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「じゃあさ…付き合う?」「え?」

突然告白され思わず素っ頓狂な声をあげた。夏の蒸し暑い空気が立ちこめる教室で、心臓がバクバクと鳴り出す。

絶対叶うはずないと諦めていた恋なのに。

「え?あ、あの、その……私なんかでいいの?」

「駄目だったら告白しない」

「でも、私なんかより可愛い子なんていっぱいいるし……」

「私はれいがいい。れいじゃなきゃ嫌だ」

真剣な眼差しで見つめられて、思わず顔が赤くなる。

「わ……私も……好き」

蚊の鳴くような小さな声で答えると、なぎさは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、今日から恋人ね!」

「う……うん」

こうして私達は付き合うことになったのだ。

今日は付き合ってから初めてのデートの日。私はいつもより早起きしておめかしをする。

白いレースのトップスにセレストブルーのジーンズを合わせて、仕上げにお気に入りのピアスをつける。

待ち合わせは駅前の噴水広場。そこで数分待つとなぎさがやってきた。

「ごめん、待った?」

「ううん。大丈夫」

「じゃあ行こっか!」

差し出された手を握って歩き出すと、なぎさは笑顔で話しかけてきた。

「どこ行きたい?」

「うーん…なぎさとならどこでも」

「なにそれ。じゃあゲーセン行ってプリクラ撮ろうよ」

「うん!行こう!」

なぎさの提案に賛成すると、私達は駅前のゲームセンターに向かった。中に入ると平日だというのに意外と人が多くて驚く。

「うわぁ……すごい人だね」

「ほんとだ。あ、あれやろうよ」

なぎさが指差したのはダンスゲームの筐体だった。私はあまり得意じゃないけど、なぎさがやりたそうにしていたので挑戦してみることにした。

結果は惨敗だったけど、とても楽しくて時間を忘れて楽しんだ。

その後は近くのカフェに入ってご飯を食べた。

「あー楽しかった!」

「ふふっ、なぎさったらはしゃぎすぎだよ」

「だって嬉しいんだもん!」

そう言って笑うなぎさはとても可愛くて思わず見惚れてしまう。

「どうかした?」

「ううん、なんでもないよ」

そんなやりとりをしているとあっという間に時間が過ぎていった。帰り道は手を繋いで歩くことにした。

家に着くと名残惜しい気持ちを抑えながら手を離す。

「じゃあまた明日ね」

「また明日!」

なぎさの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

翌日、学校で会ったなぎさは少し疲れているように見えた。

「おはよー」

「おはよう、なぎさ。なんか疲れてる?」

「うん……昨日は夜中まで勉強してて……」

「え?なんで?」

私が聞くとなぎさは苦笑いしながら答えた。

「……テスト近いからだよ」

「あ…ごめん」

そういえばもうすぐテストだったことを思い出した私は素直に謝ると、なぎさは慌てて首を振った。

「気にしないで!昨日はめっちゃ楽しかったから!」

「私も楽しかったよ」

「うん!また行こうね!」

「うん!」

なぎさの言葉に嬉しくなった私は笑顔で答えた。

それからも私たちは毎日のように一緒に過ごした。休みの日はデートをして、夜は電話で他愛のない話をする。そんな日々がとても幸せだった。

そんなある夜のことだった。お風呂上がりにスマホを見ると、一通のメッセージが届いていた。差出人の名前は『なぎさ』となっている。メッセージを開いてみるとそこにはこう書かれていた。

『大事な話があるから、明日家に来てほしい』

何だろうと思いながらもOKの返事をした。

次の日の朝、私は学校へ行く時間を30分程早くしてなぎさの家へと向かった。チャイムを鳴らすとすぐに扉が開く。そこに立っていたなぎさは制服姿ではなく部屋着姿だった。

「おはよ」

「おはよう」

挨拶を返すと家の中へと案内された。リビングへ通されるとソファーを勧められたので大人しく座ることにする。なぎさはキッチンへ入っていった後、数分後に飲み物を持って戻ってきた。

「はいこれ」

渡されたのは冷たいお茶だった。それを一口飲んで落ち着いたところで話を切り出すことにした。

「それで……話って?」

そう尋ねると、なぎさは一瞬躊躇った後、意を決したように話し始めた。

「……私たち別れた方がいいと思うの」

「……え?」

言葉の意味を理解するまでに数秒かかった私は呆然としていた。その間にもなぎさの言葉は続く。

「部活とか勉強もあるし、それにれいにはもっとふさわしい人がいるはずだから」

「……どういうこと?」

私が聞くとなぎさは寂しそうな顔で笑った。

「私ね……好きな人ができたんだ」

「……!」

息を飲む音がやけに大きく聞こえる。私は震える声で聞き返した。

「……誰?」

するとなぎさは一瞬迷った後、答えた。

「同じクラスの男の子だよ」

その言葉に頭の中が真っ白になった。それと同時に怒りのような感情が湧き上がってくる。

(なんで?どうして?)

疑問が次々と浮かんでは消えていく中、なぎさは続けた。

「その人は優しくて、一緒にいるとすごく楽しくて……だから……」

「……っ」

それ以上聞きたくなくて思わず立ち上がる。そしてそのまま玄関へと向かい歩き出した。後ろから呼び止める声が聞こえてきたが無視して外に出ると一目散に走り出す。

(嫌だ!)

心の中で叫びながら走り続けるといつの間にか駅前まで来ていた。そこで足を止めると同時に涙が溢れ出す。拭っても溢れ出してくるそれを必死に止めようとするものの一向に止まる気配はない。それどころかどんどん酷くなっていくばかりだった。なぎさと数え切れないほど訪れた駅で一人泣いていると、周りからの視線を感じる。それでも構わず泣き続けた。

しばらくしてようやく落ち着いた私はゆっくりと立ち上がった。近くにあったトイレに入り顔を洗うと少しはすっきりした気がしたが、まだ心の中はモヤモヤしたままだ。

(……帰ろう)

家に帰ると部屋に入りベッドに潜り込む。枕に顔を埋めたまま何もする気になれずしばらくボーッとしているとふいにスマホが鳴った。画面を見るとそこには『なぎさ』の文字が表示されている。それを見て一瞬躊躇ったものの電話に出ることにした。

「もしもし?」

「……れい」

いつもの元気な声とは違う弱々しい声が聞こえてくる。その声に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

「なに?」

努めて冷静に聞き返すと、なぎさは震える声でこう言った。

「……ごめんね」

その一言を聞いた瞬間涙が溢れてきた。嗚咽を堪えながら必死に言葉を紡ぐ。

「謝らないでよ……私が勝手に泣いてるだけなんだから…」

するとなぎさも同じように泣き出したようで電話越しでも泣き声がよく聞こえた。しばらくそのまま沈黙が続いた後、なぎさはぽつりと言った。

「れいのこと大好きだったよ」

その言葉にまた涙が溢れ出す。私もだよって言いたかったけど言葉が出なかった。代わりに嗚咽だけが口から漏れる。そんな私の様子を感じ取ったのか、なぎさは最後にこう言った。

「さよなら」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ね上がったような気がした。同時に胸の奥底から何かがこみ上げてくるような感覚に襲われる。苦しくて苦しくて仕方がないのに涙だけは止まってくれない。私はただ泣き続けることしかできなかった。


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