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⚠BL オメガバース
幸が、車を飛び出したっきり帰ってこない。
姉と外出していた時に、母から電話が掛かってきて、そう言われた。
それから近くのお店も、公園も、図書館も、ひとしきり見て回った。でも、どこにも居なくて、いつの間にか西日がうざったいくらいに俺たちを照らし始めていた。姉は、そろそろ暗くなるから大人たちに任せそうと、説得してきた。
『あと1つ、心当たりのある場所がある』
長い沈黙。
姉は眉間に皺を寄せ、なにか考えている様子だった。
その後、少しスマホを操作したあと。
『いいよ、行こう』
走った。
後ろから姉が、待ってと声を上げているのが聞こえるが、止まることなく走り続けた。彼が、俺の事を待っているかもしれないから。
学校の裏にある公園。
放課後によく遊びに行っていた。人があまりこないし、遊具が少ない、小学生の俺たちが遊ぶには少し物足りない、小さい公園。そこから見る景色が本当に綺麗だった。
俺と幸だけの大切な景色。
『いた』
階段を登った先に幸の姿が見え、つい声が漏れた。
急に速度を落としたから、肺が痛い。呼吸がしにくい。汗が流れて止まりそうにない。
膝に手を付いていないと、倒れてしまいそうで。頭を下げたまま、幸に話しかけた。
『やっぱり、ここにいたんだね』
『帰ろう。』
『なんで、ここが』
少し、声が震えてるように感じ、咄嗟に顔を上げた。
いつも冷めたことを言うから、本心なんじゃないかって、よく勘違いされてる彼。本当の想いを言葉にするのが苦手な彼。
なんで、もっと早く。来た勢いのまま、彼に近ずいて行かなかったのだろう。
こんなに、目を腫らして、声を枯らして、服にたくさんの跡を付けた彼にかける言葉を間違えた。また俺は、選択を誤ったんだ。
『俺さ、最近ずっと考えてた。どうやったら俺は幸せになるのかなって』
『俺、なんで幸せって感じないんだろうって』
ゆっくりブランコから降りて、話し始めた。
震える声が俺の心臓をきゅうっと締め付ける。
彼が、抑えなければならなかったものを少しずつ、吐き出して言った。
『それが、なんでかわかった。』
『全部、全部全部、母さんのせいだったんだ。母さんは俺が持ってないもの全部持ってる。父さんも、俺が欲しいものも。』
『なのに、それ以上を欲しがる。俺は、我慢して耐えて、周りは笑顔で楽しそうにしててあの中に自分だけいられない』
『そんなの、不公平じゃん!母さんは今体調が悪いから仕方ないんだ、って、皆言う。そんなの俺には関係ない。俺が生まれて、狂い始めたなら、俺なんて産まなきゃ良かったんだ!』
『待っててって俺が怒られて』
『そんなの、りふじんじゃん』
久しぶりに見た、感情を全開にした幸。
大粒の涙を流しながら。
久しぶりに、彼が自分と同い年に感じた。
『幸』
衝動的に抱きしめる。
幸が苦しむ顔は、これ以上見たくない。
『幸は、幸のままでいいんだよ』
少し前に、道徳の時間に習った言葉。
「君は、君のままでいい。」
ありふれた言葉で、よく聞く言葉。
でも、みんながみんな実践できているかと聞かれたら、そうでも無い。
みんな違うから、仲良くできて、喧嘩して、相性がある。でもそれは個性で、個性があるから、そんな感情が生まれる。
それがなかったら、俺たちだってここにいない。
『幸が居てくれたから、俺毎日楽しいんだよ』
『幸がどう思ってても、俺は、幸のことが大切で、大好きで、家族なんだ。』
『家族が欠けちゃうのは、俺嫌だ』
幸にちゃんと伝わってるかは、分からないけど、1度出してしまうと、止まらずに、ポロポロと吐き出していた。
『しゅん』
『俺は、瞬の家族になれてる?』
勢いを失って、さっきよりもガラガラになった声に馴染みがなくて、変な感じがしたけど。
『もちろん』
当たり前のようにそう返してくるから、少し困惑する。でも、今の俺にはその言葉が嬉しくて、家族とは違うという壁があると思ってきた俺には余るくらいの愛情を向けてくれたことが、困惑するくらい、嬉しかったんだ。
自分のために泣いてくれる彼がいて、自分のために汗をかいてくれる彼がいて、初めてこんなに幸せな暖かいきもちになった。
父さんからは感じなかった、暖かい愛。
俺はそれがとても嬉しかったんだ。
