テラーノベル
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ある日の放課後、校舎裏で凪と少し長めに話していた。笑ったり、歌を口ずさんだりして、いつもより楽しい時間が過ぎていく。
——もう、こんな時間……
時計を見ると、すでに夜の7時を回っていた。
千歌は慌てて帰る準備をし、急ぎ足で家へ向かう。
「千歌、遅いぞ」
玄関に入ると、父が影を落としていた。
声にびくりと肩が跳ね、千歌の胸が早鐘のように打つ。
「……ただいま」
「こんな時間までどこで何をしていた」
鋭い視線が、逃げ場のない檻のように胸を締めつける。
「……えっと、友達と……話してただけ」
「話してただけ……か」
父は腕を組み、疑うように千歌を見つめる。
千歌は小さく息を整え、視線を伏せた。
「……はい」
楽しさの余韻がまだ残る胸の奥に、冷たい痛みが差し込む。
凪の笑顔や声を思い浮かべると、余計に胸が苦しくなった。
「今日はもう遅い。早くやるべき事を終わらせろ」
「……はい」
父の一言に従いながら、千歌は夜の静けさの中でひとり、凪との時間を思い返した。
——こんなにも楽しかったのに、どうして心はこんなに重いんだろう。
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