アオイは、ナギからの手紙と、夜明けの灯台のスケッチを強く握りしめた。
ナギが自己否定の鎖を断ち切り、新たな一歩を踏み出す決意をしてくれたことに、心から安堵した。
彼の出発が早まった今、これが本当に最後のやり取りになるかもしれない。
「これが終わりじゃない。未来で、必ず笑って再会するための、始まりの手紙にしなきゃ。」
アオイはペンを取り、溢れる想いを便箋に綴った。
ナギの決意を称賛し、新しい町での生活にエールを送り、
そして何よりも、彼との文通が自分の人生をどれほど変えたかを伝える必要があった。
ナギへ
決意の手紙、ありがとう。
君が新しい町に行っても、筆を決して手放さないと約束してくれたこと、
私は未来で笑いながら、心から喜んでいます。
君のスケッチ、見たよ。灯台の絵。
暗闇の中でも、未来を照らす光。それは、君自身の才能だ。
新しい町でも、つらいことがあったら、この灯台を思い出して。
君の絵は、未来で必ず、誰かを照らす光になる。
お母さんのことも、理解しようとしてくれてありがとう。
不器用だけど、あれはお母さんなりの愛情なんだ。
君が絵を続けることが、いつかお母さんへの最高の贈り物になる日が来るよ。
君の旅立ちが早まったから、これが本当に、私からの最終便になるかもしれない。
だから、最後に、未来の私から、今の君に、未来の証明をもう一つだけ届けさせてほしい。
「君は、未来で、自分の絵で家族を救うことになる」
これは、予言なんかじゃない。
君が筆を手に、心を込めて描き続けた、その決意が導く、未来の事実だ。
そして、私にも一つ、約束してほしい。
「君の絵が未来で人々の心を救ったように、君も自分の心を大切に、絶対に孤独にならないこと」
新しい町で寂しくなったら、この海猫軒の静かな海を思い出して。
遠い未来から、アオイは君の絵を愛し、君という存在を応援している。
いずれ、君の絵が未来へ届くこの不思議な時間も終わりを迎える。
さよならじゃない。またね、ナギ君。
未来で、君の描いた灯台が、私を照らしてくれる日を楽しみにしています。
未来より、アオイ
アオイは、手紙を読み返し、涙で文字が滲んでいないか確認した。
このメッセージが、ナギが孤独に負けず、絵を描き続けるための、最後のお守りとなるように。
時計を見ると、ナギの町で郵便が回収される時間まで、あとわずかしか残されていなかった。
「間に合って…!」
アオイは、手紙をポストにねじ込むように投函した。
重い音を立てて、便箋はポストの闇に消えていった。
アオイは、ポストの前で、しばらく動けなかった。
全身の力が抜け、文通が終わったことの寂しさと、
ナギを救えたかもしれないという達成感が入り混じって、胸が苦しかった。
翌日、アオイはポストを覗いた。もう、ナギからの手紙はなかった。
「これで、本当に終わり…」
アオイは、空になったポストの口を静かに閉じた。
ナギが今頃、新しい町への旅路についたことを感じた。
彼の未来が、希望に満ちた灯台の光に導かれますようにと、アオイは強く願った。
そして、ナギとの文通が終わった翌週、アオイは、
自分のスマホのSNSの通知が、パタリと途絶えたことに気づいた。
ナギの絵への「いいね」も、コメントも、もう増えていない。
まるで、時空の扉が、静かに閉じられたかのように。
アオイは、テーブルに置かれたナギの灯台のスケッチに目を落とした。
未来を繋ぐ文通は終わったが、アオイの人生は、確かにナギの存在によって変わっていた。
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