着いた時点で、姉が真さんと父さんを呼び出してたみたいで、すぐに駆けつけた。泣き疲れた幸は俺にもたれかかるように眠っていて、真さんが抱き上げ車まで向かっていた。
『ごめんなさい』
独り言。
あんま聞くようなことでもなかったけど、眠っている幸に向けて、言っていた。
その場に着いた時点で、少し動揺していた真さんは、幸の泣き腫らした顔を見て、目頭を強く、押さえていた。
それが、見つかった安堵なのか、放っておいたって自覚があったからなのかは、分からなくていいかなって。
家に着いてから、重く苦しい空気が漂っていた。誰も、何も聞こうとはしなかった。
ソファに寝かせていた幸の頭を真さんは、ずっと撫でていて、幸は少し幸せそうだった。
撫でながら、真さんが口を開いた。
『俺は、双葉さんがこれ以上苦しまないように、その感情が幸に移らないように、皆に幸を頼んだんだ。俺一人じゃ、2人は守れないって思ったから。 』
俺も、きっと姉さんも初めて聞いた話。
こうやって話す姿は、やっぱり親子なんだって。抱えてるものを誰にも共有せずに、限界まで溜めていくのも、親子なんだって。
『でも、その結果がこれなら、俺は、どうするのが正解だったんだ。双葉さんも、全然良くならない。』
『母親の愛が欲しい時に、2人を離したなんてわかってた。2人とも大切なのに、結果的に、俺は双葉さんだけを選んだ。』
『幸の手を振りほどいてしまった。』
父さんも母さんも口を挟まなかった。ただ黙って、話を聞いていた。
『双葉さん、ここに連れてきてもいいかな。』
『え、』
予想外の言葉だった。今まで、真さんが1番双葉さんに幸を合わせないようにしてきてた。お医者さんにだめって言われてるからって。色んな理由をつけて。
『それが、最善だと思うなら。いいよ。』
きっと全員理由なんてわかってた。
もう、真さん一人で抱えるには、大きくなり過ぎたんだ。板挟み状態で、かと言って、俺たち家族に愚痴を漏らすような人でも無い。
だから、母さんは、提案を承諾した。
目が覚めると、家へ戻ってきていた。幸!っと飛びついてくる瞬で起き上がれずにいたら、父がリビングに入ってきた。
廊下の方から話し声が聞こえてくるのが、少し気になった。
『父さん。』
『ごめんなさい。勝手に1人で』
顔が見れない。怖い。瞬は、さっきのことを父に話したのだろうか。
『俺も、ごめんなさい。』
『今まで、1人にしてて、ごめんなさい』
暖かい。瞬じゃない、はるかさんでもない。いつぶりだろう。親からの暖かさを感じたのは。嬉しい。
『父さん、お父さん。』
『お父さん!』
抱き返すと、父さんもさらに強く抱きしめてくれた。
『幸が会いたいか、分からないけど。』
『俺は、幸に会って欲しいから、少し、付き合って。』
しばらくそのままでいたら、身体を少し離されて。父はさっき自分が入ってきた扉の方を見て、そう言った。
もう、顔もぼやけてきた人が、目の前に現れる。
『ぉかあ、さん?』
『幸。1人にして、ごめんね』
『お母さん、もうすく、幸の傍にいられるようになりそうなんだ。』
消えかけてたピースがハマっていく。
声、背格好、顔。
自分の記憶の中にいた母より少し老けてて、痩せてる気がした。
全部自分の想像の中の母親の像だったんだって、思った。
『一緒に住めるってこと?』
『うん。そう』
『おれ、母さんに酷いこと言った。おれが父さんと一緒に居られないのは、母さんのせいだと思ってて、それで 』
『いいよ、幸の気持ち教えて?』
『お、れは、ずっと』
『母さんと、父さんと一緒に居たかった!』
『瞬が俺の事を家族だって言ってくれても実感が湧かなくて。癖とか、ちょっとしたことが俺とは違くて、やっぱり母さんと一緒に住みたい!家に帰ったら、母さんと父さんが出迎えてくれる家に行きたい!』
俺今まで嘘ついてた。ごめんね瞬。
全部気持ちを吐き出した時、母さんが俺を抱きしめてくれた。今日はたくさんの人が俺を抱きしめてくれるな。
母さんのハグはすっごく気持ちがいい。
瞬は、 暖かい。
父さんは、おっきい。
母さんは、幸せな気持ちになる。
『一緒に住もう』
『僕たちと一緒に、家に帰ろう。』
『こんなに大きくなるまで待たせて、ごめんね』
『大好き』
ずっと憧れてた。
親からの愛情。
こんなに、美しいんだ。
この日やっと、笑えた。
なに、解決したみたいになってるんだよ。