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いつしか放課後の校舎裏は、二人だけの場所になりつつあった。

「先輩、今日も少しだけ……歌ってくれませんか?」


凪の声はどこか遠慮がちで、でも期待に満ちている。

千歌は小さくため息をついて、ほんの短いフレーズを口ずさむ。

声が風に溶けていくたび、凪は静かに目を閉じた。


「やっぱり……特別だ」

「また大げさなこと言って」

「ほんとですよ。先輩の声を聴いてると、世界がきれいに見えるんです」


あまりに真っ直ぐな言葉に、千歌は返事に困ってしまう。

でも凪の瞳があまりにもまっすぐで、嘘をつくこともできなかった。


「……ありがと」


小さな声でそう返すと、凪の顔がぱっと明るくなる。


その笑顔に、千歌の胸がちくりと痛んだ。

——この子は、どうしてこんなに自分に懐いてくるんだろう。

——どうして、私はそれが嬉しいんだろう。


その気持ちに気づかないふりをしながら、二人の時間は少しずつ積み重なっていった。

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