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煌びやかなネオンの光が、夜の街を照らしている。 私は今日もドアを開けた。心を満たすために。
「おかえり、姫」
不破湊が、いつものように優しく迎えてくれる。シャンパンのグラスを手に、艶やかな笑みを浮かべて。
「今日も会いに来てくれたんだ?」
「うん。会いたかったから」
素直に言うと、不破湊は楽しそうに笑った。
「俺も嬉しいよ」
この店に来るのは、何度目だろう。
ホストと客。そんな関係だって、最初からわかっている。
それでも、私は彼が好きだった。
優しくて、楽しくて、かっこよくて──。
私だけを見てくれているような錯覚を与えてくれる。
「ねえ、湊くん。私のこと、どう思ってる?」
今日こそ、聞いてみたくなった。
「どうって……可愛いし、一緒にいると楽しいよ?」
「それだけ?」
少し踏み込んだ質問に、彼の手が止まる。
「……俺のこと、好きなの?」
まっすぐに聞かれて、私は躊躇なく頷いた。
「うん。好き。大好き」
不破湊は、少しだけ目を見開いたあと、すぐにふっと笑った。
「ありがと。でも、俺はホストだよ?」
「そんなの関係ないよ。湊くんが好きなの」
心のままに伝える。届いてほしい、この気持ち。
「……そっか」
彼の笑顔が、ほんの少し寂しそうに見えた。
「でもさ、俺はみんなの王子様だから」
「……それって、どういう意味?」
「こうして会いに来てくれるお姫様、みんなを大事にしなきゃいけないってこと」
胸が、ぎゅっと痛くなる。
「……それじゃあ、私は?」
「大事なお客さんだよ」
その言葉が、突き刺さった。
──ああ、そうか。
私は、ただの客なんだ。
いくら通っても、どれだけ好きだと伝えても、彼にとって私は本命じゃない。
「……そうなんだ」
気づいた瞬間、涙が出そうになった。でも、必死に堪える。
「ごめんね」
彼の声は優しかった。まるで、小さな子供をなだめるように。
「ありがとう、今まで」
そう言って、私は席を立った。
「もう……来ないの?」
「わかんない。でも……今日くらいは、もう帰る」
初めて、この場所から逃げた。
外に出ると、冷たい夜風が吹いた。
私の恋は、きっと最初から報われるはずのないものだった。
──それでも、好きだったんだよ。
夜の街に、そっと呟いた。