テラーノベル
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最初は、ただの疑いだった。
フランスとイギリスのあの不自然な沈黙、時折交わす視線、妙に早く終わる会議。
「なんか変だ」と思ったのは、たぶん他の誰でもない、自分だけだった。
🇺🇸「どうして、あいつらだけ何もなかった顔してんだよ……。」
バカみたいに明るい声で笑うフランス。
気取った仕草で紅茶を啜るイギリス。
何事もなかったはずの夜。
だけど、あの 夜、自分は確かに“見た”
イギリスが 、胸を刺されるところを。
笑いながら、息絶えるような声で「愛してる」と言ったのを。 そして、それを見届けたフランスが、無表情にナイフを拭っていたことも。
🇺🇸「おかしいだろ……あれ、殺してたじゃん……!」
だけど翌朝、二人は普通にいた。
外交の席で隣り合って座っていた。
まるで何もなかったように笑っていた。
🇺🇸「ふざけんなよ……何なんだよ、お前ら……。」
自分は世界の“正義”でいるはずだった。
自由の象徴で、理性の砦で、誰よりも“イギリスを理解している”はずだった。
けど――
最近は、わからなくなってきた。
あの時のイギリスの目。
フランスを見るときの、あのどうしようもない“熱”を帯びた視線。
🇺🇸「あんな目……俺に向けたこと、あったっけ?」
言葉にした瞬間、胸が苦しくなった。
違う。違う違う違う。
俺はフランスが羨ましいわけじゃない。
あんなふうに、傷つけ合うような関係になりたいなんて、思ってるわけが――
🇺🇸「ない、だろ……?」
だけど、夢を見る。 イギリスを刺す夢。
イギリスの胸から温かい血が溢れるでもその瞬間、笑ってしまう夢。
🇺🇸(イギリス……俺も、見てよ。俺だけを、壊してよ……。)
そんな願いを口にしそうになるたび、喉が焼ける。
🇺🇸「ちがう、俺は、正しい。あんなの間違ってる……。」
壁一面に貼りつけられた写真。 盗聴音声の波形グラフ。 フランスとイギリスの会話の書き起こしノート。 ページの余白に、手が震えて書いた言葉があった。
“なんで俺じゃダメだったんだ”
その夜、また二人を追った。
イギリスの部屋に入るフランス。
しばらくして聞こえる、布を裂くような音と、短い吐息。
ドアの隙間から覗くと、そこには イギリスが胸元から赤い花のように血を咲かせこちらを見ていた。
微笑んで、こう言った。
🇬🇧「……あなたも、こっちに来ればいいのに。」
フランスがその肩に手を添え、振り返る。
目が合った。 静かで、深い――狂気と優しさの入り混じった目。
“ようこそ、アメリカ”
何も言われていないのに、そう囁かれた気がした。
🇺🇸「そうか……俺、ずっと……羨ましかったんだな……。」
その瞬間、足元から崩れ落ちて、ただ笑った。
🇺🇸「ああ……これで、俺も。」
――そこで、目が覚めた。
暗い天井。冷たい汗。 荒くなる息。胸の奥が苦しい。 部屋の隅に目をやる。 あるはずの写真、ノート、音声グラフ どれもない。 何もなかった。 夢だった。
🇺🇸「ウソ……だろ……?」
立ち上がって、机を開ける。 いつも挟んでいたメモ帳は、真っ白だった。 スマホの録音フォルダも空だった。
あの夜は、なかった。
じゃあ、あの声は?
あの血は?
あの目は――?
🇺🇸「……夢、だったのか……?」
震える手で顔を覆った。 でも、まだ微かに残っている。 ナイフの匂い。フランスの笑み。イギリスの目。
現実が、どこか分からない。
頭が焼けるように熱いのに、心だけが置き去りにされてる。
🇺🇸「なんで……なんで、俺だけ……。」
そして気づく。 たとえ全部が夢でも
一度“見てしまった”自分は、もう戻れないのだと。
꧁—翌日—꧂
会議室にはいつもの三人。 誰も、何もおかしくない顔で座っている。 フランスは飄々と。 イギリスは静かに。
自分も、何事もなかったように笑う。
でも胸の奥で、確かに誰かが泣いていた。
🇺🇸(夢でも、あれが俺の“本音”だった。)
それに気づいてしまった自分だけが、もう普通じゃなかった。 知っているのは、 壊れてしまったのは、 俺だけだ。
コメント
1件
めっちゃ好きです…! 興奮しすぎてコメントミスりまくっちゃって1回消しました😭😭😭😭 良きかな…