注意書き
・二次創作です。
迷惑のかかる行為は❌
・奇病(花吐き病)です。
・死ネタです。誰も報われません。
スーパー駄作なのですが、勿体ない精神で出します。何時にも増して酷いと思います。ごめんなさい。
はらりと、口から零れ出た花を掬う。それは、大好きな貴方の瞳と同じ色をしていた。
「嘔吐中枢花被性疾患です」
そう告げられたとき、耳鳴りがした。淡々と話す医者の声が遠い。簡単な病気の説明をされて、大量のパンフレットを渡される。入院を進められたが、もう少しでW杯。休んでいる暇なんて無かった。
「想い人が誰か分かりますか」
「⋯⋯いえ」
医師が、難しげに顔を顰める。分かっている。自分が誰を想っているかなんて。でもそれを、認めたくなくて。自分の感情に蓋をした。
嘔吐中枢花被性疾患。通称花吐き病。片思いを拗らせると、口から花を吐き出すようになる病気だ。
放置していると、徐々に体力を吸い取られ、最終的には死を迎える。
根本的な治療法はまだ見つかっていない。ただし、両思いになると白銀の百合を吐き、病気は完治する。
というのが、花吐き病の全容であった。
久方ぶりの実家に顔を出す。突然現れた俺を、両親は驚きながらも温かく受け入れてくれた。
リビングの椅子に、両親と向かい合わせになるように座る。花吐き病に関する資料を渡すと、俺の病気を悟ったのか2人は憂いを帯びた目をした。
「花吐き病だって言われて。長くても、余命は1年程だって」
「そう⋯⋯。両思いになる以外の治療法は、本当に無いの?」
「今はまだ無いらしい。⋯⋯でも俺、分からないんだ。好きな人、とか。そういうのが」
「凛⋯⋯」
顔を覆って泣き出した母さんの肩を、父さんが支えるように抱き寄せる。好きな人が分からない。それは、完治が出来ないということ。それを言わなくても感じ取った母さんは、より一層、激しく涙を流す。
「冴にはもう伝えたのか?」
「⋯⋯ううん」
父さんにそう聞かれて、首を横に振る。目を伏せて、重い口を開く。
「⋯⋯兄貴には、言わないでほしい」
「そうか。凛の好きなようにしたらいい」
父さんはそう言うと、口元を緩める。でもどこか、寂しげな瞳をしていた。
いつ頃に恋をしたとか。そんなことは明確に覚えてはいない。ただ、物心つく頃にはもう、惹かれていた。
「りん、にいちゃんの目の色すき」
「お前も同じ色してるぞ」
「⋯⋯! えへへ、おそろいだねぇっ!」
いつも俺を気にかけてくれるところ。アイスを買ってくれるところ。優しい目で見てくれるところ。大好きということを頻繁に伝えてくれるところ。
好きなところを挙げだしたらキリがなく、俺の中心は間違いなく兄ちゃんだった。
特に、瞳が好きだった。母さんゆずりの髪色の兄ちゃん。父さんゆずりの髪色の俺。髪色は違くても、瞳の色はそっくりで。それが、一心同体になれたみたいで嬉しかった。
兄ちゃんの瞳は優しくて、俺をたくさん映してくれる。微笑むと、いつもはつり上がった目尻が垂れて、年相応の雰囲気を醸し出す。翡翠色の瞳は、光に当たると少しだけ違う色に見えて、宝石みたいで美しかった。
「消えろ、凛」
そんな優しかった目が、汚物を見るような目で俺を見た。喉が閉まって、息が出来なくなる。
俺、頑張ったんだよ。陰口を言われても、皆に「変だ」って罵られても。兄ちゃんとの約束を守るために、必死で練習して⋯⋯。
涙が頬を伝う。雪で冷えた肌には、あまりにも熱かった。
その日から、愛は憎悪へ。愛しさは憎しみへと変わった。片思いが拗れて、拗れて、拗れまくって。花吐き病になった原因なんて、とうに分かっていた。それでも、欠陥品の自分が、気高い兄の隣に立てるはずが無いと。この恋が報われるはずが無いと。また希望を抱いて、それをぐちゃぐちゃにされるのが怖くて。
その心を押し潰した。
それからも病気は進んでいった。花を吐いて、それを捨てて。繰り返している内に、その行為に慣れ始めている自分が居て、弱いな。と嘲笑う。
そんな中始まったW杯。久々に会った兄は、前よりも大人びていた。少し。ほんの少し、期待をしている自分が居た。⋯⋯が。
「こんなぬりぃシュートしか出来ねぇのかよ」
「もっと早く動け。打たれるぞ」
