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「え? 好みとは?」
「酸味が少なくてコクのあるタイプが好きとか、浅煎りで軽めが好きとか。コナコーヒーもあるし、なんなら紅茶も各種あるよ。勿論、日本茶も中国茶も」
「そ、そんなに飲めません。……コーヒーは詳しくないので涼さんが好きなのでいいです。飲み物に好き嫌いはないので」
返事をすると、彼は冷凍庫の中からコーヒー豆を出し、お湯を沸かしながら言う。
「うっかりそういう事を言うと、センブリ茶を出すよ」
「罰ゲームか!」
思わず突っ込むと、彼は「調子が出てきたね」とケラケラ笑う。
涼さんに進められてスツールに腰かけると、彼は「好きなお菓子はある?」と尋ねつつ冷蔵庫から高級チョコレートを出す。
「なんでも食べます。……涼さんの所のお菓子、何でも美味しそうなので」
「素直で宜しい」
彼はクスッと笑い、戸棚から黒い長方形のお皿を出すと、その上にチョコレートを数種類、二つずつ並べ、別のお皿にマドレーヌやフィナンシェ、マカロンなどを並べる。
まるで高級レストランで出てきそうな盛り付けをする彼を見て、私は思わず溜め息を漏らしてしまった。
「私、そういう食べ方をする発想がなかったです。もらい物をした時は、箱から直接食べてました」
「そりゃあ、好きな子の前なら格好つけないと」
不意打ちを食らった私は、「うぐ……」と黙り込む。
タワマンは地上から離れているだけあって、喧噪が聞こえなくて静かだ。
「ここ、揺れますか?」
「自然災害の時は揺れるね。このビルの上層階はオフィスだけど、上の人たちはもっと揺れを感じるんじゃないかな。怖いと言えば怖いけど、しならせる事でボキッと折れないようにしている訳だから、まぁ仕方ないかなと思ってる」
「へぇー……」
お菓子をセットし終えた涼さんは箱を片づけ、お湯が沸くのを待つ間にコーヒーカップを準備する。
彼が出したのは深い群青色の有田焼のカップで、これも彼らしい趣味だなと感じた。
「恵ちゃんはどういうカップを使ってる?」
「ん? 朱里がプレゼントしてくれた、スターレックスの奴です」
私も朱里もスタレが大好きで、新作フラペチーノが出たら必ず飲みに行っている。
コーヒーショップが好きな割にコーヒーの善し悪しはあまりよく分からず、朱里と「そんなもんだよね~」と言っていた。
「へぇ、どんな? あそこ、タンブラーとか色々売ってるよね」
「私、夏生まれなんですが、海をイメージした可愛いマグカップがあって、誕生日プレゼントの一つとしてくれたんです。メインは彼女らしくコスメでしたが」
「誕生日、いつ?」
ニコッと笑って尋ねられ、私はなんとなく嫌な予感を抱きつつ答える。
「七月二十五日です」
すると涼さんはすぐスマホを出して何かを確認し、「……今なら休み取れそうかな」と呟いている。ちょっと待て。
「いや、あの。確か今年の誕生日は平日だったはずですし。その日は多分、会社が終わったあとに朱里とご飯を食べると思いますよ」
「木曜日だよね? 金、土、日が空いてるよね?」
ニコニコ笑顔で尋ねられるけれど、……圧を感じる。
「……予定は入ってないですけど……。……涼さんの誕生日はいつですか?」
「十一月二十七日の射手座」
「朱里と誕生日が近いですね」
一瞬「同じ星座の人を好きになりやすいのかな?」と思ったけれど、十二星座で人の性格を分けられたら堪ったもんじゃないので、その意見は下げておいた。
でも朱里も涼さんも、表向きは人を受け入れているようで簡単には心に入れず、受け入れると決めたあとは、とても大切にするタイプだ。
「欲しい物はある?」
お湯が沸く寸前に火を止めた涼さんは、ケトルを傾けてコーヒーをドリップしていく。
イケメンは何をやっても格好いいな。
「あんまり物欲がないほうなので、特に思いつかないです」
「じゃあ、食? 旅行?」
「皆でワイワイ食べるご飯はなんでも好きです。旅行は……、好きって言えるほど行ってないですね」
たまに朱里と温泉旅行や国内旅行はするけれど、あちこちに精通している訳じゃない。
「じゃあ、俺と近場に旅行してみる? 夏場で暑いから涼しい所がいいかな。それとも開き直って海のある所とか……」
「えっ?」
いきなり涼さんと旅行する事になってしまい、頭がついていかない。