーとして勿論好きだ。でもそういう意味で好きだと気付いたのは3080の活動が始まってからだったと思う。自分よりも何歩も前も歩いている憧れの先輩とコンビを組めたことが嬉しくて、メンバー5人のときよりずっと距離が近いのにドキドキして、気付いたら好きになっていた。自宅に向かいながら、付き合った日のことを思い出す。
・ ・ ・ ・
3080の撮影の時はいつもより距離が近い。ソファに座るときも勇斗に凭れ掛かるのが癖になってきた頃、スマホに視線を落とす勇斗の綺麗な輪郭を見ながら、自然と「好きだな…」と口から零れ落ちていた。
「え?」
スマホに視線を落としていた勇斗が驚いたようにパッと柔太郎へ視線を向けると、しまったと目を泳がせてしまい、逃げるように立ち上がろうとすると逃さないと言ったように片手を握られる。大きな手に包まれる感覚に抵抗できなくなる。
「本気?」
上目遣いに尋ねられ。冗談だと言えば元通りなのに何も言えなかった。沈黙が暗にそうだと言っているようなものだ。
「…それって付き合いたいの好きってこと?」
「…、分かってるのに聞いてるでしょ」
意地悪と言わんばかりに不貞腐れた恨めしい顔を向ける。
「いや、本当にびっくりしてるんだって!まだびっくりしてるもん俺。…でも、まぁ、俺も可愛いと思ってるよ。柔太郎のこと」
手を少し引いてもう一度隣に座るよう促される。素直にちょこんと隣に腰掛けるも、まだ真正面から勇斗の顔は見れなくて俯いたまま。
「…可愛いのは、後輩としてでしょ」
「正直それも否定はできないけどさ。会いたいなーとか、今何してんのかなって思うのは柔太郎だけだよ。…それじゃダメ?」
「…やだ、俺は付き合いたいもん」
必死に声を掛けてくれる勇斗が可愛くて、少し揶揄い半分に返してみる。
「…あーもー、じゃあ付き合ってみる?」
え?と今度はこちらがびっくりした顔になる。良いの?と勇斗の顔を覗き込むと。何今更謙虚になってんだよと鼻先を弾かれた。
「って言っても付き合うってどうして良いのかわかんねぇから、お試しでってことで」
よろしく、と手を差し出す勇斗。まさかの展開についていけなかったが、こんなチャンスは二度とないかもしれないと差し出された手を握り返した。
・ ・ ・ ・
あの日のことを思い出すと幸せな気持ちになる。それと同時に自分の気持ちの方が相手より何倍も大きいのだと実感もする。
はぁ…と知らず知らずのうちに溜め息が漏れる。
そのとき、ブーブー…と右手にずっと持っていたスマホが振動した。慌てて通知を開く。
「!」
勇斗だ。
『何も言わずに先帰ってごめん!明日早いから今日は寝るわ。また連絡する』
いつもの勇斗だ。ほっと胸を撫で下ろす。やっぱり気のせいだったのかもしれない。すぐにポチポチと返信を返す。
『大丈夫だよ。最近スケジュール詰まってるから大変だろうけど頑張って。でも無理はしないように。連絡待ってるね』
送り終えると、沈んだ気持ちは消えていた。早くいつもの優しい勇斗に会いたい。彼の顔を思い浮かべながら先程とは違い軽い足取りで帰路についた。