「そんなヘボいドリブル、奪われるに決まってるだろ」
酷評の嵐。最初の頃は反発していたが、ただ墓穴を掘っていくだけだと気づき、黙って受け入れることになる。
口を開けば、俺のサッカーに対する指摘。鋭い言葉で積み上げられるそれは、じくじくと痛む心臓を刺した。
(⋯⋯もっと、練習しねぇと。休んでる暇なんて無いから)
休憩していると、兄から冷たい視線を投げかけられるかもしれない。そんな考えが先行して、「もっと休め」というチームメイトの助言を無視し続けた。
医師からは、無理をすると病気が進行する。出来るだけ無理のない範囲でサッカーをしなさい。という指導を受けた。が、残りの寿命をサッカーに費やしたいという旨を伝えると、諦めたように医師はため息をつき、「好きなようにしなさい」と呟いた。
「⋯⋯っぅ、⋯⋯ぇ゛。げほっ、」
吐き出す花は、相変わらず翡翠色だ。
体力を吸い取られて死を迎える。その言葉通り、段々と体力が無くなっているのが目に見えて分かっていた。きっと、W杯は持つだろう。だけれど、それが終わったら⋯⋯。
そこまで考えて、思考を止めた。それを今考えたって仕方が無い。
薬を取り出して、飲み込んだ。殆ど効き目は無いけれど、飲まないよりはマシだというこの薬。進行が遅くなっている感覚は無いが、飲み続けなさいと言われているので。
(⋯⋯あたま、いたい⋯⋯。)
練習を休むという考えが頭をよぎったが、すぐに振り払った。そんなのダメだ。兄貴に見放されてしまうから。
震える足を動かして、なんとか立ち上がった。
、
「りん」
微笑みを浮かべた兄ちゃんが近寄ってくる。凍りついた心が、勝手に身体を強ばらせるが、そんなこともお構い無しというように、兄ちゃんは俺の身体を抱き寄せる。
汗をかいているはずなのに、良い花の香りがした。
「よくやった。お前は俺の、自慢の弟だ」
「──⋯⋯ぁ、」
瞳から涙が零れ落ちる。兄ちゃんは、それを嬉しさの涙だと思ったのか、抱きしめる手に力を込めた。ほんのちょっとだけ、その手が震えていたと思う。
俺も抱きしめ返すと、兄ちゃんの温かい体温が伝わってきた。雪で凍っていた自分が、溶けていく。あの日から、ようやく解放される。
「ありがとう、兄ちゃん」
──綺麗に、ぐちゃぐちゃにしてくれて。
花を吐き出す。これがきっと、最後に吐く花。本当は、白銀の百合が見たかったけれど、その結末は望めそうにない。
遺書は既に用意してある。花吐き病のことや、今までの想いのこと。全部綴って、兄ちゃん宛に出した。
相変わらず、吐き出した花は貴方と同じ瞳の色。ティファニーブルーのヒスイカズラ。
「最期に⋯⋯兄ちゃんの目が見たかったな」
大好きな翡翠色の瞳を思い描いて、目を閉じた。
・・・・・
弟が死んだ。難病だったらしい。
W杯に出るのもギリギリの状態で、無理しながら凛はフィールドを走り回っていた。苦しかっただろう。辛かっただろう。
「ごめんな、凛⋯⋯。もっと、褒めてやれば良かったな⋯⋯」
棺の中で目を閉じる凛は、昔と変わらない顔をしていた。眠っているのかと思うほど、綺麗な顔だ。早く起きろよ。そんなことを願っても、凛は目を瞑ったままだ。
母さんから、遺書を渡された。【兄ちゃんへ】と紡がれたそれは、間違いなく凛の字で、また涙が溢れ出す。
手紙の内容は、花吐き病のこと。今までの感謝。それから、俺への想い。
──⋯⋯嗚呼、最初から話してくれたら良かったのに。そうすれば、俺はお前に想いを伝えられて、死ぬことは無かった。俺も愛してる。なんていうには、もう遅すぎる。
──はらり。
口から、花が零れ落ちた。凛と同じ瞳の色をしていた。
2人の吐いた花は、
rnちゃん・ヒスイカズラ
seちゃん・ラケナリア
だったりします。
最後、rnちゃんの恋が成就しなかったのは、seちゃんに「弟として好き」と伝えられたからです。
seちゃんは、rnちゃんの遺書を読んでから自分の恋心に気づいたので、この恋は一生報われません。救い?そんなのありませんよ。
ヒスイカズラの花言葉__私を忘れないで
ラケナリアの花言葉__持続する愛
コメント
6件
切ないですね…あの、よければ凛ちゃんの恋が報われる、ハッピーエンドも書いて欲しいんですけど…大丈夫ですか?