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#学園
大正
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わざと杉田さん達にも聞こえるように話す。納得のしどころを探り、尊重し合えるならそこで手打ちとしよう、というのが俺の考えでもあり、経験値を積ませてもらった恩もあり……その上、多少の実入りもある。
「それに、現金稼ぐだけなら二人で充分稼げる。向こうの言う通りで金まで出してくれるっていうんだ、それに従っていい気分になってもらうほうが好都合だし、今後もまた出会うかもしれないからな。そこに賭けてみるさ」
今度は彩花にしか聞こえない小さな声でつぶやく。彩花は納得した様子で、俺の言い分を聞いてくれた。
「そういうことならいいわ。波風立てるよりは仲良くしていたほうがいいってことね」
「それに、数万円で信用が買えるなら安い。ここは信用を売って、うちの大学の探索者もできたやつがいた、という風に広まってくれるほうが好都合だしな」
「それはそうね。探索者サークルのほうに評判が行きそうなのがちょっと腹立たしいかもしれないけど、そういうことにしておきましょ」
「相談は終わったかな? 」
杉田さんがせかすわけではないが、俺がうまく彩花をなだめた様子を見定めた後、タイミングよく声をかけてくれる。
「はい、人数割りでお願いします。こっちは良い経験をさせてもらった分指導料を払ったつもりで納得することにします」
「そりゃよかった。じゃあ、誰が壊す? 壊す瞬間を動画に撮っておけばギルドに報告するには充分な形になるからな。試しに結城さんだったか、割ってみるか? 」
彩花が目で私でいいの? という顔をしている。
「俺は学校の校庭に出てきた時に割らせてもらってるからな。向こうがぜひやってみてくれと言ってるんだし、甘えてもいいんじゃないかな」
「じゃあ、遠慮なく割らせてもらうわね」
念のため、ダンジョンを破壊したという証拠を残すため俺のスマホでも彩花がダンジョンコアを壊す瞬間を撮影しておく。これで壊した壊さないでもめることもないだろう。
彩花が台座へ近づき、台座の高さと、台座の上に乗っているコアの柔らかさを確かめた後、台座ごと上についている玉を真上から割る。彩花の剣撃は台座ごとコアを綺麗に真っ二つにすると、周辺に漂っていた威圧感や生物の息づく感覚みたいなものが瞬時に消え失せた。
「さあ、帰り支度を始めよう。自動的にこの規模なら……四時間たてばダンジョンから排出されるが、それよりは歩いて出たほうが早いからな、ワープポータルもダンジョンが自壊するまでは稼働しているし、七層分歩いて戻って、一層までワープポータルで移動して、探索完了ということにしよう。まずは少し休憩するか? 」
「さすがに数分休憩が欲しいですね。その間に胃袋に入れたいものもありますし、少しだけ待ってくれると助かります」
杉田さんは元気に今すぐにでもダンジョンを出ようとしているがさすがに俺もちょっと疲れたかな。水を飲んで、ゼリー飲料を胃袋に入れて、数分休憩させてもらう。
「彩花は大丈夫か、疲れ切ってたりしないか? 」
「そうね、レッドスパイダーのいた辺りは精神的に消耗したとはいえるけど、アドミラルゴートは肉体的に疲れたといえるわね。どっちにしろ、モンスターはもういないはずだから安心して戻れるわ」
どうやら、元気いっぱいとまではいかなくともそれなりに体力は残っているらしい。これは帰り道は安心してもいいかな。
「で、どうだった、ダンジョンコアの感触は」
「なんか柔らかかったわね。もっと硬くてごつごつしたイメージがあったわ。でも、そうじゃなかった。風船みたいに、最悪素手でもつぶして壊せちゃうぐらいだった。台座もそうだけど、ダンジョンコア自体の硬さがあったらダンジョンを破壊できないからなのかしら。その辺は誰かが説明したり解説したり、学説みたいなものがあるのかしら」
「二人は大学生なんだよな。すぐそこの」
杉田さんが休憩がてら会話に参加してくる。そんなに嫌な空気もなかったので、そのまま会話に加わってもらう。
「はい、今年から新設された、ダンジョン学部生です」
「ははっ、そうか。ダンジョンの専門家になろうって話なんだな。で、どうなんだ。新入生としてはなんか学部の空気とか、そういうのはどうなんだ」
杉田さんは気分よさそうに笑っている。ほどほどのところならば話をしてもいいだろう。さすがにどんな内容の講義や研究をしているかは大っぴらに言えないけど、それ以外の大学の雰囲気とかそういうものなら話してもいいはずだ。
「そうですね……何ぶん大学に入るのは初めてですからよくわかりませんが、初年度から学生をゼミに参加させて何かしらの成果を出させようとはしてますね。おかげで初年度から講義のコマ数が多くて困ってますよ」
「そんな中でよくもまあ、インスタンスダンジョンに入ろうとしたもんだ。しかしあれだな、ダンジョン学部っても、ダンジョン探索者を育成するわけじゃないんだろ? それなら専門学校みたいなものでもいいわけだしな。それに、専門学校でも探索者を育成しようって用向きの学校がいくつも立ち始めてるからな。それとは一線を画す、といったところか」
