テラーノベル
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何も見えない。ただ海の底に沈んでいくだけの黒い光。
闇の果てに、ブラックピットは目を開けることすら不可能なほど、致命傷を負っている。
その手を伸ばそうとも誰一人、救いはしない。このまま何も出来ず。
その時。
ブラックピットから見て真上あたりか。一人の少女がこちらに泳ぎながら寄ってくる。その手を取り、海に引き上げるようなイメージで。光が照らす方向へと導かせ、そしてついに。
「方向的にはこっちであってるんだよな?」
「うむ、間違いなかろう」
ナチュレがピットの月桂樹を通して道筋を案内させている中、パルテナがふと口を開く。
「ディントスさま、ひとつ聞きたいことがありました」
「なんじゃ?」
「なぜブラピは闇の中に消えていったのか。単に触れてしまった、それだけではないように思えたのです」
「たしかに。その通りじゃ」
「あのダークネスラインは並の神弓とはひと味違う。それはおぬしも分かっておろう?」
「じゃが、ダークネスラインだけは違った。
危険以上じゃった。誰の足元にも及ばん、凶悪な神器よ。」
「……原因は「闇」じゃろう。間違いなく」
その話を聞いていたピットが「ならその闇をボクが追っ払ってやるさ!」と音を上げる。そんな陽気な彼に対し、ディントスは「んや、」と否定し。
「全てはあやつの“心”次第じゃ。ワシらが触れたら最後、どうなるかわかっとろう?」
「で、でも…!」
パルテナの焦り声に反応したピットは自身の名を呼ばれ、あそこを見ろと言わんばかりに岩山の少し斜め上を見る。そこになんと、あの二人の影が。
「な……?!」
まず最初に反応したのはナチュレ。続いてピットたちも同様に。
奥に見える、ブラックピットと――もう一人。片手に見えるはダークネスラインそのもの。地に舞い降りると飛翔の奇跡が切れ、二人を交互に見て驚きを隠せず。
「ブラピ…?!
無事だったんだ…よかった…」
「ブラックピットの隣にいるそなたは――なるほどの。例の天使か。」
ナチュレがもう一人に視線を向け、少々睨む。パルテナはほっと安心しているようで。その黒き天使はブラックピットをチラ見するとピットを見る。
「……なに」
「いや……ってキミは、あの時の!?」
「なんでブラックピットと一緒にいるんだ?!
あ、まさかキミがブラピを?もしそうなら礼を──」
「感じた…。
こいつの命…ないって。」
その少女はブラックピットの顔色を眺める。命がない。その言葉に全員が圧倒される。つまり、ブラックピットの寿命はそう長くは無いということ。一番ショックを受けたナチュレが声を上げる。
「ふざ…ふざけるでないわ!!」
ピットの月桂樹からナチュレの激怒声がうるさく響き、思わず耳を塞いで。
対し少女は一ミリも驚くこともなかった。なぜなら頭に月桂樹なんぞつけていないからだ。それはピットと神々に深く突き刺さることに。
「そやつは我が自然軍の一員なのだぞ!?
死が近いなど、信用するわけなかろう!!」
「事実を申しておろうが、そうはいかんぞ
わらわは何がなんでも反対じゃ!」
「一度、落ち着きなさい。ナチュレ」
「チッ……」
ナチュレの激怒にパルテナが止めてくれたおかげで何とか治まりつつ。
ディントスの視線に止まったもの、彼女の持つダークネスラインを見て不自然に顔をしかめる。
「小間使いよ、やつの手に持つダークネスラインを取り返すんじゃ」
「これ以上、危機を拡大させんためにの。」
ディントスの指示にピットは賢く頷く。
「ねぇキミ、ちょっとそのダークネスライン…返してもらえる?」
「その神器、えーっと…ある人の元へ返さないといけないんだ。だから…」
申し訳なさそうにピットの視線がその神器へと向けられる。だが彼女は右手に持つそれを手放さず、無理。と返す。その手に力がこもり、強く握りしめ。
「だけど、その神弓…」
「邪魔…するな」
それだけ言うと、彼女はブラックピットを抱えて崖の底へ沈んでいった。飛び降りたのに対し、ピットは彼女を呼び戻そうとするも時すでに遅し。
「あやつめ……我が幹部を連れ去りおって!!」