「どっちかというとこっちはアカデミックなほう、というべきでしょうかね。座学も多いですし、ダンジョンそのものというよりもダンジョンから出てくるドロップ品の有効利用方法ですとか、そういうのを調べたり、使い道を開発したり、という方向に進んでますね」
「ほう……探索者を育成したい、というわけじゃないのか。たしかにそれならわざわざ大学でやる必要ないもんな。産学連携のほうがメインコンテンツってわけか。本条君たちも一回生の身分からそれに参加してるってことか」
「ええ、そうなります。まあ、詳細は言えないんですが毎回頑張ってますよ」
「そうか。さて、そろそろいいかな。帰り路につくとするか。十七層からだから……まぁ、ざっと計算して二時間あれば戻れると思う。歩くだけで退屈だろうが、これも報酬あってのもんだ。歩いてるだけで少なくない小遣いがもらえる……そう思えば安いものだ。
歩いて十六層まで戻り、天井の広さを再び感じ取りながら、戦いながらでは進捗の遅かった十六層を素早く十五層へ戻る。杉田さんのパーティー側で地図を作ってくれていたのには助かった。これのおかげで随分と帰り道が早くなったと思う。最悪、帰り道でまた迷ってうろうろしている間にダンジョンが完全崩壊して、ダンジョンから追い出される可能性だってあったんだ、それに比べれば天と地ほどの差がある。
モンスターを倒しながら歩いてきて15分から20分で歩き抜けた十六層だった。モンスターのいない分だけ素早く帰れるってもんだ。十五層からの戻りの道も、平均15分ほどの時間で歩いて帰れるのはさすがの狭さ、ということなんだろう。ショッピングモールぐらいの広さしかない、ということかな。
5階建てのショッピングモールを歩いて移動すると考えると、それほど遠くまで行く話には聞こえない。おとなしく十層まで歩いて戻って、まだ生きているはずのワープポータルまで戻ってもう遅くなってしまったが、女子寮まで彩花を送っていかなきゃいけないしな。
◇◆◇◆◇◆◇
一層まで戻り、二パーティー揃ってダンジョンを出た後、そのまま歩いて大学ダンジョンのギルドの受付まで報告に行く。
「今朝から発生していました江戸橋三丁目で確認されたインスタンスダンジョンの踏破報告をしに来たんですが」
杉田さんが代表して、報告書類と報告する情報が入った端末、それからダンジョン破壊を確認した映像、と順番に見せて確認して、十七層まであったことと、インスタンスダンジョンの踏破報酬は人数割りでほしいことも伝えておいた。
「……はい、踏破の確認ができました。実際には踏破が終わって待機時間が完了してからになりますが、すでに帰ってこられてるということですので、踏破証明はこちらでOKということにします。皆さんそれぞれ振込先を教えていただけますでしょうか」
どうやら、手続き的にはこれで終わりらしい。あとは寝てる間にダンジョンが消滅してくれれば後日振り込まれる、ということだ。
「さて、楽しかったぜお二人さん。またどこかのダンジョンで出会ったらよろしく頼む」
「はい、今日はありがとうございました」
「またねー」
杉田さんご一行はそのまま帰っていった。ギルドに残る俺と彩花。時刻は……午前二時。普段ならとっくに風呂入って飯食って寝ている時間だが、これも探索者の協力義務のため、ということになっているので、戻っても彩花は今回は怒られずに済むだろう。
「送っていくよ」
「あら、うれしい。送りオオカミでも結構だけれど寮だから無理だろうし、今日のところは何もなしでも仕方ないわね」
「今から頑張っても朝を迎えるだけだし……くぁ……俺の眠気のほうがさすがに難しそうだ」
「幹也はよく寝る子だから仕方ないわ。とりあえず、女子寮までエスコートをお願いするわね」
そのまま女子寮前まで彩花を送り、起きていて夜間管理をしていた寮長に頭を下げて無事に送り届けました、と挨拶をする。寮長はその辺をわかったうえで送り出してくれたようであり、いいから君も早く帰りな、と背中を押してくれたので、お礼を言いつつ自室に帰る。
俺の家ではアカネがすでに就寝中。こっそり帰って風呂と軽い食事を済ませている間に起きたらしく、二、三会話を交わす。
「品行方正の幹也にしてはずいぶん遅かったじゃないの。そんなに深くまでできてたわけ? 」
アカネがお腹すいたわ、と言いたげに俺の食事から少しばかりの神力を吸い取っている。
「マップ自体は狭かったんだが、十七層まであったんだ。それで十七層まで臨時で出会った人とパーティーを組んで、そのまま二パーティーで進んできた。稼ぎはちょっと少ないが、いい経験にはなったよ」
「そう、実戦経験値を得られたなら何よりだわ。二人だけでダンジョンに挑んで、右も左もわからずにうろうろしてる間に特殊なモンスターに襲われて……となりそうじゃないのは安心したわ」
「そういう意味では経験値は大ってところかな。レッドスパイダーって蜘蛛型のモンスターがいてさ……」
コメント
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読了しました!今回はダンジョン攻略の後始末から帰還、報告までが丁寧に描かれていて、ほっとするような読後感でしたね。幹也が「数万円で信用が買えるなら安い」と言って、相手との関係を優先する大人の選択をしたところが印象的でした。彩花がダンジョンコアを割る場面の描写も良かったです。あと、寮まで送るシーンのほんのりした甘さと、アカネとの会話で日常に戻る流れも自然で素敵でした🍀